KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

川添善行(東京大学/空間構想一級建築士事務所)|和歌山市加太地区|建築の輪郭を探すまちづくり(2/2)

文・写真・図版:明記以外、東京大学生産技術研究所川添研究室

プロフィール バックナンバー

 

東京大学 生産技術研究所川添研究室 加太分室 地域ラボ+SERENO seafood&cafe

[ 和歌山県和歌山市 ]

まちを再生する建築

地域ラボと SERENO は、道を挟んだ斜向かいに位置しています。地域ラボは、研究拠点であるため床をあげていますが、SERENOはまちがそのまま延長する土間のスペースとしています。地域ラボと SERENO の間には、かつて漁師たちが作業していた平場があり、こうした小さな建築の関係性がまちを再生していくことを意図しています。

東京大学 生産技術研究所川添研究室 加太分室 地域ラボは、およそ築100年の漁具蔵を改修して完成しました。高圧木毛セメント板を耐震要素として 建物の四隅に配置し、これまでにない耐震要素のあり方を模索すると同時に、床下をチャンバーとすることで、市販のエアコンを床吹き出し空調として活用する設計としています。また、既存の建具を残しつつ、ポリカーボネートの新しい建具を追加することで、低コストの省エネ改修のあり方を模索しました。

SERENO seafood&cafe(セレーノ シーフード&カフェ)は地域ラボと同様の耐震補強をすることで、既存の土壁の素材感と呼応した空間としています。耐震補強のスパンと、既存建物から残った欄間のスパンは異なりますが、その大きさの違う空間が同時に存在することで、あたかも輪郭が動的に揺らぐような空間体験となりました。二つの大きさは、二つの素材でもあり、まちの歴史を残しつつ、新しい公共的な場所を作り出しています。このレストランは、漁師の家族がシーフードを提供することで、海と陸の接点となります。

 

 

 

和歌山市駅前広場

[ 和歌山県和歌山市 ]

システムを場所に接続するためのデザイン

「きのくに」と呼ばれる和歌山には、木が使われた外部空間はほとんどありません。多くの人が集う駅前広場のシェルターは、建築基準法第44条第1項第4号に定められる「公共用歩廊」に該当していますが、この「公共用歩廊」については、建築基準法施行令第145条に構造耐力上主要な部分をS、RC、SRCとすることが定められてしまっています。つまり、現在の建築基準法では、公共的な外部空間のシェルターを木造にすることができない、という仕組みになってしまっています。

和歌山市は、中心市街地の空洞化や高齢化の進展など、全国の地方都市に特有の社会課題を有しています。一方で、南海電鉄のターミナル駅である和歌山市駅周辺では、市街地再開発事業や市民図書館の移転などの様々な事業を組み合わせることで、都市再生の起爆剤としての効果が期待されています。その起点となる和歌山市駅広場は単なるオープンスペースではなく、「きのくに」のシンボルとなるような木の空間であるべきだと考えました。

そこで、シェルターの構造体の中のうち、長期荷重を負担するものをS造とし、短期荷重を負担するエレメントをS造+木造とすることで、これまで困難だと思われていた公共的外部空間における木造ハイブリッド建築を可能としました。地場の木材である紀州材の150mm厚のヒノキをφ23のPC鋼棒を緊張力発生材として締め付けることで、短期荷重の負担を可能としています。

構造物の安全性やエネルギー・交通インフラなど、全国画一のシステムとして決めるべきことがある一方、一定の条件を満たせるのであれば、素材や構法など各地の歴史背景を尊重すべきことも多くあります。全国画一であることを否定するのではなく、システムを場所に接続するためにデザインがあると考えれば、まだまだ実現できる新しい切り口があると思います。

 

 

 

東京大学 総合図書館 別館

[ 東京都文京区 ]

噴水の下の図書館

この総合図書館別館は、大きく3つの空間で構成されている。

1つ目は、地下2〜4階で、ここは機械が本を出し入れする自動化書庫である。最大で300万冊の書籍を保管し、数分で希望する書籍を取り出すことができる。学内に散在する多種多様な書籍を一括して保管することで、モノとしての情報を一元的に管理することができる。

2つ目は、地下1階のライブラリープラザである。与えられた課題に対して効率的に回答を導き出す前世紀的な教育ではなく、課題発見型の教育を目指すのが近年の教育であるが、そのための空間的な形式としては、従来の教室空間では不十分である。そこで、学生たちが分野を超えて集い、議論するための場所がライブラリープラザである。もはやここには、本が置かれていない。新しい知を獲得するのが図書館であると定義するならば、たとえ本がなくても、この場所はまさに図書館なのである。

そして、3つ目は地上の広場。本郷キャンパスにとって、安田講堂と正門を結ぶ東西の軸、図書館前広場と工学部1号館前広場を結ぶ南北の軸は、それぞれ直交しながらキャンパスの骨格を形成している。プロジェクトの過程で、加賀藩屋敷の水路の石組みや明治の帝国大学図書室時代の建物基礎が発見され、また、東西の大谷幸夫設計による法学部4号館・文学部3号館とサンクンガーデンで取り合うなど、近世、近代、戦後と様々な時代が重なる合わさる広場となった。

そして、この3つの空間が、ニューマチックケーソン工法というインフラ技術によって統合されている。2mを超えるコンクリートの壁は、ダムを建設する際と同様、熱収縮による応力解析を行なっている。壁の厚さそのものは、土圧への対応だけでなく、地下水位の高い場所で水の浮力にバランスする重量という観点からも設計されている。

こうして完成した図書館を何度となく歩いているうちに、これを建築と呼べるのか自分でもわからないというのが正直な気持ちだ。建築というより、空間を持ったインフラ、と呼ぶ方が近いかもしれない。

 

(撮影:中倉徹紀)

 

 

インド工科大学 中央図書館 ならびに ビジネス・インキュベーションセンター

[ インド、ハイデラバード ]

インド工科大学 中央図書館 Knowledge Center

大学のキャンパスをつくる大事な要素の一つが図書館です。インド工科大学からの提案により、従来では Library と呼ばれていた建物に、 Knowledge Center という新しい概念が付与されました。そこには、 過去の英知も未来への創造性も、「知」の体系によって編集しようという意欲的な学問的姿勢が反映されています。

建物はすり鉢状の空間構成を持っており、図書や貴重書などの書物や、IT 技術を活 用した新しいメディアなどを並列に扱い、従来にない新しい「知の空間」を計画しています。そして、そのすり鉢を俯瞰するとき、自 分たちを形成する知のパースペクティブの広さを体験することになるでしょう。

本建物は、キャンパスの骨格となる空間軸に面しています。本施設の1F部分は広場と連続した空間となり、学生たちの新しい思索の場となることを期待しています。敷地北側にはオープンスペースを有し、心地よい外部空間となるだけでなく、将来的な蔵書数の増加などによる増築の必要性にも柔軟に対応できる計画となっています。

 

インド工科大学 ビジネス・インキュベーションセンター

近代以降に確立した学術体系は、グローバル化による対象世界の拡大や社会構造の変化などにより、その扱う対象や分析の方法・研究体制などにおいて、日々変化を迫られています。実社会の動向把握や学術成果のリアルタイムでの社会への適応を果たすために、民間会社との産学連携プロジェクトや研究成果を活用した起業を行うための拠点が、世界の大学でつくられつつあります。

本施設は、外部民間の研究機関の研究活動を支援するための Research Park と、研究成果による起業を支援する Incubator の2 種類の研究拠点をあわせもち、学問と産業の橋渡しという挑戦的な課題に取組む場となることを目指しています。

6層からなる建物は、一つ一つの小さなビルが立ち並んでいるようなデザインとなっており、新しい研究活動を展開するという思想を具現化しています。小さいながらも、それぞれの研究ユニットが自分の建物を持っている、そのような状況を生み出したいと考えています。

建物の平面形状は、大小さまざまな研究活動にも柔軟に対応するフレキシビリティを有し、さらに、研究活動を円滑に進め、かつ高度化するための共用部(セミナー室、ラウンジ、広場等)が適切な距離を持って配置され、各研究ユニット間の交流を深め、新しい学際的な研究を生み出すきっかけが創出されることを期待しています。

 

 

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