KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

エルアンドシーデザイン|岐阜県養老郡養老町|養老と世界を繋げる(2/2)

文・写真(明記以外):柴田直美

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養老プロジェクト

[ 岐阜県養老郡養老町 2007〜 ]

エルアンドシーデザイン ウェブサイト

築160年の古民家は、エルアンドシーデザイン安田綾香さんの曽祖父が構えた居であり、父(安田昌宏)の生家。地域のお祭り「高田祭」の会所として使うことと、家族の別荘として使うことを念頭に2007年に母屋を全面改修。現代の生活にふさわしいクオリティを持ち込みつつ、非日常的なデザインとして露天風呂や茶室などを配置した贅沢な空間として設計された。

いっぽう、敷地内には2つの蔵があり、母屋の完成後10年、そろそろ蔵も改修が必要になり、母屋と蔵の運用した「町に開く建築として作りたい」と考え始めたそう。

地域活性化の拠点として長く使われていく場所とするため、建物の良さをどう生かせるかを考えつつ、養老の良さを発見するという作業も始めた。敷地にもっとも近い養老の文化資源は、養老天命反転地(設計:荒川修作+マドリン・ギンズ)。ここは帰省のたびに、子どもたちを連れて行っている、安田さんにとって馴染みの場所であり、「アート」が世界に向けて養老の良さを伝えるキーワードになるのでは、と考えた安田さんは、養老を世界に発信するために、海外アーティストを招聘するアーティスト・レジデンシーを立ち上げた。

その拠点として蔵の改修が行われ、1階の居間は、地域の人との寄合やレジデンスの成果を展示するギャラリーにもなる空間。1階と2階の吹き抜けを囲むように、2階には寝室とバスルームが配置され、今後、複数組のレジデンスアーティストを同時に受け入れるために、2階上の小屋裏も使えるように改修。海外のアーティストが滞在することを想定し、日本文化である障子や畳を多用している。

また、日本庭園を挟んだ母屋とこれから改修予定のもうひとつの蔵の関係性において、家族が使うこともある母屋での生活が干渉しないような位置関係を考えて、蔵の居間の中心をずらし、庭に向けてはテラスを拡張したデザインとなっている。別荘としてたまに滞在するだけでなく、継続的に使える場所とするため、もうひとつの蔵の活用方法を考えながら改修を計画中。

 

敷地面積:803.40 ㎡
母屋 木造2階建/延床面積:321.83 ㎡/改修竣工:2007年
蔵 木造2階建/延床面積142.00㎡/改修竣工:2018年

 

[ 写真提供:エルアンドシーデザイン ]

 

アーティスト・イン・レジデンス・プログラム  Made in YORO !「メイドイン・ヨーロー!」

AIR Program 「Made in YORO ! メイドイン・ヨーロー!養老の魅力をさぐる2日間」展

The Futureというオランダのユニット、クララ・ファン・ダウケレンとヴィンセント・スキッパーと早稲田大学建築学科古谷・藤井研究室の協力を得て、2016年9月に参加型ワークショップ「養老の魅力を探る2 日間」が開催された。先入観のない眼差しで捉えた「ありのままの養老」から魅力を見つけ出していく過程として、養老の町へ出て魅力を探すフィールドワーク、町の人と意見を交換する座談会、養老の魅力を語るプレゼンテーションで構成され、その記録をThe Futureがアート作品として本にまとめた。

その後、教育委員会のバックアップによってアーティストを招聘するなど、徐々に地域と連携しながら、蔵を拠点とした「Made in YORO ! メイドイン・ヨーロー!( https://www.facebook.com/madeinyoro/ )」プロジェクトを行なっている。

 

  • 平面図

[ 写真提供:エルアンドシーデザイン ]

 

透き間の家

[ 千葉市中央区, 2013 ]

透き間の家

間口16.2m、高さ4.4mの擁壁の上に位置する敷地からは、南東に広がるすばらしい景色を望むことができるが、安易に部屋をこの眺めに対峙させず、建物のボリュームを分割し、その隙間にまるで路地のような外部的な通路を挿入している。加えて、天井の高さ、各所の素材、窓の位置や寸法などを慎重に操作することによって、多様なシーンを生み出し、さまざまな体験が得られるような空間を実現した。さらに各空間どうしの繋がりをデザインすることで、どこにいても家族の気配が感じられ、また家族の成長と共に柔軟に変化させていけるよう配慮している。

 

[ 写真提供:エルアンドシーデザイン ]

 

LIGNE(リーニュ)

[ 長野県軽井沢町, 2015 ]

四季折々の美しい自然に囲まれた別荘計画。100平米のシンプルな矩形の切り妻空間に、ゆるかやなライン(LIGNE)を描いた真っ白な漆喰塗りの自立壁を配置して各室が間仕切られている。長い壁には様々な形状や仕上げの開口部がまるで作品展示のように配置されており、やわらかい光と共に非日常空間を演出している。さらに梁や柱を内部にいっさい出さないことで実現した奥行きあるダイナミックな空間も、非日常感をより一層際立たせている。どこにいても外の美しい景色が心地よく感じられるように開口デザインや床レベルの設計も細やかに行っている。造作家具は施主所有の1700~1800年代のフレンチアンティークに合わせてすべてオリジナルデザインで製作。また照明器具や水洗金物、ドア金物などあらゆるものを厳選して配置することで、そのすべてがギャラリーに配置された作品であるかのように感じ取れるよう配慮している。アンティーク家具の持つ美しいライン(LIGNE)に呼応するカタチで、それらを包み込むように佇む大壁が印象的。

 

[ 写真提供:エルアンドシーデザイン ]

 

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