KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

山雄和真+ワイル・アル・アワー+寺本健一/waiwai 世界で建築を建てる(1/2)

文:柴田直美 写真・図版(明記以外):waiwai

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「建てるために」集まった3人

東京とドバイを拠点にした活動にしているwaiwaiは、CAt(シーラカンスアンドアソシエイツ トウキョウ)で実務経験を積んだ3人、ワイルさん、寺本健一さん、山雄和真さんが始めた建築設計事務所である。山雄さんとワイルさんがCAtで働き始めて最初に担当したプロジェクトは、すでにCAtで働き始めていた寺本さんと3人で、キルギス・カザフスタン・タジキスタンで中央アジア大学(University of Central Asia)をつくるプロジェクトであった。打ち合わせ場所はドバイやウィーン、参加者は日本やカナダから来ているといったプロジェクトで、それが最初のプロジェクトだった山雄さんにとってはその状況がスタンダードになったという。それぞれがCAtから独立した後は、ワイルさんと寺本さんがドバイで、山雄さんが東京で建築設計事務所を設立し、活動していた。CAtで働いていた時に世界各地のプロジェクトを担当した経験から、世界のどこでも建築活動ができるという自信を得たと話す3人。複数の設計拠点を持つことで、単純に足し算になるのではなく、思わぬケミストリーが起きて、2、3倍のことができるのではないか、と、2018年10月に東京とドバイを拠点にする建築設計事務所waiwaiを立ち上げた。

山雄さんは「CAtで働いていたので、同社代表の小嶋一浩さんがそうだったように、実作をつくることに3人ともこだわっています。実作をつくることができる状況に自分を置き、いかに建てるか、を常に考えて、実践の場に身を置くことを重要視しています。」と話す。3人の中で最初に独立していたワイルさんが、出身地のレバノンではなくドバイで事務所を始めた理由も、CAt在籍時にドバイのプロジェクトを担当した際、いろいろな物事が動いていて、外国人でもプロジェクトをできるという確信を得て、ドバイを拠点に建築をつくることの可能性を感じられたから。中央アジア大学のプロジェクトの時もドバイがハブだったし、建築家として建てることに便利、と寺本さんも続ける。パートナーシップ制を採用し、多様な意見で建築をつくるシーラカンスアンドアソシエイツで得た経験を活かし、「建てるために」3人が集まった。

多種多様なスタッフ多種多様なスタッフがそろっている

 

世界をどう観察し、固有のデザインをするか

「敷地を訪れて、建築家としての視点で観察をすることから始めます。現地ではどのように建築が建つのかなども調べますが、一般論的な文化ではなく、いかにそこにいる人にセンシティブになれるかということが大事です。」と山雄さんはいう。建築家としてデザイン案を出すことよりも、まず現地にいる人と仲良くなって、その土地のことを徹底的に観察。そして、決まったやり方を繰り返すことはしない。彼らはその「cultural sensitivity(文化的感受性)」を大事にし、ステレオタイプを適用することはしない、と言い切る。それはアイコニックなデザインをしないということではなく、「現地の文化や地域性、自然環境のアイデンティティを翻訳したパラメータなどから特徴的な形態が与えられるなど、個々のプロジェクト自体でシンボル性を持つことは重要。どのような場所に建っていても、どの建築家の作品かが一目で分かってしまうようなデザイン上のシグネチャーが全面に出ていなければ良い。」とワイルさんは説明する。

アートミュージアムのコンペ応募案東京・ドバイで共同設計したベイルートのアートミュージアムのコンペ応募案。構造設備のエンジニアリングとファサードデザインは東京側でチームを構成し、プロジェクト全体はドバイ主導で進めた

 

現代だからできる、多拠点を持つ働き方

「現代だからできる動きに可能性を感じている」と寺本さんは話す。例えば3人はアプリ「WhatsApp」のグループで仕事のやりとりを共有している。オンラインでずっと繋がっていることで、場所が違うことによるコミュニケーションの時差はほとんど感じないという。また、3人以外のスタッフが別の場所で働いていたとしてもそのやりとりを文字で追えるので、スタッフと机を囲んで改めて共有する必要もない。コンペに向けて日々アップデートしながら働くこともあるという。逆にローカル・プロジェクトであれば、あえて全部を共有せずに適宜報告することも。共有する情報量を調整しながら並走する働き方は現代的だと感じた。
人的リソースを共有できるのも2拠点にしていて良いことだという。中国で働いた経験がある人や日本の大学院を卒業した新卒の人など、ドバイで11名(日本人6人)、東京で6名のスタッフが働く。仕事量に合わせて、スタッフを移動させながらプロジェクトにあたる人数を調整することで、文化の違いを経験したスタッフが育つそうだ。またドバイのオフィスが知り合ったクライアントが日本でプロジェクトを行う際に東京オフィスが担当するなど、外部の人的ネットネークも共有できるのも良い点とのこと。

北海道の水上カフェ計画SDレビューに入選した北海道の水上カフェ計画

 

「ワイワイ」つくる

waiwaiは「ワイワイしよう」というオノマトペからとったそうだ。みんながいろいろなことを考える、自由な感じが気に入っているという。さまざまなコラボレーションで建築ができるので、人の名前だけの建築事務所名はフェアじゃないので嫌だった(ワイルさん)、カッコいいのか、カッコ悪いのかわからないけど、作品がカッコよければ、ワイワイがカッコよくなっていく(寺本さん)、など理由もそれぞれ。プロジェクトをリードしていく人が入れ替わったりしながら、プロジェクトが進んでいくのがおもしろくて、まさにワイワイしている感じ、と寺本さんはいう。waiwaiという名のこのオフィスを今後どんな活動をしていきたいか、を聞いてみると、建てることに固執し、実践を続けて、プロジェクトの規模も事務所の規模も大きくして、ウィルスのように分野も越えて、世界にどんどん広がっていくイメージが共有されているようである。
「世界のどこでもやれます」、そしてあえて「これが得意」といわないことで、いろいろなプロジェクトに出会っているという3人。それらが経験値として積み重なり、さらに大きな規模へと繋がる実感があるという。何かルールのようなものはあるのかと聞くと「スピードが落ちることやドライブしないことはしない(山雄さん)」、「最終的にはいいたいことをいう(寺本さん)」、「考えるための質問を投げかけることを続ける(ワイルさん)」と。話を伺っていると、お互いに、同じ事務所にいた信頼感をベースにさらにお互いを刺激しつつ成長していきたいという熱意をひしひしと感じるが、「簡単に同意しない(ワイルさん)」、「We agree to disagree(寺本さん)」、「安易にいいねといわない(山雄さん)」というコメントから、信頼感がありつつも全く同じことを考えてないという3人の間の差異をおもしろがりながら、そこに生まれる創造性を大事にしていると感じた。

 

waiwai

左から、寺本健一さん、Wael Al Awar(ワイル・アル・ アワー)さん、
山雄和真さん

 

waiwaiからのメッセージ

多様性の中で建築に関わっていきたいと考えています。
それぞれ出自や学んだ場所は違うもの、東京という場所で建築の仕事を始めた私たちはさまざまな意味で日本の誇るきわめて深く精度の高い世界をベースにしながら、一方でたまたま出会ったいくつかのプロジェクトを通じて、国や文化を超えた多様“すぎる”関係者の中で建築を考えていくことによって、プリミティブな建築の本質のようなものがあらわになる気配を感じていました。

東京とドバイという2つの場所は、日常の設計活動のローカルな拠点でもあり、同時にアジアの東端と西端に場所を持つことによって、その間と周辺に起こる出来事に常にかかわり続けられるという意味での足がかりとしての拠点でもあります。
それぞれ独立して事務所を運営していたのちにわざわざ統合する道を選んだのは、より多様に、より多くの人や場所と関わりながら、建築というどこまでもローカルな土地に根差した存在を考えていきたいという共通した思いがありました。

中東周辺では、ドバイ、アブダビ、サウジアラビア、レバノン、東~東南アジアでは、日本、フィリピン、マレーシア、インドネシアなど、着実にプロジェクトの広がりの実感が持てるようになってきています。

オフィスとしてのwaiwaiは現時点では2拠点ではありますが、拠点もプロジェクトも、今後どこが新たな場所になるのか自分たちでも楽しみにしています。