KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

studio velocity|愛知県岡崎市|人と人が関係性をつくる余白(2/2)

文・写真(明記以外):柴田直美

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山王のオフィス

[ 愛知県岡崎市、2018年 ]

周囲に建物が建て込んでいて開口部が取りにくく、壁際が有効に使えないことから中心性が強くなってしまう点を解決するワンルームを考えた。ドーム型が中心性をもつ形だとすると、その反対の形状であれば中心性が薄らぐと考えたことと、奥(端部)にできる高い空間がそこへ行ってみないとわからないというシークエンス性も獲得できることから、中心が低い曲面をもつ屋根になっている。屋根を介して、水面の上下のように違う空間が広がっていて、3つの中庭がそれをつないでいる。中庭は建坪率と採光を確保している。

曲面を設計して来た今までの経験から、通常のやり方で曲面をつくると予算に収まらないことがわかったので、経済的に曲面をつくる新しい方法を模索した。まず、直線材を自重でたわませ、かつ下に引っ張り、テンションをかけた状態の梁を柱で基礎に固定し、梁が上に戻ろうとする応力が屋上に乗る人の重さを支える方法を考え出した。次に、曲面を実現するには柔らかい材料がいいが、大人が何人も屋上に乗っても問題ないほどの引っ張り力にも耐えるには硬い材がいい、という矛盾の中で、折れないが曲がりやすいという集成材をつくるために、集成材の材料を全て測定し、16層のラミナ材を長さと硬さのデータによって、梁の曲げモーメントに適した場所(中央には硬い材、端部に柔らかい材)に配置して適した集成材をつくった。

ワイヤーで引っ張るのが最も合理的だったが、あまりにも構造がそのまま現れていることや、ワイヤーの存在感があまりないので、人がぶつかってテンションが変わってしまって安定しないことも考えられたので、木の柱にした。一見すると木構造に見えるが柱にしては細すぎることで不思議な新しい表現になっていくと考えた。150人が屋上に乗っても問題ないように構造計算をしてある。

 

木造地上2階建/敷地面積:331.25㎡/建築面積:198.74㎡/延床面積:209.5㎡(1階:187.12㎡、2階:22.38㎡)

 

美浜町営住宅河和団地

[ 愛知県知多郡美浜町、2017年 ]

studio velocity | KOWA PUBLIC APARTMENT COMPLEX IN MIHAMA

10棟からなる河和団地のうち、3棟を解体し、建替えられた町営団地。耐用年数を経過したPC造2階建ての6棟が対象となり、今回は第1期として3棟が建て替えられた。

人口縮小化が進む現代の日本社会の現状を踏まえて住戸数を減らし、地面に近くて子育てがしやすく、高齢者にも対応できる生活の場を用意された。コミュニティが生まれやすい場所づくりを目指し、大きな軒下を中心に設計されている。

「住み手が入居してから数か月後に団地に立ち寄った時、隣の家の赤ちゃんをあやす女の子や、お隣どうしで昼食を一緒にとっている家族に出会えました。」と栗原さん。下校中の中学生が芝生でくつろいでいるなど、周辺のコミュニティも含め、暮らしが営まれているその風景は、人口流出や少子高齢化に歯止めをかけるため、若い子育て世代の支援をするという町の期待に応えていることを物語っている。

 

木造地上1階建/敷地面積:2205.45㎡/建築面積:607.58㎡(61.98㎡×6棟、57.8㎡×3棟、62.3㎡×1棟)/延床面積:497㎡(一棟あたり49.7㎡)

 

愛知産業大学 言語・情報共育センター

[ 愛知県岡崎市、2013年 ]

studio velocity | 愛知産業大学言語・情報共育センター

愛知産業大学のキャンパスの中心に位置する言語・情報共育センター「PLASU (PLatform for Aichi Sangyo University)」は、最寄り駅と大学を行き来するスクールバスのバス停や,語学学習やものづくり,学生間の交流のためのスペースをもつ大学施設。4mの高低差の崖があった敷地を緩やかな勾配のランドスケープに造成し、その起伏に寄り添うように言語・情報共育センターがある。周囲の校舎で学ぶ学生が移動の際に通り抜けたり、バスを待つ間、芝生でくつろいだり、機能に特化しすぎない余白が残されている。

現在も愛知産業大学で教鞭を執る2人は学生がセンターでどう過ごしているかを観察して、フィードバックを得て、設計に役立てているそうだ。

 

鉄骨造地上1階建/敷地面積:14,402.76 ㎡(計画敷地面積 3500㎡)/建築面積:1,170.01 ㎡/延床面積:452.77 ㎡

 

連棟の家

[ 愛知県岡崎市、2016年 ]

個人が営む美容院とその家族の住宅で、さらにバス停を取り込み、通り抜け散歩道を設える計画。外部空間と内部が同じようなスケール・密度感で反復するような2〜4畳半の小さな26の棟の連なりとし、周囲の2~3重に建て込む旗竿地への圧迫感を低減しながら緩衝帯となるような外部を多くつくった。小さな26の棟は近隣旗竿住宅地の密度感を和らげ、空地環境を提供し、対角線上に横断する散歩道は、近道をつくりながら広大な田んぼの景色とつなげ、圧倒的に小さい26の建築群に対して、大きな樹々は周囲の都市スケールと拮抗する。独立した棟を連ねて並べていく「連棟」形式の特徴は断面図に現れる。ある断面では庭と内部空間が同じようなスケールで反復する分棟として建ち現われながら、ある断面では長いワンルームとして建ち現れる。連続した内部空間でありながら、スケールの似た内部と外部の反復と反転が起きることによって、ヴォリュームや面積を超えた広がりを感じる空間体験に繋がるのではないかと思っている。

構造は、在来軸組み工法ですべての四隅柱を90mm角とし、小さな空間スケールに対応したメンバーにした。26の棟を8つの群としてとらえて、各群内・群と群の補完関係を確認し耐力壁を配置している。たとえば、ダイニング棟は耐力壁がなく開口部のみでつくられているが、水平力は隣接するキッチンや子ども部屋に伝達されており、連棟形式によって強い棟と弱い棟が寄せ集まることにより、みんなで支えあうような相互補完関係が成立している。

敷地には毎日バスが停車して待っているお客さんを乗せ、美容室には1時間ごとに違ったお客さんがやってくる。近くの実家に住む建主のおじいちゃんは樹木に水をあげにくるようになった。隣接する旗竿住宅のひとつがピアノ教室を営んでおり、子どもたちが敷地の脇の木々を見ながら通り抜けていく。

都市の粗密の間にできたスポンジのようなポーラスな極小環境が、周囲のさまざまな環境を吸い込み、ここで営まれる小さな生活と混ざっていく。[ 文:studio velocity ]

 

木造1階建/敷地面積:249.88 ㎡/建築面積:78.86 ㎡/延床面積:78.86 ㎡

 

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