2016年まちに開いた事務所にしたいという想いから弊社事務所をこの第六南荘に移転した。表と裏を入れ替えるかたちでブロック塀を撤去、バルコニー側からのアクセスとして、前面道路に向けて顔をつくることにした。数年をかけて、1階はすべて同じかたちに整えることになった。建物の建替えにおいて、その場所にあった建物の様子や印象が消し去られることなく、上手く引き継がれることは稀である。60年もの間ここにあり続ける第六南荘では、地域に受け入れられやすい価値をつくりながら建替えることが重要だと感じた。
この場所に来てからの4年間で、1階南端に焼菓子屋ができ、その隣を2区画に分けてチーズ専門店と珈琲焙煎屋ができ、最後に訪問看護ステーションとお茶スタンドができた。店舗ができるごとに階段を加え、少しずつデッキを増やし、ベンチや裏庭も整えてきた。そして現在は自治組織ができて、定期的にイベントなども行われる場として今も変化し続けている。(文:藤木俊大)
【建築概要】構造:地上4階建てRC造、敷地面積:455.61㎡、建築面積:179.74㎡、延べ床面積:692.12㎡
川崎市高津区にある橘公園をPark-PFIの手法を用い、空間的な操作と愛着を生む試みの両輪で地域交流の拠点へ再生させていく取り組みである。
使われなくなっていた公園事務所を改修してあえて仕上げを施さず、既存の建物の躯体や床のレンガタイルをそのまま現しにして空間の素朴な魅力を引き出そうと考えた。これまで物理的に閉じていた建物の外壁には大きな開口を設け、イベント広場と一体利用できるように刷新し、そのぶん耐震補強を行なった。開口部には鉄骨のフレーム状の庇を設け、屋内外を緩やかにつなぎながら多様な過ごし方ができるようにしている。道路側にはカフェスタンドを新築し、視認性を高めたアイコン的な場所とした。
施設運営にあたっては、愛称の住民投票や地域から集めた古着を公園で使える生地としてアップサイクルする取り組みのほか、ボランティア組織の立ち上げ、実験的なWSなど、地域との協働を通じての持続的な場づくりを実践している。(文:藤木俊大)
構造:TACHIBANA HUT/地上2階建て・RC造 カフェスタンド/平屋建て・木造、延べ床面積:TACHIBANA HUT 332.45㎡ /カフェスタンド 22.93㎡
JR南武線武蔵新城駅のほど近く、商店街から少し入った細い道に面する東西に長い土地に建つ集合住宅である。われわれが2016年より地元オーナーと共に小さな居場所を複数つくってきたエリアに隣接する場所に建つ。
一般的な住戸を計画すると10戸程度となるところだが、この場所に建つ最大ボリュームの中で、20の住戸数を確保した。住宅として必要最低限なものだけで成立するよう計画した狭小住戸を積み重ね、1、2階をメゾネット住戸とすることで共用部を最小化し、周囲と関係をつくる屋外空間を建物周りに計画している。
ただ小さく合理的に住むだけではない、豊かさとはなんだろうかと考えたとき、今までにこの周辺につくってきた付加的機能(カフェやワークスペース)やまちの中にあった従来的機能(食堂や銭湯)を利用しながら、足りない機能をまちの中で選択して補完する「はなれ」のような暮らしが導き出された。(文:佐屋香織)
【建築概要】構造:地上3階建て・RC造、敷地面積:332.45㎡、建築面積:216.63㎡、延べ床面積:539.62㎡
柳川市を拠点とする企業の本社建て替え計画。事業とは別に地域向けのお祭りや教室を開催していた施主は、社員だけでなく地域の子どもや住民、多様な人であふれる開かれたオフィスを目指していた。
地盤が悪く水害の恐れもあることから、執務空間は2階に設け、1階の大半を多目的な開放空間とし、「ヒラクラウンジ」と名付けた地域開放スペースもここに配置した。エントランスに設けた可動ボックスは、状況に応じて商談やイベント時の店舗などとして使われている。
執務空間はフリーアドレスデスクを中心に多様なワークスペースを設けつつ、1階の賑わいから分離してしまわぬよう、段階的なレベル設定により上下階を緩やかにつなげている。仕事内容や気分によって居場所を選択することができる、地域とつながりながら働くオフィスを目指した。(文:藤木俊大)
【建築概要】構造:地上2階建て・鉄骨造・杭基礎、敷地面積:897.59㎡、建築面積:434.28㎡、延べ床面積:756.21㎡
川崎市宮前区にある花農家さんが、市バス停留所の目の前に花屋を出し、定期的に開催してきた「花の停留所」というイベントがある。自宅や庭を開放し、地域のお店や友人などが集まるこのイベントは、開催するごとにその強みを増してきた。この時限的なつながりを定着させ、新たな店舗を招き入れたプロジェクトが「街の停留所」である。敷地は第二種低層住居専用地域を含む住宅地エリアにあり、計画できる規模や用途に制限があることから、要望されたプログラムを飲食店・店舗2棟に分配し、ふたつの「広場」を確保するかたちで配置した。道路側の菓子棟には焼き菓子屋とパン屋、コーヒースタンドを設け、道路から直接アクセスできるよう計画し、敷地奥の花棟には花屋を中心にレンタルキッチン、雑貨屋を配置。小さなお店が複合的に集まることで、訪れる人との接点を増やしている。2棟は対になるようなデザインとし、角の柱をなくし、全面建具を開放すると外と連続するような空間となっている。(文:佐屋香織)
【建築概要】構造:地上2階建て・木造、敷地面積:花棟 185.42㎡ / 菓子棟 178.17㎡、建築面積:花棟 80.70㎡ / 菓子棟 63.76㎡、延べ床面積:花棟 147.39㎡ / 菓子棟 126.51㎡
今われわれの事務所は川崎市の公園内にあり、日々、子どもたちの声、鳥や虫の声、木々のざわめきや屋根に当たる雨音、車のクラクション、スケートボードの練習音までさまざまな音が聞こえてきます。
人類学者の木村大治さんは自身の著書の中でアフリカの集落での出来事にふれて、その集落の人びとは外で話してる人の声を聞いたら、その日その人とは一度「会った」という感覚になっているんだ、ということを書かれています。そしてその独特の感覚を「共在感覚」という言葉で表されていました。
デスクで図面に向かっていても聞こえてくる子どもたちの声に、これが共在感覚なのかなとぼんやり考えつつ、そしてこれがコミュニティの起りなのかもしれないとも思うようになりました。
ますます多様化が進む現在、この「共に在る」という感覚こそが大事なのかも知れません。建築ができて、関わる人が増え、その継続的な変化と関わる人たちとの総体がつくり出す場こそが、われわれが考える建築なのだと思います。みんな価値観は違うけれど、なんとなくこの場所いいよね、この空間素敵だなと思える、そんな公共と個人をつなぐものとしての建築をつくり続けていけたらと思います。
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