2020年5月26日、京都市京セラ美術館がリニューアルオープンを迎えた。実際には2020年3月21日の開館が予定されていたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、延期を余儀なくされた。リニューアルオープン後も、府県をまたいだ移動の自粛が要請されていたことから6月19日(金)までは入館者を京都府在住者に限定していたが、現在は府外在住者も入館可能。ただし、予約が必要となる。
<予約>https://kyotocity-kyocera.museum
京都市美術館は1933年11月13日、昭和天皇御即位の大礼(1928年)を記念した大礼記念京都美術館として開館し、第二次世界大戦後には進駐軍の施設として接収されたが、接収が解除された1952年、京都市美術館として再スタートした。上野の東京都美術館に次ぐ日本で二番目の大規模公立美術館として完成し、現存する日本で最も古い公立美術館建築であり、歴史的価値は高いが、老朽化も進んでいたことから、2013年に将来構想検討委員会が設置され、大規模な改修をすることになった。
2015年に基本設計者を選定するプロポーザル(https://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000181792.html)が実施され、青木淳・西澤徹夫設計共同体が選定された。(https://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/cmsfiles/contents/0000181/181792/gizyututeiansyo.pdf)
今回の大規模改修にあたり、市民負担の軽減と財源確保のため、ネーミングライツ制度を採用し、111億円の工事費のうち、55億円の支援を京セラ株式会社から受け、50年間の通称が京都市京セラ美術館となった。
1930年の設計競技で1等となった前田健二郎による美術館本館は文化財的価値が高く、将来的に国の重要文化財に登録されることを目標に、建物や内部装飾を可能な限り保存したうえで、現代の美術作品に適した空間機能を整備している。例えば、当初の仕様・部材を撤去して、更新する場合には、写真や実測図面などで記録・保存するとともに可能な限り、オリジナルの部材を保管している。これにより、将来的に復原が可能となり、この可逆的な手法は、青木・西澤の案の根幹であると思われる。また、両氏が「チューニング」と呼んでいる古い建物と新しい建物の間で行った、課題と解決策の間の調整も将来の改修の時のために手書きと図面の記録(「履歴を残しながらの利活用(西澤氏)」)を残している。開館時の姿に戻すことや時を止めた保存をするのではなく、今後も変化していくことを見込んだ、歴史の中の一時点であると言う態度がわかる改修部分を本稿で紹介したい。また、その意義を理解し、現在、足りてない最低限の機能を追加するこの案に票を投じた審査員の先見性も歴史の中で重要なポイントとして残るだろう。
「建ち方が変わることで地域全体の人の流れが活発になる」と西澤氏は言う。建物が竣工した2019年11月、美術館として展示が設営された2020年3月と、青木・西澤両氏が開け放たれた東玄関を目撃し、提案の鍵とした2015年4月のPARASOPHIA 京都国際現代芸術祭の写真を中心に、2つ前のレポート(https://kenchiku.co.jp/online/report/report_no022.html)に書いたArchitectural Acupuncture(建築的鍼治療)と言うキーワードを思い出しながら、振り返っている。
【メインエントランス】
今回の改修でメインエントランスとなった西地下室は創建当初は下足室(靴預かり所)、後年は倉庫となっていた。既存タイルは可能な限り使用(そのまま残すのではなく、再利用できるタイルを選び出して、再活用)し、新設のタイルは既存タイルに似せている。既存のカウンターの大理石天板はチケットカウンターの天板となり、天井も装飾がある梁が見えるように現しとしている。
【中央ホール】
大陳列室だった大空間は、メインエントランスと各展示室をつなぐハブとして設定された。これも用途の大きな反転である。以前は2階に東西動線がなく、2階東広間から2階西広間へ行くために、一度、1階を経由するか、2階展示室を通らなくてはならなかった。同時に開催できる展覧会の数を確保するため、独立した展示室へのアクセスを設ける必要があり、東西をつなぐバルコニーや縦導線としての螺旋階段やエレベーターが新設された。照明器具は創建当初の写真を参考に製作して設置された。
【東エントランス】
北東の増築部「東山キューブ」との接続部であり、段差解消のため、床を300mmあげることになった。既存の玄関扉は、床を取り外して開閉することができるようにして、現地保存している。
【西広間窓台】
西広間から新設のバルコニーをつなぐため、既存の装飾窓の下部を解体し、その部分の大理石を再利用して、既存の窓枠の断面を延長し、出入り口とした。
【陳列室】
平面構成を維持したままで、空調ダクトや設備配管、防火扉を設置するため、陳列室短手壁面をふかして、ダクトスペースを新設した。オリジナルの木製扉と木製枠はそのまま内部に現地保存され、既存の意匠を踏襲した木製枠を新設した。
【中庭】
空調機械が埋め尽くしていた裏の空間であった北中庭は、ガラス屋根を設けて、レセプションなどにも活用できる空間として、表の空間へと変貌を遂げた。南中庭は屋外展示空間として活用される。竪樋は極力そのまま現地保存したが、機能的に更新が必要なものは既存の意匠に合わせて同じ素材で再製作した。
【玄関庇】
西玄関庇は幕板・金物ともにオリジナルの状態と同等だったので、そのまま保存し、過去に改修されていた南北玄関庇は取り付けられたものを撤去し、幕板を新設して、保管されていたオリジナルの飾り金物を取り付けた。
【ザ・トライアングル】
本館と新館合わせて、最大で5つの展覧会を同時開催が可能になった今回の改修だが、それに加えて、「ザ・トライアングル」というギャラリーでも展示可能。ザ・トライアングルは京都ゆかりの新進作家を中心に展示するスペースとして新設され、作家・美術館・鑑賞者をトライアングルでつなぎ、気軽に現代美術に親しむことができることを狙いとしている。鬼頭健吾氏の後、木村翔馬氏、荒木優光氏、湊茉莉氏などの展示が予定されている。
「京都の美術 250年の夢」はコレクションがどのように形成されていったか、をシリーズでたどる展示である。まず「最初の一歩:コレクションの原点」展では、開館3年目(1935年)に開催した本館所蔵品陳列に出品された作品、47点(開館記念展や帝展、院展などで購入した作品や寄贈された作品が含まれる)を展示している。10月からは「京都の美術250年の夢 第1部~第3部 総集編 -江戸から現代へ-」展へと続く二部構成である。光の広間の周縁をぐるっと回る北回廊に展示され、順路の最後に開館時の記録として、竣工時の写真や図面、オリジナルの部材が展示されている。
新館「東山キューブ」で開催される初めての展示は、杉本博司氏の個展。写真家として活動する傍ら、古美術を扱っていたことがある杉本氏は、古物の収集家でもある。入れ子状に壁が立てられた展示空間は、外側は仄暗く「光学硝子五重塔」シリーズやかつて岡崎公園に立っていた法勝寺の瓦を含む古物などが展示され、入れ子の内側はさらに暗い空間となっており、極楽浄土を求めて建立した蓮華王院 三十三間堂の千手観音坐像を撮影した「仏の海」シリーズや新作の「OPTICKS」シリーズが展示されている。本展カタログに「瑠璃の浄土という仮想の寺院を建立するおこないである」と杉本氏が書いているように、仏堂の外陣と内陣を思わせる対比である。京都の歴史と作品が幾重にも共鳴している別世界のように感じる展示であった。
京都市京セラ美術館
〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町124
会期:2020年3月20日 ~ 9月22日
開館時間:10:00~18:00 事前予約制。(予約:https://kyotocity-kyocera.museum)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)/年末年始
【展覧会】
杉本博司 瑠璃の浄土 5月26日(火)〜 10月4日(日)
最初の一歩:コレクションの原点 6月2日(火)〜 9月6日(日)
公式ウェブサイト:https://kyotocity-kyocera.museum
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