KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

神本豊秋/再生建築研究所|東京都渋谷区|建築を再生し、変わり続ける場所をつくる。(1/2)

文・写真(明記以外):柴田直美

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ミナガワビレッジの再生

ミナガワビレッジは表参道駅から徒歩で数分の住宅地にあり、道路幅が狭く、向かいの家との距離も近い住宅スケールのエリアにある。4つのSOHOとカフェ、共有スペースとしてラウンジ・庭・キッチンで構成されているこの建物の始まりは60年前に遡る。
商業施設が立ち並ぶ表参道から一転、人が暮らしている感触を感じ取ることができるこの敷地に、1957年、皆川さんという方の自邸と手づくりの築山が新築された。その10年後には、敷地奥に下宿用アパート『皆川荘』増築、さらに2年後、自邸の道路に面した一部を取り壊し、新棟を増築。皆川さんが自身で庭に建てたコンクリートブロック造の書庫を含め、4棟が検査済証未所得の増改築や建築基準法の改正により、違法や既存不適格の部分を残したまま、建っていた。
現オーナーは皆川さん夫婦と下宿人たちの思い出や子どもの頃に庭の築山で遊んだ思い出を持つ皆川さんの甥。ミナガワビレッジを引き継いだ際に、この敷地の未来を決める事業コンペを行い、提案の中から、更地にするのではなく新築案ではなく、再生を提案する神本さんの案を選んだ。
案が採択されたあと、再生建築研究所チームはミナガワビレッジに住み込んで設計を進めた。神本さんが目指したのは、「用途のない建築」。「道路に面したカフェと中庭のオープンスペースは、人や情報の交差点として、目的なく滞在する場所を提供したかったからです。それはこの場所を良くするための仕組みです。テナントはいわゆる賃貸募集ではなく口コミで探しましたが、そういった昔ながらのコミュニケーションをミナガワビレッジでは大事にしたいと思っています。カフェとドーナツ屋さんを選ぶときもそうでしたが、視察をしてミナガワビレッジっぽいよねというのがオーナーさんの決め手となったキーワードです。」と語る。
完成がなく、再生し続けている建築として、どこまでが再生建築研究所がデザインしたかわからないくらい色がない建築としてミナガワビレッジは完成した。

 

道を行き交う人々とガラス越しに視線が交差するカフェがミナガワビレッジの表の顔。HIGUMA DoughnutとCoffee Wrightsでこだわりのドーナツと挽きたてのコーヒーが味わえる。
道を行き交う人々とガラス越しに視線が交差するカフェがミナガワビレッジの表の顔。HIGUMA DoughnutとCoffee Wrightsでこだわりのドーナツと挽きたてのコーヒーが味わえる。

 

設計活動とコンサルティング事業

小学校の時の卒業文集で日本一の建築家になりたいと書いたという神本さん。工務店を営んでいる親戚のおじさんを見て、「図面を書いて、施工もする、すごい職能だ。これは、ものづくりの最高峰だ!」と思ったという。その後、建築家を目指して近畿大学で学んでいた時、現在の日本の建物の平均寿命が30年となっているのは、建物は減価償却資産であるという不動産や銀行の貸し借りの仕組みが当てはめられているがRC造の建物は歴史が浅く、平均寿命が150年などの欧米と同様に再生できるのでは?ということに疑問を持った神本さんは、高校・大学研究室の先輩にあたる青木茂氏の大分事務所の門を叩き、インターンとして働き始める。青木茂氏は「リファイニング建築(=建築を再生させて建築の長寿命化を図る手法)」の提唱者であり、実践者である。
青木茂建築工房の大分事務所、福岡事務所で働いた後、青木茂氏の首都大学着任に伴った東京事務所設立に合わせて、上京した。青木茂建築工房で8年の学びを得て、2012年、神本豊秋建築設計事務所を設立。独立後、東京大学の川添研究室で東京大学総合図書館の再生を研究員として主担当し、数年間止まっていた難題を法的に実現させ、中山英之氏の設計を手伝った際、デザインをする建築家だけではなく、コンサルタントとして参画すれば、より多くの建物を再生できるのはないかと、再生建築の仕組みを提供するプラットフォームとして再生建築研究所を立ち上げた。ミナガワビレッジは今回の再生によって、2018年7月に60年ぶりに検査済証を再取得し、資産価値も向上した。
建築家デザイナーとしての神本豊秋建築設計事務所と、事業実現のためのコンサルティングを行う再生建築研究所を分けて活動している神本さんだが、ミナガワビレッジのようにコンサルティングも設計も行うプロジェクトの場合、再生建築研究所としてコンサルティングをしている時にはスタッフの意見を多く引き上げ、神本豊秋建築設計事務所としてデザインをする時には個人の責任として、その両義性を楽しんでいるそうだ。
「再生建築のコンサルティング業が必要とされている職能だという実感がありますか」と問うと、「建物の平均寿命を40年、50年と伸ばしていける再生建築の手法を持って、ひとつずつ建築を再生しても、日本の建築のストック数からして、焼け石に水。どうやって多くの建築を再生させられるかと考えた時にプラットフォームが必要だという実感は前職時代からずっと感じていました。特に特殊な法解釈を読み解いたり、用途や仕組みを提案し、取り壊されたり、実現不可だったプロジェクトを再生するという、設計事務所とは異なる職能だと思っています。」という神本さん。法規制にならう正しさとデザインとしての自由さを両立させ、その掛け算で白が黒になる瞬間を余白として昇華させているのが強みとなり、設計事務所時代でできなかったことができている実感もあるという。
「再生建築には、新と旧、共同住宅(特定用途)とオフィス(非特定用途)、工業製品と自然素材、事業性とデザイン性、そういったもの相反するものが多く含まれます。その境界を融解させることをどれだけできるのか、ということを目指しています。」

 

共用ラウンジ、オフィスなどの棟が中庭にある築山を囲んで立つ。以前の建物で中庭が交流の場だったように、現在も中庭が交流の場である。(撮影:長谷川健太)
共用ラウンジ、オフィスなどの棟が中庭にある築山を囲んで立つ。以前の建物で中庭が交流の場だったように、現在も中庭が交流の場である。(撮影:長谷川健太)

 

2018年に開催されたミナガワビレッジの餅つきの様子。(撮影:再生建築研究所)
2018年に開催されたミナガワビレッジの餅つきの様子。(撮影:再生建築研究所)

 

過去と未来をつなぐための設計とその運営

再生建築研究所は、再生し続けるプラットフォームとしてのミナガワビレッジをつくるために、10年間、運営者としてミナガワビレッジに入居し、他のテナントと一緒にミナガワビレッジの歴史をつないでいくことになっている。運営をしたのは初めてでかつ思いつきだ、と神本さんはいうが、デザイナーとしての一過性の関わりではなく、このミナガワビレッジではどのような暮らしがされていたか、これからどのような場所にしていきたいかを考えて、月1回のオーナーを交えた運営会議や、入居者でお茶会を兼ねてミナガワビレッジ集会を開催している。
「僕らが運営に入るからには、ビジネスとして儲ける運営をしたいのではなく、ミナガワビレッジの空間をつくるためのコミュニケーションとしての運営を行うことの塩梅は難しいですね。」と神本さん。大体的に広告をせずできるだけ自然発生的に広まるようオペレーションも工夫し、賑わいすぎて近隣から苦情が来たりしないようなチューニングをするという難しさも感じているそうだ。

再生建築の思考のプロセスは考古学的ともいえ、設備や構造も含めた過去に遡り、未来を横断して設計していくもので、新築、リノベーションと違う、第3の設計といえるくらい別のものとのこと。今後は再生建築基準法という法律ができてもいいのでは、と神本さんは提案する。
現在、再生建築を実現するには、新築のための法律である建築基準法をもとに緩和規定を適用していくしかなく、再生に関する条文はないそうである。経済活動を優先する時代が終焉を迎えつつある現代において、新築を念頭に置いてきた建築界も変わりつつある。「再生建築」が軽やかに法規制の読み替えを行なっている様子に、未来を感じずにはいられない。

 

オフィス棟の中心は吹き抜けの共有スペース。外断熱にしたことにより、小屋組をそのまま現しにすることが可能になり、開放的な空間になっている。
オフィス棟の中心は吹き抜けの共有スペース。外断熱にしたことにより、小屋組をそのまま現しにすることが可能になり、開放的な空間になっている。

 

キャプション:再生建築研究所の上海視察での集合写真。
再生建築研究所の上海視察での集合写真。

 

 

再生建築研究所

再生建築研究所 代表の神本豊秋さん

再生建築研究所 代表の神本豊秋さん

再生建築研究所からのメッセージ

私たち再生建築研究所では、新築でも既存改修でもない、新旧の調停から生まれる全く新しい空間の実現を提供しています。そのため「再生建築」という言葉自体、あまり聞き慣れないという方が多いかもしれません。

当社が手掛けるのは、「不可能を可能に」をテーマに一般的には再生不可能と判断されたエリアや、古い建物にリサーチや事業収支を行い、プロジェクトを実現させること。そして、その地域や建物の価値を紡ぎながら、新しい命を吹き込み、新たな価値を見出すこと。例えば、建築時に適法だったものの現在の法令では違法となっている建物を、適合できるよう刷新する。このように歴史を経た建物のデメリットを解消し新築以上の価値を持つ建物へと、私たちは数多く生まれ変わらせてきました。通常のリノベーションとは異なり、再生建築ならではの高いハードルがあるため、現状では大規模建築業者でも乗り越えられないため、規模が大きな案件も多数あります。弊社への依頼は、設計事務所にありがちな「◯◯の用途を何室確保してほしい」という要望でなく、「(この土地、この建物を)どのように再生すべきか?」というスタートラインからの提案要望が多いため、コンサルタントやブランディングから収支計画を踏まえた水上のプロジェクト提案が多いことが特徴です。

プロジェクトを進める中で、再生という特殊領域に特化し続けてきた当社は、大手のクライアントから特命で依頼をいただくことが多く、他社にはない価値提供を実現しています。「建築の不可能を可能に」を理念に、再生不可能とされた数多くの既存建築を再生してきました。これからの建築業界の中で、“再生建築”をコンサルタントと意匠設計の両輪で必要不可欠な存在として着実に根付かせていきたいと考えています。

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