インタビュー No.009

藝大で建築を学ぶということ

六角鬼丈氏 インタビュー


- 再生時間:19分53秒 -

入試

六角

入試に関しては、僕らの頃と今と、変わらないものもあるし、変わってきたものもあるんです。基本的に変わらないのは藝大の試験が一次、二次と二度あって、今学科はセンター試験で4科目、今度5科目にするかもしれませんが、得点と、それから点数だけで切れないものですから、空間考査っていう試験をするんです。それはだいたいどんなものかっていうと、立体とか空間的なことに対して適応能力がどれくらいあるかっていうこと。昔は幾何学っていうのがあったでしょ。それだけでこの頃、幾何学をやってきてない人がいっぱいいるんだよね。数学的なこととかね。それは余談になるけど全般的に高校の数学から外れてきているのは僕は反対なんです。それとどれくらいの学科のグレードにするかっていうのがあります。それと今言った空間考査でやって、そっちで図形とか立体的な問題・考え方をどれくらい解けるか、っていうのがやっぱり一つあります。そして更にそれを午前中だけの試験なんですが、鉛筆デッサンで描かせるわけですね。ちなみに問題の大半は解いた立体を出題の方向性によって各自画面の中に構成して光をあてて描く。更に透明とか不透明とか素材を指定する場合もありますね。それを描きます。だから初めて現役で受ける人にとってみると、ちょっと全く経験してないことがいくつか入る。だからといって全然描けないわけじゃない。でも基本的に浪人をして、もしくは現役でも受験のための対策を練ってきた人は、前の問題も情報公開されてますから、どんな問題が出るかっていう中で、ちょっとトレーニングしてくれば出来ない訳ではない。でもあとは上手いか下手かっていうのはあります。センスがいいか悪いか。それと学科との合成点です。

実は僕らの頃の受験生は30倍だったんです。今は、10倍以下です。今年なんかは15人とるのに100人です。10倍きってるわけです。それでその最初の試験で約半数の50-60人に絞って、次に造形の試験と建築写生の試験と二つあります。二日間あります。これが結構、学生にとって体力を必要とすることで、造形の試験っていうのは、ある素材とか条件がいくつか与えられて、それによって造るわけです。今年は実はフラフープと片面ダンボールみたいな材料で、ある横幅1m以上の立体を造るわけです。9時スタートしてお昼休みとりますけど夕方4時くらいまでの間に全部自分で工作して造る。ところがテーブルに着地しちゃいけないとか、土台になるコンクリートブロックには接着はいけないとか。今度の場合、接着はいいのかな。といっても着かないですよ、だいたいね。要するにバランスをとらないと壊れちゃうわけ。それからコンクリートブロックとかそういうのの凹んだり、平らな方どっちか使うんですが、そこにどうやって咬ませて、かつフラフープって滑りますから、それをどういう立体でかかえるか、っていうのとかを、構想力として練らなきゃならない。感心するくらい上手い人もいるし、チャレンジして失敗する人もいるし、無難にやってる人もいるし、ずっと浪人長くやってトレーニングしてるからいつもワンパターンしか持ってないってわかるような人もいるし、そういう中で、やっぱりその試験なりのランキングを決めていくわけですね、A、B、Cランキング。大抵壊れて立ち上がらなかった人はその場でダメだね。

その次の日に、丁度おとといでしたけど、風の強い日でしたけど、基本的に外で写生させる。雨が降ると大学の石工室とかそういうとこで写生をさせるわけです。もうわかっちゃうから言いますけど、こないだ代々木の体育館だったんです。温度低くて寒かったけど、そこで朝から夕方まで描くわけです。それでやっぱり見て、A、B、C、Dとランキングして、なかなかAプラAなんてとる人はいないんですよね。写生の方はだいたい基本的にはトレーニングして練習してる人間の方がやっぱり上手く描けますね。してない人は、丹下さんのオリンピックなんて捩れてるから結構難しいんですよ。それとか遠近感が描けなかったり、いろいろありますね。それとか後は建築物だと表面だけ描く人と、例えば人体デッサンでもそうなんですけが、中の骨を理解してその表面を描いてる人と、それから単純に表だけ描いてる人と両方いるわけです。上手ければどっちでもいんです。でも建築物になってくると、出てる形とそれがカーブして流れてどこへ連続してるかとか、全体がどういうもので捩れてるのか、シンメトリーなのか、スパンも綺麗に並んでるのか、段々に縮んでってるのかとか、そういうモノが持っている元々の基本的な形の理解できる人と出来ない人は随分違うね。それでもって、やっぱり合計点でとるんです。そういう試験をやるわけです。

いつも毎年この試験の方式でいいのかどうかっていうのは、結構教員が議論するわけ。ただ長い間それに似た様な建築写生とか立体の能力をみながら入れてくるということを藝大の伝統としてやってきました。ただこの頃どこの大学でも受験生が減ってるから出来るだけ受け易くしようっていう考えがある。受け易くするには物事を省略していくってことが一番簡単なんですよ。でもその省略の仕方があんまり省略すると「どこでもいいじゃない」っていう風になるわけ。一つはある全体の総合能力の高い人間をとりたいんだけど、もう一つは絶対東大なんかには受からないけど、ひょっとしたら藝大なら受かるかもしれないという能力も無いことも無いんです。やっぱり建築が好きで、そういうことを解くのが非常に能力のある子とか、センスがあるのっていうのはたまさかいるわけね。そういうのにやっぱり僕ら門戸を開くべきではないかと。そうじゃなければ東大と同じ試験やって、ランキングの低いのをとればいいじゃないかと。やっぱり藝大は藝大らしいとり方をしてもいいじゃないか、っていうのは基本的な中身であるわけです。ただ時代が変わってったらどうなるかわからないよね。ただその時は藝大そのもを無くせばいいじゃないかっていう風にも言ってるんだけど、そういう風に今のところ試験をやってます。

更に昔は面接があったんですね。今は面接が必要か必要でないか、っていう議論も盛んになされてます。基本的には面接やりたい、っていうのは本音ではありますね。ただ周りから「何のために面接するんですか」って、「面接でとるとらない決まるんですか」っていうそういう質問に対して答えようがないわけですね。ただやっぱりヒヤリングは重要で、何かモノを造るときの意欲とか、造ったものを自分で説明が出来るかとか、コミュニケーションがどうやってとれるかとか、それはやっぱり建築やるのに、僕らは相当重要だっていう風に思ってます。

授業・課題

六角

やっぱり特徴的なのは家具の実物を造らせるっていうのと、それから建築の実測をやらせるっていうこと。これは少人数だからできると思うんですよ。15人でしょ。まぁ20人じゃあいたらどうなのか、って言われると、20人でも別に問題はない。でもそれぐらいが限度でしょうね。今のような藝大のFACE TO FACE。要するに顔を見て教育してるっていう。それが50人60人になると部分的に優秀な人間だけに絞って大抵やってるわけですよ。そういうところはね。だけどそれをやると、原則はFACE TO FACEでは無くなるんですよね。藝大の場合は学生の名前一人一人もわかってるし。

1年の最初に基礎教育をやって、それであと夏前から椅子の課題があるわけですね。僕らは椅子の課題っていうのは、ある意味建築だと思ってるわけです。人間の身体とか寸法とか、それから触覚、感性、そういったもの全部加わってきますから。それから椅子に座るといろんな体の動かし方、行為をしますね、それが広がっていくと、空間とか建築とかっていうのになんとなく言葉とか考え方が拡張するだろう、っていう風に思ってるわけです。椅子1個造ってもやっぱりジョイントとかいろんなものがでますからディテールがでるわけですね。

それからあとは少なくとも木造的にいえば建築造るときに実際どうやって造ってるんだろう、単純に鉛筆で描いたものでホイって放り投げて出来るもんじゃない、っていうのは少しづつ身にしみてわかってくる、っていうのはありますよね。実測はやっぱり合宿して、それも実際の古い建物です、基本的には。それを全部屋根裏なんかに入って、自分達で全部ノートつくって、最後に図面を描いておこして、木組のディテールとかそういうのは全部わかってくる。

それから共同作業ですね。それも何がって言われると困るけど、ボクシングでいうとボディーブローのようにきいてくるわけですよ。そういうことをやってるということがですね。

あとは1年から設計課題があるんです。最初から1年から設計課題をやらせるっていうのが藝大の特徴で、他の工学部系の大学は2年からとか3年からっていうのはありますよね。東大なんかは3年から本格的にやると非常に設計に入ってく期間というのは短い。

大学院

六角

藝大の学部生から受験する人が多いし、それから、そうすると他の研究室は学部生は受けてない研究室がいっぱいあったりとかですね、そうすると他大学から来てるし、一時期藝大はなんかわりと入り易いんじゃないかみたいなことを言われたんだけど、今は厳しいです。すごく倍率高くて、他大学から来ても入るの結構大変かな。ただ研究室制になってますから、研究室のそれぞれの特徴でもって選ぶので、とらない研究室もあるし、いろいろあります。他大学の学生からしてみると、この頃学生同士がもともと浪人時代に藝大に入れなかった人もいて、そうすると友達とかいろんな環境があるから情報が繋がるわけです。それが一つ。

それからもう一つはうちの課題の講評会は全部オープンにしてますから、他大学の学生が聴きに来てても排除しません。基本的には。ただ、それは口コミ程度にしといてもらって、あえて宣伝しない。だけど講評会は全部オープンでやってるわけです。質問はしないけど、外で聴いてる分には構わないっていう。それで何人か見たことの無い顔の人がいっぱい来ます。卒生の講評会も来ます。

あとは受験してくる人達に聞くと、藝大を受験したい希望は、受験する学校で、やっぱり大学院教育とか学部教育が、藝大のように大学が手を差し伸べてきちんとやってきてるのとちょっと違うから、羨ましいんだよね、彼らは。他大学のこと、正確じゃないんで、間違っちゃうといけませんが、例えば早稲田なんかから来ると、課題の講評会なんていうと10人くらいしか選ばれなくて、他の人は何の講評もなく外で聞いてるだけだっていうこと。例えばですよ。他の大学でもそれは武蔵野美術大学でもどこでも、工学院大学になるとものすごい人数なわけですね。そうするとそこもやっぱり限られた小数しか教員と話ができないとかね。藝大の場合は一人に対する講評時間が長いわけです。エスキースも長いですよ、一人30分、1時間平気でかけてやってますからね。そういうのは他大学からしてみると、良し悪し含めてある意味羨ましいですね。自分のことも聞いてもらえるっていうのが一つ。

それからもう一つはやっぱりどっちかっていうと芸術系とかそういうのが好きだから、藝大にくると絵画もあるし、彫刻もあるし、デザイン科もあるし、横がありますね。そういうところの環境で自分がやりたいっていう。環境を選ぶ人、大学院いく人は教員を選ぶ人、その研究室って入っても毎年1研究室で6、7人のところ3人くらいしかとりませんから。それに外部の研究生とか博士がいれば、8~10人くらいの人数になる。この頃は外人が増えましたけどね。そのぐらいでやりますんで、とにかく教員と直接話ができる。それから隣の研究室の学生同士と、いろんなことをいつも話し合える。全部で大学院1学年18人くらい、2学年で35~6人ですね。その1/3から40%くらいが今でも外部からの進学者です。いろんな大学の人達が来ていて、そういう学生同士が、この頃の若い人たちはチーム組んで、コンペに出してとったりしてるチームもいますし、いろいろ横の繋がりはかなり出てきている。

他大学に比べて藝大生は過保護だという声もあります。

六角

保護かもしれないし。だっていろんな過保護があるじゃないですか。何も面倒みないのに就職だけ面倒みてるっていう大学だってあるわけで、それはどういう意味で過保護なのかっていうのは僕にはわからないね。だってその就職を斡旋する学生が、どういう資質であるか、その学生がどうであるかは関係ないわけだよね。だって就職して採ってくれるところがあれば御墨付どんどんだして、言っちゃ悪いけどそうやって就職させてるわけじゃないですか。その結果、そういう人達が社会で建築造ってるわけだよね。それに対して教育期間って何の責任を持ってるんだ、っていう話しかないもん。

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