審査委員と受賞者の記念撮影

審査結果発表
審査委員長総評

本コンペの審査員を務めるのは、今年で5回目である。これまで本コンペでは、戸建て住宅のさまざまなあり方を課題にしてきた。今年の「世代をつなぐ家」という課題は、進行する人口減少と高齢化に対して、どのような住宅がふさわしいだろうかという問題提起から生まれた。

高齢化は、世帯当たり人数が2人以下という統計結果に現れている。いわゆる老人の単身者世帯の増加である。他方で、ハウスメーカーやディベロッパーは、地価の上昇に対する対応策として、さまざまな形の複合世帯住宅を提案している。このような一見対照的な潮流を統合するような住宅のあり方は考えられないだろうか。そんな疑問から「世代をつなぐ家」という課題が生まれたのである。

「家族」という言葉にこだわらなかったのは、家族以外にも共同で住めるような住宅もありうると考えたからである。最近では、シェアハウスというタイプの住宅が生まれているが、あくまで集合住宅としてである。集合住宅ではなく、戸建て住宅でありながら、複数の家族メンバーが住めるような住宅。しかし戦前の大家族制度とははっきりと異なる住宅はあり得ないだろうか。

現代の民主社会では、男女の差別や親から子供へといった序列はもはや存在しない。家族のメンバーは自立した個人として存在している。そこでは小さな子供たちでさえ自立した個人として認められるだろう。現代の複合家族は、自立する個人の緩やかな集合体となるだろう。世代が異なれば生活様式も異なるから、家族のメンバーが住む空間の質も異なるだろう。世代の異なる家族と、家族のそれぞれのメンバーが互いに認め合い、支え合って生活できるフレキシブルな住宅。将来にはシェアハウスにも転用されるかもしれない可能性のある住宅。そのような意外性をはらんだ「世代をつなぐ家」の多様な可能性の提案を期待したのである。

結果として、応募作品の多くは、個室的な単位空間をいかに集合させるかというテーマを追求していた。個の集合として住宅を考えるというコンペ趣旨文を、そのまま受け入れたからだと思う。コンペの趣旨に対し、批評的なスタンスで取り組んだ提案が見られなかったのはやや心残りである。しかし5年目のコンペにおいて、初めて二人の審査員とユニバーサルホーム商品開発部のメンバーの評価が一致したことは、このコンペが成熟したことの表れではないかと思う。

 

■最優秀賞

「窓辺のプラットフォーム」

松本 晃一 (フリーランス)

審査委員長講評
「プラットフォーム」というコンセプトに注目したことが決定的だと思う。おそらく応募者自身も考えたと思うが、プラットフォームという言葉には、移動する電車が一時停車するプラットフォームという通常の意味と、コンピュータのハードウェアやオペレーティングシステムなどの基盤となる前提条件という目に見えない現代的な意味が重なり合っている。この案では、そのような二重のコンセプトに基づいて、かつては線路だった線状の敷地に、現代住宅における「動的な仮設性」と「静的な基盤性」という二つの意味を、線状の空間に埋め込んでいる。個人の活動に対応する多様な空間ユニットを、土間空間を挟んで線状に並列し、一つの屋根によって柔らかく結合することによって建築化している点が見事である。

■ユニバーサルホーム賞

「路地なかの家」

野尻 勇気 (多摩美術大学美術学部環境デザイン学科)
田丸 文菜 (多摩美術大学美術学部環境デザイン学科)

審査委員長講評
この案も「路地」というコンセプトに注目した点が決定的である。「プラットフォーム」のクールで現代的なイメージに比較すると、「路地」はややアルカイックで懐かしさを連想させる。移動よりも滞留をめざしている点においても、最優秀案とは対照的である。箱型の大きな空間内に、塔状の二つの箱を不規則に配置し、階段によって立体的に結びつけることによって、周囲に路地のような空間をうみ出している。手描きによる絵本のような表現が、路地のような空間の詩的で優しい雰囲気を醸し出している。

■クリナップ賞

「拠り所が移ろう家」

丸山 裕貴 (勝亦・丸山建築計画事務所)

審査委員長講評
長方形平面を3×5グリッドによって15の正方形の空間に分割し、それぞれに機能を与えたダイアグラマティックな提案である。15の単位空間を仕切る壁に開けられた開口のサイズや位置に微妙な変化を与えることによって、内外空間を相互に絡み合わせながら、さまざまな機能と用途に対応するフレキシブルな場所をつくり出している。どことなく既視感のある手法だが、どことなく古典的な感性を感じさせる。

■優秀賞

「1人1箱
 ― 躯体と分離した個室による緩やかな集合体 ―」

金沢 将(フリーランス)

審査委員長講評
「拠り所が移ろう家」に似たコンセプトだが、2×5グリッドによって10個の同一サイズの空間に柔らかく分割し、高さ方向に規則的な変化を与えて一室空間化している。緩やかに分割された空間内に、個に対応する箱状の空間を入れ子状に配置して空間を仕切り、変化を与えようとしている。しかしグリッド空間と箱空間が完全に分節しているため、空間がやや単調になっている点が惜しまれる。

「居心地を求めて」

伊藤 信舞 (芝浦工業大学 大学院)

審査委員長講評
平坦な床の一部を彫り込んだ一室空間でありながら、天井からの垂れ壁の高さに変化を与えることによって、心理的な領域感覚をうみ出そうとした提案である。間仕切壁を使わない空間の分節法を追求した興味深い提案だが、本コンペの課題「世代をつなぐ家」への回答としては、コンテクストが今一理解しにくい。

「ちゃぶ台の家」

邊見 栄俊 (アルケワークショップ)

審査委員長講評
正方形平面を3×3グリッドで9個に分割し、窓際や壁の交差部分に「ちゃぶ台」のような「虚」の空間を差し込むことによって、仕切りながら繋ごうとする、きわめてダイアグラマティックな案である。論理的な操作による個の連結手法としては興味深いが、2層上下の連結にまで展開していない点が惜しまれる。

■特別賞

「ゆめのおうち」

菅原卓哉 (株式会社アラタ工業)
尾形友也 (株式会社アラタ工業)
佐藤勝哉 (株式会社アラタ工業)
鳴海芽夏 (株式会社アラタ工業)


「We can get the family together and eat on the weekends.」

木下 忠斎 (株式会社ユニバーサルホーム)
三木 弥生 (株式会社ユニバーサルホーム)

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