KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

赤羽孝太(一級建築士事務所 MMMstudio/一般社団法人 ◯(まる)と編集社)|長野県辰野町
「10年後の町」から逆算するコミュニティデザイン(2/2)

文:柴田直美、写真・図版提供:一般社団法人 ◯(まる)と編集社)

プロフィール バックナンバー

 

シェアスタジオ「STUDIO リバー」

下辰野商店街の元洋装店ビル1棟を借りて1年8ヶ月かけて改修し、2018年夏にオープンした。「STUDIO リバー」という名称は元洋品店が「洋装のリバー」という名前だったことから。当初は自身の建築事務所を3階に置き、資金が貯まるたびに少しずつ改装を続けた。地下1階から3階まである、人と情報が集まる会員制シェアスタジオ。(現在、県内外で20名ほどの会員)。1階はコンセプトショップでポップアップイベントが行われることも多い。2階はフリーアドレスのシェアスタジオ、3階はデスク会員限定のコワーキングスペースになっている。『一般社団法人 ◯(まる)と編集社』は、その他にも飲食店営業許可つきのイベントスペース、企業・団体向けサテライトシェアオフィスや貸しギャラリーなどの運営もおこなう。

辰野町が地元であるという意味の信用貯金があるという赤羽さんだが、それでも、ここに残る覚悟を決めて来たのかどうかを周りの人は見ていて、150万円の融資を受けてリバーをリノベーションしたことは、残りますよという意思表明になった、という。「本気だとわかったら、応援してくれると思います。たいして儲からないですが、信用経済のほうが何かする時には価値があります。継続することが大事で、ビジネスに結び付けないとならないのですが、辰野町ではランニングコストも安いので、10年かけて黒字になるのではあればやってみよう、という気持ちになります。それがローカルの最大の強みで面白いところです。」

 

  • 「STUDIO リバー」の図解イラスト。
  • 「STUDIO リバー」のエントランス。
  • 「洋装のリバー」という洋品店だったころのドアがそのまま使われている。

 

『トビチMarket(トビチマーケット)』

https://tobichi.jp/market/

2019年12月7日に初めて開催された『トビチMarket(トビチマーケット)』は10年後の辰野町をイメージする1日限定のマーケット。『一般社団法人 ◯(まる)と編集社』が運営する『STUDIOリバー(スタジオリバー)』がある下辰野商店街で開催された。県内外から54店舗が集まり、空き店舗や空き地を使って店を出し、町内外から4000人を超える人が訪れた。このイベントは「まちの10年後の1日の前借り」であり、数年後の辰野のイメージを他の人と共有して考えるきっかけになった。商店街活性化にあたり、無理にシャッターを全部開ける必要はなく、飛び飛びの店舗をつないで、まちをコミュニティ空間と再定義するというコンセプトで開催され、その後の「トビチ商店街」の構想につながっている。
トビチマーケットアーカイブブック http://tobichi.jp/cms/wp-content/uploads/2020/12/tobichibook.pdf

 

  • 『トビチMarket(トビチマーケット)』マップ。
  • 『トビチMarket(トビチマーケット)』開催日の町の様子。
  • 『トビチMarket(トビチマーケット)』のバナーは、店主と一緒にシルク印刷したオリジナルで作ったエコバック。
  • 『トビチMarket(トビチマーケット)』開催日、トビチマーケットの店舗と一般の店舗が同時にオープンしている様子。

 

目的のない旅展

辰野町営の辰野美術館と◯と編集社のタイアップ企画として2020年10月17日から11月23日に開催された企画展。1. 自転車で世界を旅した13人のサイクリストの「写真とことば」の展示、2. 13人の旅人の「旅立ち前夜」というショートエッセイ、3. 世界を旅した自転車や道具の展示、4. 美術館のある荒神山公園一帯にちりばめた旅人の言葉という4つを通して、「未来」に対してわくわくする気持ちがこめられている。辰野美術館や地域美術館が持つ可能性を広げて、10年、20年のスパンで文化をつくっていくという、豊かな文化づくりとしての展覧会。「文化というのは町の定食屋さんで生姜焼き定食を食べて、たまたま飾ってある絵を気に入って買っていくというような、建築家が特別な存在でもなく、アートも特別な存在でないというのであればいい」という赤羽さんの思いは、やりたいことがあるひとがやれる場所を提供する(かかわりしろをつくる)活動にもつながる。地域の高校生が自主的に商店街の情報紙を作成していたり、近隣の町にアトリエをかまえるアーティストの千田泰広さんが、常設作品を展示する空間美術館を建設中など、年代を超えて、街のスケールを超えて、人がつながっている。

 

  • 「目的のない旅展」周辺マップ。
  • 辰野美術館での展示の様子。
  • 辰野美術館周辺での展示の様子。

 

赤羽孝太さん

赤羽孝太さん

赤羽孝太さんからのメッセージ

自身の活動を振り返ると、現在へつながる4人の人との出会いがありました。1人目は、大学・大学院と所属した研究室の室伏次郎先生で、建築家とはなんたるかを。2人目は、ドヤ街をヤド街へをコンセプトに「Yokohama Hostel Village」の岡部友彦先輩で、ソフト事業を中心としたまちづくりの可能性と面白さを。3人目は、大工として技術だけではなく、仕上げ関係や金物制作まで、下職さんに頼まずになんでもこなす街屋建築工房の小林勇親方で、現場の面白さや対応能力を。4人目は、民間より民間的な発想と行動力で地域を動き回る町役場の野澤隆生さんで、ローカルの可能性と面白さを知りローカルに拠点を。
人との出会いを分岐点にパソコンからCADソフトをアンインソールし、ローカルに拠点を移して空間設計をやめて早くも7年が経ちましたが、首都圏にいた時よりたくさんの楽しい場、コミュニティを街全体をフィールドに生み出すお手伝いをさせてもらっています。
ローカルは、プロフェッショナル的な能力を高めるより、得意分野を頂点にジェネラリスト的な能力をいかに広げられるかどうかが、地域にどれだけインパクトを与えることができるかに繋がると思います。
そして、人一人の存在価値が高く、建築を学んできた経験や体験を持つ人たちの多角的・多次元的な見方や思考性は、地域に今まさに求められている人材です。
与えられた問いに対してより良い答えを導き出すより、より良い未来に向かって自ら何かを創り生み出していきたい人にとっては、今まさに余白だらけでローリスクでチャレンジできるフィールドがローカルに広がっています。
これからも今より少しだけ豊かな暮らしや、誰もが生きやすい社会や地域の未来を目指して、多様性と許容性に溢れるアノニマスなまちづくりをしていきます。
https://mmmstudio.amebaownd.com/
https://maruto.or.jp/
https://tobichi.jp/

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