KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

大西麻貴+百田有希/o+h|山形県山形市|インクルーシブな場を作る(1/2)

文:北澤 愛、写真・図版提供(明記以外):大西麻貴+百田有希/o+h

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山形との出会い

大西麻貴さん、百田有希さんが率いる大西麻貴+百田有希/ o+h(以下o+h)は、大学生の時に何か面白いことをしよう!と一緒にコンペに取り組み始めたのをきっかけに、シェルター学生設計競技(2005年、06年)やアイランドシティーフォリーワークショップ(2006年)で最優秀賞を受賞。2008年に共同で事務所を設立し、百田さんは伊東豊雄建築設計事務所を経て2014年に本格的に参入する。「 Good Job! Center KASHIBA(2016年、奈良県香芝市)」で2019日本建築学会賞作品選集新人賞を受賞、第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館のキュレーターに大西麻貴さん、副キュレーターに百田有希さんが決定されたことも記憶に新しい、様々な作品を手がけている注目の若手建築家である。手がけている作品は、住宅はもちろん公共建築も多く、その中でも2022年4月に開館したばかりの「シェルター インクルーシブプレイス copal(コパル)」は、山形市が2019年にPFI方式でプロポーザルを開催し、o+hを含むチームが選定されたプロジェクト。PFI事業はこれまでにも何度か取り組んだことがあるが、最後までできたものは初めてという、このプロジェクトを中心に、関連作品も含めて紹介する。

 

風景に溶け込むコパルの外観
風景に溶け込むコパルの外観

 

 

チーム作りからはじまるPFI事業

このプロジェクトは、山形市に児童遊戯施設を作るもので、北部にはすでに「べにっこ広場」と呼ばれる同等の施設があったが、計画地である南部にはなかった。コパルのあるエリアには周りに聾学校、盲学校、運営にも関わっているヴォーチェが運営している重度の障害のある子どもたちを支援する施設、中学校、文教大学等、福祉・教育施設も多いこともあり、地域の方からインクルーシブな遊び場の要望が出て、PFI方式の事業として提案を募る募集があるので参加しないか、と後でご紹介するotias(オティアス)さんに声をかけてもらったのがきっかけだった。
PFIとは、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)に基づき、設計・建設後に地方公共団体に所有権を移転し、運営・維持管理する権限を民間に移して事業を行っていく。設計、施工、運営、維持管理を行うメンバーがチームを組んで取り組むもので、まずチーム作りから始めた。大西さんと百田さんがこれまでにも木造建築でお世話になっていた株式会社シェルターが代表企業になってくださり、otiasという、東根市で設備を中心に建設業に携わる企業から知り合いの施工関係の方、地域に根ざして活動されている運営者の方に声をかけてくださって特定目的会社(SPC)夢の公園チームを構成し、ともに応募案を作ることができたのは大きかったという。

o+hは、PFI事業を2014年に開催された山形県の東根市公益文化施設整備事業の事業提案 「ひがしねのね」ですでに経験をしている。残念ながら選ばれなかったのだが、その時に「建築は、設計者は図面を作り、図面ができてから、施工者を決定することが多い。場合によっては、運営者ですら、設計の合間に会うこともなく、建物ができてから指定管理が決まることもある中で、PFIは全ての人が提案書のアイディアを出すところからともに考えられるところが面白かった。みんなで案を育てていく、これこそが本来のものづくりの方法なのではないのか。」と感じたそうだ。今回のコパルでも「提案書を作る時から、運営の方は運営としての思いから、施工の方は施工の観点から意見をくださいました。同時に、地域で子育てをする親としての視点からも意見をくださったりと、それぞれ自分のプロフェッショナルな部分を超えて建築を考えていく可能性を感じました。とはいえ、かならずしも初めからチーム全員の意見が同じだったかというとそうではありませんでした。運営の方でも、障害のあるお子さんのケアをされている方と、健常児のお子さんのケアされている方との認識は全然違いました。設計の私たちとしても、デザインとしてやりたいことと、機能的に満たすべき要件とがうまくなっていないところがたくさんありました。そのような状況の中で、誰かが答えを押し付けるというよりは、AでもBでもない、二つの相反する思いを統合するC案を皆で模索していこう!とシェルターの木村社長がおっしゃってくれた」と話す。

 

創造会議の様子
創造会議の様子

 

 

地域みんなでつくる

プロジェクトが始まってから、短期間(約10ヶ月後)で着工せねばならず、その中で、聾学校の先生、盲学校の先生、小学校の校長先生、地域の方々、有識者などで構成された、創造会議というワークショップを計10回開催した。短い設計期間ではあったが、創造会議を踏まえて提案内容が大きく変わっていった。PFI方式では、実現するための金額とセットで提案が選ばれる為、その予算内に絶対に収めなければいけない。そのため、選定されてから設計案を変えることは基本的に難しいと同時に、要求水準書もかなり細かく規定されており、より良くなる提案でないと変更を認められない。厳しい条件の中、工期も設計期間も短いのに加えて、チーム全員の理解がないと変更が難しい為、創造会議のメンバーとともに、運営チームや現場監督である高木の佐藤氏も毎回参加して、何故それを変える必要があるのかを皆で一緒に考え、提案を更新していく作業が続く。お金が最も上位の判断基準になるというよりは、皆で街にどういう場所が必要か、インクルーシブとは何か等、思いを共有することを通して提案の良し悪しの判断を重ねていった。その結果、プロポーザル時に提案した、体育館と大型遊戯場が多目的室等を挟んで分かれて配置された計画から、体育館を中心に遊戯場までひとつながりのスロープでつながり、建築とランドスケープがより一体となる案へと変化していくことになった。

 

平面図
平面図

 

コパルの運営・施工チームのメンバーは地元山形の企業が多い中、設計は東京の事務所。地域のことをあまり知らないメンバーがチームに入ることは、何かしら障害につながらなかっただろうか。「地元とのつながりがないメンバーとプロジェクトを共にすることは、勇気がいると思いますが、同時に少し地域と離れた視点の人がいることで、より客観的な視点で議論ができるのではないでしょうか。創造会議に参加しておられた有識者の中でも、世界のインクルーシブな公園をリサーチしている「みーんなの公園プロジェクト」の矢藤さんがいらしたことで、閉じてしまいがちな議論をほぐしたり、広げたりする役割を果たされていました。私たちもいろいろな地域で仕事をすることが多いですが、外から訪れるからこそ果たせる役割とは何か、と自然と考えるようになっているかなと。予めやりたいことがあってそれを持っていくのではなく、その場所、その地域に育まれてきた歴史とどのように連続できるか、地域の方がなんとなくいいなと思っていることを形にできるよう一緒に考える、そこからスタートすることが大切だと思います。私たちの役目は、様々な地域でそこに住む方々が育んできた価値の輪を、それまでとは違う形で広げられるよう、一緒に考えることなのかなと。そんな風に仕事ができたらいいなと思っています。」と一つ一つ丁寧に話す。

 

体育館を中心に遊戯室や各部屋にスロープでひとつながりになる配置
体育館を中心に遊戯室や各部屋にスロープでひとつながりになる配置

 

 

インクルーシブな場

『インクルーシブ』という言葉がこのプロジェクトの大きなテーマになっており、その力は大きかったそうだ。インクルーシブとは、性別や年齢、人種・国籍の違い、障がいの有無など、異なる背景や特性をもつ人々が互いを認め合い、ともに生きること。「インクルーシブな施設とは、障害がある子だけが遊ぶことが出来たら良いという訳ではありません。物事を個別に解決するのでは十分でないと思っています。障害の有無に関わらず、皆が自分達の場所と思えるかが重要でした。それはPFI事業において様々な役割を持った人の集まっていることと同様で、自分たちのパートだけがよかったらいいという考え方に自然とならなかったんです。インクルーシブという共通の理念を皆で共有していて、それぞれの専門的な役割を担いつつも、それぞれの分野だけで個別に解決されている状況ではダメだということを、進めていくうちに徐々に皆が体得して行ったと感じます。」と百田さん。「例えばスロープは、車椅子を必要とする子だけではなく、車椅子を普段使わない子も走って楽しい、と遊びのきっかけになるように考えていく。例えば駅に立って、バリアフリーの機能を解決するためにスロープがついていると思うのですが、それを単にバリアを解消するだけではなく、もう少し建築デザインの中心として捉えてみたらどうなるだろうなど、これまで建築で慣習的に解決してしまっていることを、インクルーシブという視点で捉え直すともっと創造的な提案ができんじゃないかと思っています」と大西さんは話す。

皆の思いを組み込んで作っていけるのはPFI事業のメリットでもあるが、設計者以外の方々のそれぞれの思いをまとめて一緒に作り上げていくことは大変だった反面、学んだことも多かった。ある時シェルターの木村社長が「街づくりに興味があることに気がついたんですよね」と言われた時、はじめはどうしてなのかわからなかった。百田さんたちは建築を一つ作るのに精一杯だったが、木村社長は山形の施工会社としてこれからも建築を作っていき、『建築を一つ建てる』という意識でやっておらず、建築を一つ作ることで街全体の問題に関われる、という意識で建築を捉えられていた。それはまさにインクルーシブな発想で、建築を個別に作っていればいいと考えておらず、自然とそのように皆が考えていくようになるのがすごいと気づいたそうだ。また、施工する方の苦労は、普段運営や維持管理する方は気がつかないことが多いが、このプロジェクトでは大雪の中で苦労して施工してくださっていることを共に体感できたので、こんなに思いをかけて作ってくださったものだから大事にしようなど、お互いの思いが連鎖し、勇気づけられるところがあった。皆で良い建築にしようという思いを受け止め、認めてくれるチームだからこそ可能になったことがたくさんある。「人間には、相手によって自分自身のどういう部分が表に出てくるかが、変わるところがあると思います。例えばものすごく相手がビジネスライクだったら、自分もビジネスライクになってしまうように。相手が本当に一生懸命やってくださっている様子を目の当たりにしたら、私たちも同じように頑張ろうと思いますよね。そのことが連鎖しあって、信頼できるチームができていた」と振り返る。

 

外観と同じく、有機的な地形が特徴の大型遊戯場
外観と同じく、有機的な地形が特徴の大型遊戯場

 

 

子どもの生きる力を育む教育、これからの15年

コパルは、今後15年間運営を行う契約なのだが、その中で自主事業・付帯事業を行うことができる。コパルの理念の一つは「生きる力を育むこと」なので、運営の方々が自主事業の中で「生きる力を育む学校」を計画している。お二人とも大学で教鞭も執っていることもあり、学びのあり方にとても興味があり、何かプログラムに関わることができればと考えているそうだ。「コパルに集まり、時間と場所を共有して皆で学び合うこと、そこで生まれる人との繋がり自体が財産だと思います。スキルを身につけること等も大事だけれど、学校では出会えない多様な価値観に出会える場所になるといいと考えています。一つの価値基準に縛られることなく、こういう考え方の人もいれば、ああいう考え方の人もいる、ということに気がつける場を作れたらいいですし、その中の学びの一つに建築が入ってくればいいですね。私たちは建築に打ち込むことを通して、建築という立場から社会全体を捉えようとしている気がしますから」と二人は話す。

大西さんが震災後に小豆島で一人の人間として徐々にまちづくりを一緒にやっていった経験や、百田さんの大学院時代のワークショップで伊東豊雄さんの話す言葉の力に影響を受けて入所した伊東事務所での経験が、o+hの建築やプロセスに現れている。PFI方式だからできるのではなく、ご縁を大切にされ、これまで仕組み作りであったり、一緒に考えていく素晴らしいチームと真摯に向き合いながら活動をされてきて、今につながっているのだと改めて感じた。「建築を一から問い直していくことはやりがいがありますし、今後は学校みたいなものをPFIで作れたらいいな。例えばいろいろ先生方ともお話ながら作っていければ変わっていくのではないかと」コパルでの15年の自主事業の中で、お二人がどう関わられていかれるのか、そしてその間に関わるお二人の活動も楽しみにこれからも注目していきたい。

シェルター インクルーシブプレイス copal(コパル)
[ 山形県山形市、2022年 ]   鉄筋コンクリート造 鉄骨造(一部木造屋根)地上2階/敷地面積:22,295.30㎡/建築面積 :3,334.81㎡/延床面積:3,175.90㎡
https://copal-kids.jp/

 
 

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