2025年10月13日(月)に閉幕した、「2025年大阪・関西万博」での休憩所他設計業務の公募型プロポーザルにて選ばれた20組の建築家が出展していた、TOTO ギャラリー間で開催された「新しい建築の当事者たち」展をご覧になられた方も多かったのではないだろうか。その出展作家の一人である、浜田晶則さん(浜田晶則建築設計事務所)は東京と出身地の富山県魚津市の2拠点で、また teamLab Architectsパートナーとしても活動している建築家である。ある日流れてきたsnsで綴られていた浜田さんのある種の宣言のような思いが頭にずっと残っており、もっとお話を聞いてみたいと思い取材させていただいた。万博の「土の峡谷」*1のその後にある浜田さんが描く未来、目指す建築をご紹介します。
浜田さんは、コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法で、建築やデジタルアート作品をつくる傍ら、デジタルテクノロジーと自然素材をアップデートさせることにより、生命的な建築ができるのではないかと、地球環境の問題も考えて土の研究もされている。2023年の『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH』で出展した、土を利用して3Dプリンター等で製作した「土の群島」は、展示終了後に再び大地へかえす循環型インスタレーションで、人と機械と自然の共生というヴィジョンを掲げた土のプロジェクトである。さまざまな形状のオブジェが芝生広場に浮かぶ群島のように配置され、地層のようなオブジェもあり、まるでジオパークで子どもたちが遊んでいるような風景が印象的だった。
続く万博での「土の峡谷」では、その場所の土でつくる地産地消の建築をめざし、同じく土を出力することが可能なイタリアのWASP社の建設用3Dプリンターを用いて、富山の工場で実験を重ね、日本の伝統構法である土壁から学んで材料を選定し、強度やプリントのしやすさだけでなく、全て日本国内で入手できて解体時に全て自然に還せることを条件に素材を選んだ。外装パネル、ベンチプランター、土ブロック、手洗い台を3Dプリンターで製作し、移動方法や施工手順なども検討し、完成に至っている。しかも万博が終了した今も継続して材料研究をされており、昨年の11月半ばにはほぼコンクリートに近い圧縮強度と曲げ強度が出たそうだ。「コンクリートはすでに工業化されていて、どんな材料でどこから持ってきたものか分かっています。次の段階のものとして、その土地の土、マグネシウム系の硬化剤のレシピで製作すればその場で作れるので、3Dプリンティングだけではなく基礎やパネル等も将来的に作れるんです。このような新たな自然素材のコンクリートを『Earthen Concrete』と言っているのですが、環境負荷に対してセメントを使わないので、建築が出すCO2 が劇的に減り、輸送も減っていくというような材料研究がまず一つの軸としてできています。それにプラスして、ロボティクスによる3Dプリンティングという構法・構造との合わせ技で研究を進めています。」と浜田さん。そして将来的に、これらの技術を用いてプロジェクトとして進めているのが、今回紹介する分散型の短期滞在拠点「ONEBIENT」である。
富山の工場の様子 ©式場あすか
「ONEBIENT」は、2021年にリリースをすでに出していたが、世の中の情勢等の影響もあり計画のままであったものを、チーム編成を見直し、メンバーを再編して現在リスタートしている。それが滋賀県大津市の葛川にある、昔からの茅ぶき屋根の民家がある集落で進行中だ。里道の奥の山しかない、お寺や石塀が残っている場所に、茅ぶき屋根の形状はそのまま生かしながらコンクリートで作り直し、山と一体となるような植栽の生息地のような建物である。一棟貸しで部屋は一室のみで、室内に入るとすぐお風呂があるので湿度調整しながら輻射冷暖房も入れている。厳しい寒さ対策に薪ボイラーを用いた床暖房も備えつつ、囲炉裏も設けているので鍋を囲むことができるような配置計画になっている。浜田さんがたまたま滋賀の湖畔近くで場所を探していた時に、近くに比良山荘という、春は山菜、夏は鮎、秋は松茸、冬は鍋(熊や猪)といった山の辺料理の料亭があることを思い出し、タイミングも合ったこともあり食事をすることができたそうだ。その際、大将に自分の思想をお伝えしたところ、彼もこのエリアを「食の村」にしたいという思いがあり共感してくださったとのことで、一緒に何か協力し合い、お互い送客し合いましょうと少しずつ構想を練ってきた。比良山荘は昔から2階が旅館で泊まれたのだが、コロナで宿泊はもう辞めていたこと、京都から食通の方達が多く通ってくることから、お客さんが喜んで泊まっても良いと思えるところを作れればいいと考えていたところ、ちょうど近くで良い場所が見つかった。
「ONEBIENT 比良」の室内の様子。手前左にお風呂、奥にはシャワーブースが備えられている
「ここでは土地の土を使ったタイルや土壁を使うのですが、型枠も土でできたら良いと思っています。本来はほぼ土で建てたいのですが、崖地なので条例の関係もあり、コンクリートで考えています。ただ人間のためだけではなくて、もう少し自然界といったところもデザインするようなあたたかなイメージのものになります。今回は比良山荘さんに合わせた、少し高級な宿泊施設になってしまうのですが、高級と言っても素材が本物であることにこだわっています。例えば、郷土飯の朝ごはんであったり土壁を使う等、昔は自然で当たり前だったものが、本当の贅沢さであったり上質さになっていくと考えています。そういうものが手に入りにくくなっているからこそ、わざわざみんなここに来て、その上質な空間を体験するみたいなことができるのではないのかと。また、デジタルアートがあることも非常に重要なポイントになっています。自然の体験をどう拡張するか、音だったり、光だったり。ただ民家での滞在を体感するだけではなく、デジタルで統合されたものが、室内にいても屋外にいるかのような体験ができるとか、感覚をどう研ぎ澄ませられるかみたいなものを、マテリアルだけではなく、光や音によっても五感に訴えかける感覚を与えるようなものができるのではないかと考えています。
また、滋賀のプロジェクトを一事例として、普及版のようなものができたらいいなと思っています。あくまでもショーケースとして、こういう世界観を伝えたいという思いがまずあります。地方への移住等も急にはできませんので、何か体験施設として宿泊で短期滞在ができるとか、事業的にもそれを作るための資金を集めるところも設計しないといけません。そういった意味で宿泊はある種事業に乗せやすいので、そういうところからまず始めて、移住したい人には住宅棟みたいなものができていく、というように少しずつ集落のようになっていくといいなと考えています。」
「ONEBIENT 比良」の室内の様子。土壁と土タイルが使用されている。窓際には囲炉裏があり、外の景色を見ながら食事を楽しめる
実は「ONEBIENT」プロジェクトは滋賀だけではなく、秋田県の大自然に恵まれた場所に、公共に開らかれるレストランが併設する、環境負荷が少ない4部屋の宿泊施設を計画しているそうだ。滋賀が秘境を知っている人が訪れる地とすると、こちらは食を始め大自然や観光を目的に楽しめる開けた地である。滋賀で取り組んでいることをアップデートしたものを、ここでまた一つ一つしっかり作っていく。こちらは平地で滋賀のような制限がないこともあり、できる限り土を用いて建築で作っていく予定だという。
「土のプロジェクトは、都市でも実現できると思いますが、地方の農村の方が風景にもあうだろうと思っていました。都市という発明のオルタナティブとして、地方の農村や漁村などの集落が生存することや、本質的な暮らしのあり方を考えていきたい。それがちょうど自分たちが富山に工場を持ったことも含めて、地方都市での拠点を使って生産にも研究開発にも取り組んでいくことは、ある種の決意表明だったのかもしれません。その土地の自然素材に囲まれながら生活するのが一番健康にも良いだろうし、人間にとっても、かつその周辺の生態系や地球全体にも良いのではないかと考えていて、環境との応答と身体感覚の拡張というテーマを建築(ONEBIENT)を通してできるといいなと考えています。
安宅和人氏の著書、『「風の谷」という希望――残すに値する未来をつくる』(英治出版)では、「疎空間」でいかに生活可能かということが書いてあるのですが、僕らもその思想に非常に共感しているところもあり、建築でできることというよりは、集落レベルの小さな都市計画的なものを考えないといけないかもしれない。僕が今考えているのは、土の研究も含めて土の集落みたいなものが作れるといいと思っていて、それをONEBIENTのプロジェクトを通して実践していきたいです。浄化槽でも、下水の処理を河川に流さずに、敷地内の土に少しずつ染み出していくようなやり方もあるのですが、人間の行為によって結果的に周辺の土壌が良くなり、そこで畑を耕すという循環も可能です。建材のための土と食物のための土。それが人間が生きることよって循環していくという良いサイクルがつくれるのではないかと考えています。そういうベースとなる土壌と言うか、建築や生活の基礎と言うのでしょうか、この土の上にどう住むか、それと共にどう生きていくかということを構想していて、その一つ一つの要素技術を少しずつ研究しています。」
この地域の茅ぶき屋根の形状を残しつつ、周囲の環境に溶け込むような一棟貸しの建物
浜田さんがこれまで学ばれてきたこと、2拠点での活動、建築家として、teamLab Architectsのパートナーとして、実績を積まれてきたことがギュッと凝縮された世界観が現れているプロジェクトが「ONEBIENT」ではないだろうか。コンピュテーショナルデザイン、デジタルアート等のイメージが強いのだが、先端的なデジタルの手法を用いた作品はもちろん、その土地にすでにあったかのように感じる作品が多いのも特徴である。そして今研究されていることを、建物だけではなく、周辺環境(自然や土壌)を考え、集落を残したり、再生しようとすることまでを考えている。今後いろいろな地で発展していく「ONEBIENT」で滞在した人たちが、その地を気に入り暮らしに共感して移住したり、考えに賛同する人たちが集まって維持していく、もしくは賛同する人たちの中で自分の住む土地で取り入れていきたいという循環が起こり、小さな集落が日本各地で残り、それが少しずつでも増えていけば、森林の循環も保全にもつながるだろう。それは単なる理想ではなく、少しずつだが地方都市で地元の人たちを始め、移住した人たちが小さいコミュニティを作りながらその土地や文化を支えたり、危機感を感じ活性化させるような活動が増えている今だからこそ、浜田さんの描く土の都市計画は自然で現実的であるように思える。
また、「ONEBIENT」は構想から入っており、クライアントからの依頼ではなく、こういうものが社会にあったらいいのではないかということを自ら作ったビジョンドリブンのプロジェクトである。
「待ってるだけでは何も始まらないですし、自分たちで自分たちのプロジェクトを作っていくのが現代は必要かもしれません。「ONEBIENT」は、自然の中に建つことによって、その場所が劣化していくのではなく、少しずつ改善されて維持されていく、そういう思想です。一度絵を作ってビジョンを描いて人に話すようになると、少しずつ実現に近づいてきました。秋田県の「ONEBIENT」なども実現に向けて動いています。何かを発信すると、見てくれる人は見てくれますし、共感が生まれてつながっていくことを改めて実感しています。そこでどう実現するかというところで、社会実装のための事業性や事業計画を作れるチームがジョインして実現に向けて加速しています。建築の専門家だけではなく、実現に向けて様々な専門家とチームを組む、そういう在り方はとても大事だと実感しています。」
海外の建築家は実現するなしに関わらず提案型のプロジェクトを発表していることが多いのだが、浜田さんのこのような活動も、snsでのメッセージと共に時代を感じる。インターネットの普及であらゆる情報がすぐに手に入る今だからこそ、大々的ではなくとも発信まで自らプロデュースしていくことは、仕事を作っていくことと同様に必要になっていくのではないだろうか。まずは滋賀の「ONEBIENT 比良」で、浜田さんの世界観を体験してみたい。そしてそこから広がっていく循環型社会がどのような形になっていくのか、今から楽しみである。
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