インタビュー No.006

コンサバ+オルタナティブ=『建築雑誌』

五十嵐太郎氏 インタビュー


- 再生時間:15分44秒 -

五十嵐

これはこの媒体『建築雑誌』(日本建築学会刊)の特性でもあるけれども、書店売りをしていないので(注1)、号によって売れ行きが良いとか悪いとかもないし、どんなに好評であろうと、どんなに悪評であろうと、2年で(編集委員長としての任期が)切れる。会員が読まないのであれば、好きなようにやってもいいって考え方もあるが、3万5千人全員が『建築雑誌』を読むってことはすごく難しい作業です。

今回、最初の号を出して気が付いた事の一つとして、「特集が何であるかすら、見ない人がかなりいるな」ということです。つまりこの特集タイトルは相当インパクトがあるはずなのですけれど、特集が何かということも見ない、つまり本の中身を開かない。開かないどころか送られてきた時の袋を開封しないんですよね。あの袋が微妙に開けにくいというか、簡単に開封出来ればいいのですが、引っ張ってもまだ残るような袋になっていて、実は内容を変えるより先に、ものすごく物理的に、「開けなきゃいけない」、「開いてしまう」、それぐらいの仕掛けがないと実はダメなんじゃないかと、ちょっと思いましたね、内容よりも前に。とにかく「開封しない」というアクションを何とかする、逆にいうと「開けさせる」ですね。それは1月号の反応の話でいえば、そもそも開封しない人がいる、ということに気が付いたのが一つですね。『建築雑誌』を開く前に、あの袋を開封しないで、そのままずっと積まれてしまう。自分もそうですし。

1月号のコメントでは、植田実さんの「読者が全員寄稿者だ」というのは、それはすごく確かにそうだなと。これを読んで、2年の間にやろうと思った企画は、もともと会員の声というか、会員が書いているものですから、植田さんの文章を受けて、どういう形でやるかはわからないですけれども、過去にも何かテーマを決めて、例えば「都市再生」とか、そうやって論文を募ったことはあると思うのですが、そこまでハッキリとテーマを決めずに、もっと本当にエッセイに近いもの、かなり自由に書けるようなもので、出来れば丸々一冊全部それでできないかな、というのはちょっと思っているんですよね。どういう形で募集するかわからないですが、つまり潜在的に書きたい人はいっぱいいるし、研究論文などは他に企業誌だとか媒体が各種用意されているので、ここではむしろ文章をある程度の人が読んで、社会に向けて開いて、面白いものを書ける人、潜在的に建築学会員内にどれくらいいるのだろうと、ちょっと関心もあって。いわゆる『新建築』だとか『10+1』といった建築論系の意匠系のメディアで書いてる人は、だいたいどういう人が何を書けるかということが、ある程度わかるのですが、現実に建築学会員が3万5千人いて、そうではない人が圧倒的に多い訳で、そうではない人の中にも実はけっこう文章を書ける人がいるのではないかと。あるいは書きたい人がいるのではないかと思っています。それをなんとかしたい。逆に言うと他の雑誌媒体でこんなことはできないです、多分。ある意味で(誌面を)全部解放するようなことはできないので、ちょっとやってみようかなと思ったのは、植田さんの「読者全員寄稿者」という文章を読んでです。これはすごく印象に残りましたね。

漫画とかも入ります、そのうち。既に入っているんですけど、漫画が学生向きかというと、よくわからないですが。

人とのインタビューも、比較的若い人と、いわゆる会社の社長-日建設計とか久米設計とか、そういういわゆる大物と若い人との組み合わせ、その二つのパターンでやっています。特に若い人の時は「学生へのメッセージ」と書いてあるので、結構学生が読めると思います。

建築雑誌1月号に掲載されている五十嵐先生へのインタビューですが、そのページだけ記事の向きが違うのは?

五十嵐

あれは雑誌の中にオルタナティブメディア、違う雑誌が組み込まれているということを表現するためなんですよね。ただ号によって変わる可能性はあるのですけれども、要するに、このページ自体が建築系のフリーペーパーとかタブロイド紙とか作る動きがいくつかあるので、学生がやっている活動を紹介する。学生の活動を紹介するものは過去にも企画があったのですけれど、これはむしろその学生がやっているメディアそのものが学会誌に割り込んできた、というような体裁をとっているんですね。ですからレイアウトの組み方を変えたり、特に1月号の時はイレギュラーにやっています。本当は連載ページにくるんですよね。ただこれを特集としてやった時に、結果的にこの号の「ROUND ABOUT JURNAL」という藤村龍至君達がやっているところに一回お願いしたら、僕にインタビューしたいって言ったので、結果的に今、僕がしゃべってるのと同じような話ですけど、(学会誌の)編集委員長としてどういう風にしたいかみたいな話をインタビューされているんですね。この特集が無くてもだいたい任期2年の最初の時には編集委員長が何か書くんです、通常。考えてみたらそのページをまだ作ってなくて、じゃあこれがここに割り込めばいんじゃないか、ということで、この号に限ってはこの「建築雑誌ジャック」というのがまさに割り込むような形でして、雑誌のデザインをやっている松田行正さんにも「何か割り込んでいる風に目次に表現して」ってお願いしたので、こうやって斜めに入り込んでいるような形をとっていますね。

さっき言った藤村龍至君も今回、編集委員会にいますけど、彼はまさに僕らがかつてやった、同人的な雑誌というかペーパーを自分達で発行しているんです。彼らは結構若手の核になっていて、いわゆるオルタナティブメディア-つまり学会誌でもないし、商業誌でもなくて、タダでフリーペーパーとしてタブロイドで配るようなオルタナティブメディアをつくっていて、その一番元気な核になる人が、実はこの編集委員会に若い人で入っています。面白いのは120年の歴史のある最もある意味ではオーソドックスで、保守的で、コンサバになってもおかしくない『建築雑誌』の中に、既にオルタナティブメディアをやっている人が直接関わっている、埋め込まれているという、非常にねじれた状況が今、起きていて、一方でここ数年で次々と建築雑誌が休刊になったり、廃刊になったり、『10+1』ももう終ってしまいますし(注2)、そういう建築雑誌が次々無くなっていく中で、ある意味では一番先端的なオルタナティブメディアが、『建築雑誌』とねじれて繋がっているっていうのは面白い状況になるのではないかと考えています。そこは学生も関心を持つと思います。

「ポスドク問題」が取り上げられていますが、建築家が食えるかどうか、というのは『日経アーキテクチャ』も結構それに近い記事はやっているので、僕らでやってもいいし、考えてもいいのですが、他のところでやっていなくて、僕らにできることとしたら「ポスドク問題」。せっかく研究者として上に上がったのだけれども、高学歴フリーターみたいな状態になっている「ポスドク問題」。これは多分『日経アーキテクチャ』でも『新建築』でも取り上げない、学会誌ならではですし、やはりタブーになっているというか、朝日新聞なんかも記事にしてますけどね、理科系のそういう「ポスドク問題」などは。大量に院生をとっておきながら、博士課程をとっておきながら、それがみんな就職できるかというと、できないという、状況として結構きついものがありますよね。それについて当事者のポスドクがメンバーにいるので、その人が担当でやるんです。「ポスドク問題」は建築の業界というか、学会にとっても、未来にとっても問題なので、とりあえずは状況を可視化するというか、ここで解決策が出るというものでもないと思うんですけど、みんな薄々思っていることなんです。

『建築雑誌』の今後の展開は?

五十嵐

3月号でいうとレム・コールハース以降の建築理論です。建築理論、建築論、建築批評の特集は過去にもあったと思うのですけれど、レム・コールハースという固有名詞でやるのは『建築雑誌』としては珍しいというか、多分初めてだと思います。あとはわりと建築教育にみんな関心があって、『建築雑誌』を読んでいる人に大学関係者がそれなりに多いと思いますので、二回ぐらいは建築教育や設計教育についての特集をやると思います。
それとさっき言った、やはり他の雑誌との関係をすごく考えるわけです。つまり『日経アーキテクチャ』がやるようなことだったら、やらなくてもいいかなと。そうすると建築教育や設計教育は他の雑誌ではそれほどやらないはずだから、ここにはきっと意味があるだろうと考えます。逆に言うと、そういう意味で、『10+1』がなくなるので、実は『10+1』的な内容が入ってくるんですよ。例えば「批判的工学主義」というコンセプト。この概念を提唱している若手の先程言った藤村さんのグループが、本来『10+1』の特集に入るべき内容だと思うんです。

今回は、第1特集、第2特集と二つに割っているんです。今までは大特集主義で1号1特集だったのを二つに割って、取っ掛かりを増やすと。1号に一つの特集の場合、自分の興味があるのが十回に一回しか回ってこなかったとすれば、二つに特集を割れば五回に一回ぐらい回るかもしれない。そうすると第2特集の方は少しページが少ないので、更に変わったことができるので、そちらの方で例えば「批判的工学主義」という概念について考える特集を組むと、今一時的に日本でなくなってしまっている理論系の『10+1』のようなコンテンツになると。

2年間の間そうやって、今の建築雑誌がいくつか休刊している急場をしのぐ役割だと思っています。で、その2年の間に他に新しい建築雑誌が出て、新しい芽が出て、育ち始めたら、バトンタッチできるかなと思っていますね。そういう感じですかね。

もともとはとにかく「建築雑誌は必要か」というタイトル自体、多分自分の知る限り、普通の雑誌が自分の雑誌の存在を疑った、というのは聞いたことがないので、多分あらゆる雑誌からみても相当ラディカルなことをやっていると思うんです。例えば『Studio Voice』でもいいし、どんな雑誌でも「自分の雑誌が必要か」って思ってないと思うんです。

また、声で配信する、今だったらポッドキャストで、音で配信するような建築系のメディアも考えています。これだったらあまり手間隙かけずに、絵もないし、結構できるのではないかなって実は思ってるんです。これは『建築雑誌』と関係ないかもしれませんが、次の建築メディアの姿として、語り中心にポッドキャストで、毎回どう配信するかわからないですけど、多分それだったら学生なんかもダウンロードして聞くんじゃないかなと思うので、ちょっと可能性としては関心を持っています。ただ単純に長いトークでも有りだと思っているんです。例えば『建築雑誌』でいろんな人にインタビューに行くと、藤本壮介さんもせっかく3時間ぐらいインタビューしたらしいんですけど、見開き2ページに編集してしまいます。その3時間分を30分ずつ五、六回ぐらいに『建築雑誌』で収録しきれない分を(ポッドキャストで)配信するとか、これぐらいのことだったら、こういう企画に付随してできると思っています。

(注1)現在は神保町/南洋堂で購入できます → URL www.nanyodo.co.jp
(注2)『10+1』INAX出版よりNO.50まで刊行され、2008年3月休刊