KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

津川恵理/ALTEMY|東京都渋谷区|社会に対して熱狂させる建築とは(2/2)

サンキタ広場 *5 

[兵庫県、神戸市、2021年]

帰国と独立のきっかけとなった『サンキタ広場の整備*4 のコンペで最優秀賞に選定された作品。ユネスコのデザイン都市に認定されている神戸市の再開発プロジェクトで、シンボルになるような場所でもあるので、人が主役になる場所を作りたいと臨んだ。
楕円の円盤を用いて地面から立ち上がっていくランドスケープのような彫塑的な建築を作ることで、多彩な公共空間での過ごし方を見出している。身体スケールを基にいろんな高さで様々な方向にもたれ合う事で成り立つ円盤は、遊び場やベンチとして、オフィスワーカーの仕事場、スロープを登り寝転がったり、ダンスをしたりと、訪れる人の数だけ広場での過ごし方が引き出される場を作った。
「100人いたら100通りの解釈、居方があってその状態が風景になっていく。建築が何かきっかけを作って、利用者自身も今までしなかったような状況に出会えたり、そうすることで他者がいることに何か豊かさを築けたりする、そういうものを建築で作り続けたいです。」

 

構造:float:アルミニウム合金造、sweep:鉄筋コンクリート・ステンレス鋼合成構造、land・lean:鉄筋コンクリート造/施工面積:555㎡

 

まちの保育園 南青山 *1 

[東京都、港区、2024年]

35歳以下のコンペで選定された港区のビル内にある認可保育園。保育園の中心部に隆起する緩やかな大地のような曲線で構成された、ランドスケープのような高低差のある床を設けた。保育園全体は明確な境界を設けず、仕切りが必要な部屋以外は隆起する床と平面の床で構成され、様々なシーンで使用される。認可ということもあり、自治体や行政との協議で大変苦労したが、ここが前例になればこの後続く建築家が少しでも開拓でき、デザインがオープンになればと戦い続けて実現した。
「保育園は子どもたちが1日の中で一番長く過ごしますが、ビル内保育は環境的に閉じているので、子どもたちの感性がちゃんと育まれるのだろうかと感じ、ここでしかできない感性が育つきっかけを建築で作りたかったんです。不定形な床によって、子どもたちは自由に全身を使ってこの場所の解釈をしていき、自分の居場所を見つけ、他者との距離感や関係を築いています。ひとりひとりが違い、考え方も違うように、全員違えば、違う解釈をしてる人もそれが面白さに見えてくる、そういう状態が私が作りたいささやかな熱狂なのかもしれないです。」

 

建築面積:381.63㎡/延床面積:381.63㎡

 

庭と織物——The Shades of Shadows *3 

[京都府、京都市、2024 - 2025年]

西陣の老舗「HOSOO」が運営する「HOSOO GALLERY」で日本庭園をテーマに生み出された、織物、映像、音からなる展覧会。リサーチ及び企画は日本庭園・能楽研究者の原瑠璃彦氏、織物共同開発及び空間構成はALTEMY、そしてHOSOOの西陣織の職人が協業し、日本庭園をテーマにした織物を製作。展示は「かげ」をテーマに、次の3つの作品で構成された。
HOSOOの工房の坪庭を一年通して3Dスキャンで点群データを取り、そのデータを基に4次元映像データを製作し、展示空間に投影した映像作品「4次元のかげ」。庭園の各月の点の変化量を抽出し、全ての動的な情報を点群データとして緻密に扱い、俯瞰して庭園を見たり、庭園の内部に入り込んだり、時間と共に変化していく様をシームレスに映像技術で繋いで、庭園の中に没入していく映像インスタレーション。
メインは点群データを基に設計された特殊な緯糸を用いた織物のインスタレーション「かげのかげ」。光弾性という現象を使うことで織物に色が生まれ、光が当たらないと透明な一重の織物を製作。1年を通した庭園の変化量のデータを基に織物に翻訳し、色彩が変化する織物で構成された展示空間を回遊すると、庭園が変化していく様相を感覚として感じ取れる。「織物は多層ですが一番上の表層が意匠デザインになります。西陣織は多重織で分厚く、その内部構造をルーペで覗き込んだときに西陣織の本質を感じました。織物の構造自体が意匠に昇華されるような織物を作りたかったのは、それが建築家が関わる意味になると思ったからです。今回開発した織物は、HOSOOさん史上初の一重織りで、袋織りにしたものを1枚剥がしています。これこそが西陣織が持ってる技術をそのまま意匠に転換するダイレクトなアプローチで、日本庭園の動的な状況も可視化できるのです。」
最後は、色を排除し織物の立体構造の「かげ」を純粋に浮かび上がらせる「色のない庭」。メイン展示の織物と同じものを、透明なフィルムを用いて、影として出てくる状態を展示。若干風を当てて躍動させ、影として動的なものを見る作品。

 

展示面積:220㎡
【期間】2024年12月7日(土)- 2025年3月16日(日)
【時間】10:30~18:00
【場所】HOSOO GALLERY
https://www.hosoogallery.jp/exhibitions/shades-of-shadows/

 

PARK IN PROGRESS

[石川県、金澤市、2025年]

金沢21世紀美術館という建築と対峙し、その空間に小さなトリックを仕掛けることで、訪れる人々は日常を疑うことになります。この展示を体験する度に、新しい発見と戸惑いが生まれるかもしれません。その魔法の効果は、あなた自身の感覚に委ねられています。空間がどのように語りかけてくるのか、その瞬間を体験できます。(金沢21世紀美術館 HPより転記)

 

【期間】2025年5月20日(火)- 2025年10月5日(日)
【時間】10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
【場所】金沢21世紀美術館 デザインギャラリー
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1835

 

津川恵理/ALTEMY

加藤優一(銭湯ぐらし/東北芸術工科大学/最上のくらし舎)

津川恵理さんからのメッセージ

建築は、建ってからがスタートです。「竣工後の動的な状況を如何に設計できるか。」これが今の私たちの主題になっています。
社会や都市を利用する多くの人を、「不特定多数」として大枠で括らずに、如何に100人居たら、100様の振舞い・居方へと拡がりを持ちうるのか、そういうキッカケになれるアーキテクチャを模索しています。
物をつくる行為は、素材や工法を決め、確固たる物質を世の中に生み出す行為です。同時に、静的な完結を迎える虚しさも感じてしまいます。

私たちが考えるアーキテクチャは、公共と個人の間に建つ建築の閾値を模索し、何かに偏り、定義されることなく、常に均衡の間に存在しつづけていてほしいです。それは、常に「IN PROGRESS」な状態であることを目指しているのだと思います。

気がついたら建築がもつ環境に関わっていて、その人ならではの建築との対話があり、身体を通して生まれる独自の情報が、また他者とつながるキッカケになる。そんな循環の中に存在する建築でありたいと考えています。

https://www.alt-emy.com/

 

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