レポート

「第八次椿会 ツバキカイ8 このあたらしい世界 “ただ、いま、ここ”」レポート

文・写真:柴田直美

プロフィール バックナンバー

2023年10月30日、資生堂ギャラリーにて「第八次椿会 ツバキカイ 8 このあたらしい世界 “ただ、いま、ここ”」が始まった。

「椿会」は第二次世界大戦で中断していた資生堂ギャラリーの活動を再開するにあたり企画されたグループ展である。1947年春に鏑木清方や横山大観らを含む日本画、秋に梅原龍三郎や藤田嗣治らを含む洋画展、という2本立てで開催された。1954年まで継続的に開催されたこの第一次椿会以降、複数年に渡り同じメンバーで展覧会を開催するという形式で継承されており、70年を超えて合計86名の作家が参加した。

第八次椿会は2021年、2022年、2023年と3回の展覧会が企画され、メンバーは、杉戸洋、中村竜治、Nerhol (ネルホル)、ミヤギフトシ、宮永愛子、目[mé]。ジャンルを超えた活動やコラボレーション、チームでの制作などを行う、今の時代を代表するアーティストとして選ばれている。

同じメンバーで3回目の展覧会となる今回は、2021年の「触発/Impetus」、2022年の「探求/Quest」を経て「昇華/Culmination」と位置づけ、最終年としてこれまでの活動を昇華させる展示になっている。これまでの「あたらしい世界」における「豊かさ」への探求のなかで、「放置」と「無関心」というキーワードが浮かび上がり、他に委ねることや管理されることへの抵抗をグループ展として各自の作品を用いて表現しているという。3年間を経て、メンバー間から生まれたこれらのキーワードは、ささやかにも確固にも聞こえる。

 

 

これまでの椿会展で蒐集してきた美術収蔵品から、「新しい世界」を触発される作品をメンバーが選んだ2021年の展覧会で、壁にかけられた収蔵作品が半分しか見えない(半分が見える)壁(中村竜治《関係》(2021))ができていることにすごく驚いた。半分しか見えていないとき、見えている作品の部分がとても強い印象を放っていた。一般的には考えられない展示方法かもしれないが、ジャンルを超えたグループ展という枠組みで、建築家である中村氏が追及したのはモノの見え方である。そして、3年目にして、さらにそれが強まっているように思う。今回の展示で配布されているハンドアウトを見ると、中村氏の作品は、新設された柱も過去に発表した椅子も混ぜた、《無関係》というひとつの作品になっていた。意図について問うと「椅子はダミーなのです」という答え。柱が出展作品であることが目立ちすぎないように、一般的な「作品」に見える椅子を柱のそばにおいている、そういうことらしい。

 

 

第八次椿会で中村氏が展示したものは、壁からロープ、柱へと回を重ねるごとに空間に占める印象が減っていった。だんだんと展示される作品自体も小さく、減っていった印象で、展示されずに残された空間が3年間に築かれたメンバー間の充実した関係性のように見える。

2021年の展示では、中村氏が提案した壁に呼応して杉戸氏と目[mé]も壁をつくり、作品同士の緩やかな関係性と緊張感が生まれた。そして翌年、メンバーのミーティングで2022年も起点となるようなものがないか、という話題になったという。(https://gallery.shiseido.com/jp/tsubaki-kai2022/)これまで見たいくつかの展覧会を通して、杉戸氏や目[mé]は実際にそこに見えているものだけでなく、空間という漠然としたものに対して、空間のサイズや物の大きさ、作品が影響し合う範囲(隔たれている場合もある)について深い感覚をもち、実験を繰り返した展示をしていると思ってきた。今回の展示は、数人の作家の複層的な視線によって、空間が立体化されて、かつ平行方向にも(ルービックキューブのように)回転しているような感覚を覚えた。

 

 

展示を見ながら、物理的な隔たりを強いられていたコロナ禍を経て、時間的な隔たりについても意識が向くようになったのかもしれないと自分の感覚を見直したり、この展示は「あたらしい世界」を提示するのではなく、今見えている世界が既にあたらしいものになっているという気づきのように感じた。各々が豊かな世界を持ちながら共生している社会の縮図のような展覧会だと思うので、会期中にぜひ足を運んでいただきたい。

 

<過去の展示>
第八次椿会 ツバキカイ 8 このあたらしい世界 「2021 触発/Impetus」
展示風景|資生堂ギャラリー
https://youtu.be/f3JJEgeMVIw?si=pqu-XqTDwj-lKgXN

第八次椿会 ツバキカイ 8 このあたらしい世界 「2022 探求/QUEST」
展示風景|資生堂ギャラリー
https://youtu.be/wf9defRxLiQ?si=RFfkNYH9KxSIo-bB

 

「第八次椿会 ツバキカイ 8 このあたらしい世界 “ただ、いま、ここ”」
会  場:資生堂ギャラリー(東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階)
会  期:2023年10月31日(火)~12月24日(日)
開館時間:火~土 11:00~19:00  日・祝 11:00~18:00
休 館 日:毎週月曜休(月曜日が休日にあたる場合も休館)
入場無料

 

Cookie(クッキー)
当社のウェブサイトは、利便性、品質維持・向上を目的に、Cookie を使用しております。詳しくはクッキー使用についてをご覧ください。
Cookie の利用に同意頂ける場合は、「同意する」ボタンを押してください。同意頂けない場合は、ブラウザを閉じて閲覧を中止してください。