KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

米澤隆|愛知県名古屋市|関係性が重なっていく場所をつくる(1/2)

文:柴田直美、写真・図版(明記以外):米澤隆建築設計事務所

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在学中に実作を設計

京都で生まれ育った米澤さんは、名古屋工業大学に進学した。転機は2005年、米澤さんが大学4年生の時。知り合いの大工さんを通して、住宅の設計を依頼された。大工さんにサポートしてもらいつつ、試行錯誤しながら設計を進め、その住宅を卒業設計とした。卒業設計が実作であるという稀有な例である。その後もその住宅を施工した大工さんから自宅の設計を依頼され、続いてそれを見た近所の方から設計を依頼されるといったように愛知県下での住宅設計が続き、大学院に在籍しながら、設計活動を続けた。その後、SDレビュー2008に入選するなど、評価を得た米澤さんは、在学中に設計事務所を設立しようと決意した。「今、振り返ると、若かったのでできた決断だったなと思います」と米澤さんは当時を振り返る。その決意通り、どこかの設計事務所に勤めることなく、博士課程に進み、研究と設計を並行していった。住宅を3件完成させた頃、プロジェクトを5つ抱えていた米澤さんは、卒業設計を手伝ってくれたメンバーなど後輩たちに声をかけ、勉強会形式で設計を進めていたという。その様子から「米ゼミ」と呼ばれ、学部1年生も参加して大人数で設計をしていたと聞くと、その組織マネジメント力に驚く。

 

学生の頃に設計した『生きている建築』(2006年)。お施主さんは家族の生活の変化とともなって、現在、リノベーションを考えており、米澤さんはその相談に乗っている。
学生の頃に設計した『生きている建築』(2006年)。お施主さんは家族の生活の変化とともなって、現在、リノベーションを考えており、米澤さんはその相談に乗っている。

 

 

空き家再生とまちづくり

設計活動と平行して、よく知られている米澤さんの活動として『空き家再生データバンク』が挙げられる。そのきっかけは、愛知県津島市の長屋の改修だった。かつて毛織物産業で栄えた津島市で、毛織物工場で働く職人のためにつくられた築80年を超える長屋を相続したオーナーから、芸術家の村( http://social-artist-village.org/ )というNPOへ活用について相談があったのが始まりで、建築の専門家として米澤さんに協力をあおいだ。300坪を超える広大な敷地にある長屋はほとんどが空き家になっており、そこに住むにはリノベーションが必要であった。米澤さんはちょうど博士論文を書き終えた頃で、研究していたメソッドをこの空き家再生の設計手法として応用できないだろうかと考えたという。米澤さんが考えたのは、リノベーションの図鑑のようなデータバンクをつくって、入居者はそこから必要なリノベーションのアイディアを選んで、自分の空間をつくる方法。そのために2000年以降にリノベーションされ、雑誌『新建築住宅特集』に掲載された木造住宅の事例をリノベーション図鑑として、「課題」から「操作」、「効果」までを図示し、一般の人にわかりやすくまとめた。米澤さんが目指したのは、暮らす人が主体的にリノベーションの設計に参加できることだった。入居者は自分のライフスタイルに応じて、リノベーションのパターンを選ぶことで、オリジナルの空間が設計でき、自分で建築をつくり変えていくことができるようになっている。

 

リノベーション図鑑の一例(空き家再生データバンク)
リノベーション図鑑の一例(空き家再生データバンク)

 

 

学生の皆さん、街へ出よう!

2016年、名古屋市港区でアッセンブリッジ・ナゴヤという音楽と現代美術のフェスティバルが始まった。街なかを会場に展開していくアッセンブリッジ・ナゴヤのアーキテクトとして、米澤さんは研究していた空き家再生のメソッドを活かし、空き家を会場へと整備していった。「一過性のイベントでなく、街のレガシーとして残していくものにしたい」という事務局の意向を受けて、税関の職員研修のための旧・名古屋税関港寮を作品展示空間へと用途変更、旧・潮寿司をまちの社交場「UCO(うしお)」として再生するなど、街の空き家を開いていった。産業として確立されておらず、社会的公益性が求められる空き家問題に関わるプロジェクトは大学や行政がかかわることが有効だと考えた米澤さんは、ちょうどその頃着任した大同大学の学生たちとともに、フィールドワークやヒアリングでなぜ空き家になっているのかなどの実態調査を進めていった。その結果、あと数年で空き家になるだろうという予備軍が存在していることもわかってきて、アーキテクトとして音楽や美術の発表の場をつくることからスピンオフした「みなとまち空き家プロジェクト」という学生団体を立ち上げた。社会問題となっている空き家は実は街の資源であり、街に開かれ、人が集まる場所として再生することを目指し、NAF(NAGOYA Archi Fes)という中部地方の建築学生が運営する学生団体にも声をかけて、活動が始まった。「みなとまち空き家プロジェクト」は、調査・研究を行う「みなとまち空き家ラボ」、教育・普及を行う「みなとまち空き家スクール」、それを実践する「みなとまち空き家プラクティス」から構成され、港まちの空き家を対象に調査、企画、設計、施工を行うもので、2017年から現在まで継続的に実施され続けている。

 

 

街の未来に人を巻き込む

アッセンブリッジ・ナゴヤが展開された名古屋港ガーデン埠頭は、1907年に開港した名古屋港発祥の地。かつては貨物船や荷物を積みおろす人であふれていた商業港だったが、1960年頃に船舶の大型化によって使用されなくなり、産業構造が変わった。その後、名古屋港水族館や名古屋港シートレインランドなどの観光施設ができたのだが、人口は流出し、空き家も増加している。今は、名古屋の中心部から近いという利便性によって、空き家は取り壊されて駐車場やマンションにされることが増えている。
「商業港として賑わっていた当時の良さを残している喫茶店や町家を残して、この街らしさをつくっていきたいのですが、一方でもっと大きな経済の流れがあります。20年間空き店舗だったお寿司屋さんを、アーティストユニットのL PACK.がアッセンブリッジ・ナゴヤの作品として、「港まちの社交場」として再生させたのが「UCO」で、コーヒーを提供したり、音楽を演奏するなど、町の人も、他所から来る人も交わり、賑わっていたのですが、取り壊されて駐車場になることになり、道の向かいに移転したのが、今いる「NUCO」です」と話す米澤さん。空き家再生は大きな経済の流れと無関係ではいられず、今やっているのは中間期のデザインなのではないかという。オーナーが次の使い道を確定していない今は使えているが、その後どうなるかわからないという点を大きな課題として挙げている。「地域に住んでいないオーナーが空き家を駐車場やマンションにすることが多いです。ここに住んでいる人にとって良いかどうかという視点もあると思うのですが、難しいですね。NUCOのような成功例をひとつひとつつくって、そこに魅力を感じる人を増やしていかないとならないのかなと思っています。」

 

 

建築を介した地域との繋がり

米澤さんは「関係性のデザイン=建築ができることで複数の文脈をかけ合わせる」ことを目指している。取材に伺ったNUCOは、かつては編み物教室で今も編み物をしながらくつろぐご高齢の方とコーヒーを飲みに来る若者という、異なる年齢の交流がおき、関係性が重なっている。設計した住宅併設の小児科医院(2017年)は、小児科に通うお子さんの親たちのサロンになるように保育士さんが常駐するキッズスペースを設け、街に開いた大きな縁側をもつ。

「地域とつながる建築の設計依頼が増えてきている」という米澤さん。今、進めているプロジェクトのひとつは、京都で小学校に隣接した土地をお持ちのお施主さんが子育てや教育に貢献したいということで、プログラムを一緒に練っているそう。そのお施主さんは、すぐ近くにある「公文式という建築(2012年)」に子どもを通わせていた方だったという。また、学生の頃に設計した『生きている建築』のお施主さんが家族の変化とともにリノベーションを考えていて、その相談に乗っているそうだ。

米澤さんの周りには人が集まっている、というのが取材後の強い印象であった。自然に周囲の人とつながり、話を聞き、プロジェクトの推進力にしていく力は、建築家の素質として、重要なひとつだろう。名古屋駅の駅前広場のプロポーザルでは「利用の仕方のアイディアが豊富」であることなどが評価された。プロジェクトの規模に関わらず、そこを使う人の視点が軸となったデザインが展開されている。SD レビュー2021で古谷誠章さんが「建築家が入る中川運河の未来」に期待すると評したというが、米澤さんが関わることで市民の小さな声が届いたデザインが展開することを期待しているのではないか。そして、これからの米澤さんの活躍によって、住民自身が主体となって未来を考えてつくり上げていく地域が増えていけばといいなと思った。

0年間使われていなかった店舗をアーティストユニットのL PACK.が「港まちの社交場」として再生させた「UCO」。残念ながら取り壊されて、現在は残っていないが、その機能は「NUCO」に受け継がれている。
20年間使われていなかった店舗をアーティストユニットのL PACK.が「港まちの社交場」として再生させた「UCO」。残念ながら取り壊されて、現在は残っていないが、その機能は「NUCO」に受け継がれている。

 
 

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