去る6 月7 日、第14 回ヴエネチア・ビエンナーレ国際建築展が幕を上げた。今回はOMA のレム・コールハース氏の総合ディレクションにより「ファンダメンタルズ(基本要素)Fundamentals」と題され、11 月23 日まで開催される。コールハース氏は、各国パヴィリオンに対して統一テーマ「Absorbing Modernity : 1914-2014(近代化の吸収:1914-2014)」を設定し、過去最高数の65 カ国の参加国が、それぞれの国の100 年間を踏まえた現状を発表した。国際建築展で共通のテーマが提示されたのは初めてである。
「建築家」のためのビエンナーレではなく、「建築」のためのビエンナーレを実現すると明言(2013 年1 月25 日公式ウェブサイトより)していたコールハース氏は6 月5 日に行われたプレスカンファレンスで「ビエンナーレが現在の建築の状況を映していないと思っていた。今回は、今までとは違うフォーマットを用意して、歴史を振り返り、現状を再構築したうえで未来について考えを巡らすということを目指し、「Absorbing Modernity : 1914-2014」、「 Monditalia」、「Elements ofArchitecture」 という3つの展示を構成した。モダニゼーションは痛みを伴うものだが、どこの国も直面したことがある問題である。」と述べている。
近年、アートインスタレーションのような展示が多かった各国パヴィリオンも、今回のテーマに沿ってアカデミックなリサーチの展示が多い。過去100 年の中で何に焦点を当てるか、または網羅的に年表などを中心に展示をするか、といった判断など、例年に比べてよりキュレーションの力が試されるビエンナーレだったように思う。金獅子賞を受賞した韓国館は、パヴィリオン建設の経緯を含め、南北2つの国に分かれてはいるが、朝鮮半島全体としての展示を画策し(実現はしなかったが)膨大なリサーチで、さまざまな側面から北朝鮮という国の近代化を浮かび上がらせるとともに、韓国との断絶と言う現在の問題も提示している。
細長いアルセナーレ(メイン会場の1つ)の展示空間をイタリアの国の形状と重ね合わせ、ホスト国であるイタリアの包括的なポートレートが細かく読み解いたメディカルスキャンのように展示してある。80 の映像、イタリアの様々な世代(20〜45 歳)の建築家による41 のインスタレーション、6カ所の舞台(そこにコンテンポラリー・ダンス国際フェスティヴァル、ヴェネツィア国際現代音楽祭、国際演劇祭、国際映画祭が組み込まれ、これも今回、初めて実現。)で構成されている。ファンダメタルな(基本となる)国としてイタリアが取り上げられており、他の国々に起きている問題と重なる点も多い。
コールハース氏は「私は建築における1つの要素を選んでそれに焦点をあてて設計をしてきた。本来、建築においてそれらは無言だが、それらにフォーカスした場合、どれほどのインパクトを与えるかについて興味があった。」と語った。コールハース自身が教鞭を執るハーバード大学GSD リサーチスタジオと専門家たちとのコラボーレーションによって、床、壁、天井、屋根、扉、窓、ファサード、バルコニー、廊下、暖炉、便所、階段、エスカレーター、エレベーター、スロープ(傾斜面)という要素がそれぞれ古代から将来までグローバルに詳しくリサーチをされ、多くのモックアップや実物とともに展示されている。これらの展示物はElements of Architecture(8月出版予定)という本からの選りすぐりである。
コールハース氏の意図通り、世界的に名前が広く知られた建築家の活躍はほとんど目立たず、批評家や若いリサーチャーが活躍した舞台であったと言えるだろう。レムは唯一神になりたかったのでは?という口の悪いキュレーターもいた。キュレーターたちは「次回のビエンナーレのディレクションがそれほど難しいとは思わない」と言っていたが、コールハースによって白紙に戻された感がある建築ビエンナーレの今後の方向性を定めるのは容易ではないように思う。Herzog & de Meuron のジャック・ヘルツォーグが次回、またはその次の建築ビエンナーレのキュレーションを引き受けるかもしれない、とiconeye で答えている。ただ、建築展というのは建築を展示することができないというビエンナーレになりそうだとのことで、これが彼なりの布石なのか、本心なのか、数年後に明らかになるのをとても楽しみにしている。
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