積雪量がある寒冷地では機能・仕様の要件から、分厚い壁の四角い箱が良いとなりがちなところを予算とのバランスをみながら、違ったアプローチを実践している。1mの積雪は風景を変えるが、2-3mの積雪のように建物がまるごと埋もれてしまうわけではない。そのあたりに雪と共存するデザインの余地を感じているという。独立して間もない頃、事務所を構えた実家でさまざまな実験を行ってきている。自身がやってみたかったことやクライアントがやってみたいことをまず試す場である。その結果、廊下の床はあらゆる種類の木材でつぎはぎになっており、反りがでないか、色の変化などがわかるようになっている。焼杉は安くて耐久性があるので青森県でも使えるのではないかと実験をしてみたところ、メーカーからは手につきにくい磨き材をお勧めされたが、積雪時に板の表面から水分を吸収して、反ってしまい、外れてしまった。逆に炭付材は炭がコーティングのような役割をして、青森の気候には向いていることがわかった。
日光を最大限に体験しながら暮らす、冬日の家や屋根に降った雪をわざと中庭に落として積もる雪を楽しむ、雪谷の家などで実験の成果が見られる。積雪を含めた寒冷地の気候から断熱して耐え忍ぶというより、親しむようなポジティブさを感じる。
弘前での人的なネットワークの広がりについてキーとなった場所である。松ノ木荘という屋敷をうまく活用できないかという相談を、所有者であるコド・モノ・コト(コドモといっしょの暮らしを考えるプロジェクト)の増田多未さんが、THE STABLES(セレクトショップ)の小田原史典さんにしたところから、Easy Living(家具屋)の葛西康人さん、デザインディレクターの萩原修さん、蟻塚さんらに広がり、古い屋敷を改修してギャラリーにして、3〜4年間、そこを拠点にまちあるきなどの活動をした。Easy Livingは、そのときに知り合ったプロダクトデザイナーと物を作ったり、小田原さんと一緒に商品開発をしたりという展開があった。また、現在、葛西さんと蟻塚さんは、りんご箱の製作販売をする会社の姥澤大さんと一緒に「又幸-Matasachi-」というブランドを立ち上げて、りんご箱再利用プロジェクトをしている。THE STABLESの設計を手がけた際に知り合った小田原さんとその周りに集まった人たちでできたネットワークが実際に街の変化を起こしていった。
まちづくりに関わる人が集まる場所であり、ゲストハウスの宿泊客との交流も想定されている。ORANDO(おらんど)は津軽の言葉で「わたしたち」という意味。地域おこし協力隊が所属するNPOが拠点とし、ギャラリーやゲストハウス『ORANDOの二階』があり、松の木荘での活動で生まれたりんご箱再利用プロジェクトのひとつとして、480個のりんご箱のドミトリーベッドが備え付けられている。元弘前市地域おこし協力隊員の石山紗希さんと蟻塚さん、元市都市整備部理事の盛和春さんが立ち上げた「ORANDO PLUS」が運営している。石山さんは2018年から同協力隊制度を活用した市の起業家育成事業「ネクストコモンズラボ(NCL)弘前」の事務局を務め、協力隊卒業後も、起業家らを支援するコーディネーターとして活動。移住者の支援や関係人口の創出など、地域と「外の人」が継続的に関わる拠点としてORANDOが位置付けられている。
https://www.hirosakiorando.com/
これまで、幸いにも仕事に恵まれて独立後14年もやってこれました。地方には最先端の技術も、莫大なバジェットの仕事もありませんが、ひとつひとつ良い設計をしてクライアントに喜んでもらえることがこの上ない幸せだと感じます。
日々、近所の高齢者宅を雪かきしたり町内のいざこざに巻き込まれたり、子どもの野球に付き合って監督をしてみたりと、世間一般の建築家としてはありえないほどのんびりした時間の過ごし方をしているように思います。
地方にいるからできないことはたくさんありますが、地方にいるからできることもたくさんあって、それが少しずつ見えてきたおかげで「僕の建築家としての人生はこうだ」とはっきり言えるようになってきました。これからも様々試行錯誤しながら、良い建築をつくっていきたいと思います。
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