インタビュー No.005

JIA会長就任に臨んで

出江 寛氏 インタビュー


昨年11月26日の選挙で、JIA(社団法人日本建築家協会)会長に選出された
出江寛氏に、会長立候補の経緯と今後の方針についてお聞きしました。

会長選挙へ立候補することに

出江

立候補する気はさらさら全く無かったんです。北海道から沖縄まで全国10支部のうちの7支部の支部長と理事の方とか15人くらいが、私のマンションに来て「会長に立候補してくれ」っていう話があってね。「その気はない」って言ったんですけど、「改革をやって欲しい」と。今のままではJIAはしぼんでしまうし、マンネリズムだっていうことなんでしょうね。
私は歳だし、気楽にいきたいと思ってたんだけどね。だけど「やれ」っていうことで、それじゃあ今いる現支部長に「もう一期やりますか?」って言ったら、「出江さんが会長になるんだったら、もう一期やります」と。梯子をはずされてもかなわないので、「連判状を書いてほしい」といったら、連判状を皆書いたもんだから、それじゃ、しょうがないということで、仙田さんと選挙ということになってしまったわけです。立候補をさせられたという感じだね。

中央と地方の格差是正を

出江

それで要するに勝った以上は、以前から僕はこうあって欲しいと思っていたことがあって、それはJIAが今までやってこなかったことなのです。
初代会長の丹下先生の時から20年経っても我々の業務環境は何も改善されないどころか、段々悪化している。それで今設計事務所がみんな大変困っている。日本経済の70%が東京に集中して、残り30%を全国で分け合っているわけでしょ。そうすると地方の仕事がどんどん無くなってしまった状態で、東京はそれなりに潤っているけれども地方は本当に切実なわけです。
だから設計業務環境を改善したいという意欲は地方ほど強いし、このことは僕自身も何とかならないのかなと日ごろ思っていたことです。

設計と施工の分離を目指した初代丹下会長

出江

振り返ると、初代会長丹下先生は専兼分離を実現するために会員を3万人にしたいといわれた。 何故かというと、法律を変えるためには議員立法で、議員さんを動かさないといけない。ところがJIAはお金がない。お金がないから会員数を3万人に増やして、選挙の時の票田を募って我々の思想等に共鳴してくれる議員さんを当選させて、いわゆる専兼分離、設計と施工を分離して欧米のようにしたいというのが丹下さんの考えだった。しかし旧家協会の人達は「そんな建築家が3万人いてどうする?」っていうのね。それでも丹下先生は自分のプライドを捨てて業務環境を改善しようとしたわけです。欧米なみに専兼分離。だけど実際には8千人くらいしか集まらなかった。今4800人に減ってしまった。 会員がどんどん減る方向で丹下さんの夢は実現できなくなった。そこで私は専兼分離に変わって、設計料を有償とするという法律を立ち上げようと考えています。

設計料有償を法制化

出江

設計事務所に頼もうが工務店に頼もうが、設計料というものはいるわけです。ところが工務店に頼んだ場合、設計料はサービスですという場合がある。実際は工事費に含まれていますが。
今、あらゆる業界が透明化しようとしているわけでしょ? 100円か200円のお菓子ですら透明化しようとしているのに、何百億とか何十億とか億のつくものがいまだにどんぶり勘定で不透明だというのは考えられないことです。最初に1人が口火を切ることで「そうだ」という人が集まってきて、それが大きい輪になって、やがて国を動かすようなことになっていくと思う。だから誰かが言い出さないといけない。 
そこで私は、他団体と組んで、こういうことを言っていこうと思う。 
透明化、透明化と社会が言っているときに建設業界だけがどうして不透明がまかり通るのか。談合、ダンピング、耐震偽装、建材の偽装、次から次に問題が出てきますね。耐震偽装にしても問題の根本はあまりにも安い設計料にある。それだけではないけど一番大きい理由はそこにある。建築家がもっとがんばって、きちっと責任を果すかわりに、設計報酬もきちっと頂くというようにしなければならない。今は責任だけ重く報酬は低いというひどい時代になっているわけです。
法制化する法というのは万人に平等でなければならない。
設計料有償を法制化しようと思っても、全国の中でいったら顕微鏡で見てもわからないくらいの会員数しかないJIAだけで実現できるわけがない。だから、他団体と一緒に運動することが一番大事なことです。

専業設計者、兼業設計者、施工者が一体に

出江

現在JIAで行っている登録建築家制度をオープン化し、専兼かかわらず全ての門戸を開放します。次に登録建築家協会というのをこしらえるわけです。デベロッパー、建設業、ハウスメーカーなど、いろんなところにいる設計関係者に登録建築家協会に入ってもらいます。つまり、登録建築家協会という統括設計者の大きな輪があって、この中にJIAという純粋の設計者団体があるという構造にするわけです。
設計監理を統括できる能力を持った設計者の団体=登録建築家協会というのをきちっとして、施工会社の設計者も、我々みたいな専業の設計者も一緒になって国にあたる、というのがほんとのやり方と思います。スタートするのは来年5月だから半年先だけど、今からぼつぼつネゴシエーションをしていこうとしています。
一番大きい話は、専兼分離という路線で20年間走ってきたJIAを、設計料の有償化という路線にガチャンと切り替えることです。要するにゼネコンも設計料を有償とする法律を立ち上げましょうという方向に軌道を引き直します。
法制化の実現は1年や2年で出来るわけがないんで、私はまずレールをしっかり曳きたいと思います。今度そっちへ向いて走っていたら、やがて何年か先にひょっとしたら専兼分離へ繋がるかもしれない。

設計料の有償化が専兼分離につながる?

出江

今はタダって言っているから土俵が違うけど、施工業界も設計料を取り設計責任を取るようになれば、土俵が一緒になるわけじゃないですか。専兼分離に対してこれまでより抵抗は少ないかもしれない。但し、私は専兼分離をいうつもりはありません。
有償化の具体策は台湾方式っていってね、確認申請の書類だすじゃないですか、その時に契約書通りに設計料を払ったと、設計監理料を払いましたという領収証を一緒に添付しなかったら確認申請の受け付けや検査済証の発行をしない。例えばすごい構造計算があるのに1円とか1%とか無茶苦茶な設計料になっていたらそれは受け付けないというようにしてチェックをするわけです。そういうようにしてしばりを作りたい。それでだいたい完璧になる。そうするとみんなが幸せになる。誰が一番幸せになるかっていったら、姉歯事件のようなことが起こらず、まず国民が幸せになる。 
15万か20万くらいですよ、設計事務所の若手所員の月給は。若者は建築業界で食っていけないから、優れた若者はみんなこの業界にきてくれない。どうなるかっていうと日本の住環境っていうのはものすごく悪化する。 
建築というのは日本の文化を創っているわけでしょ。その建築の設計料がタダだっていう無茶苦茶なことがまかり通っている。それを改善しようとしている。 
例えば北海道から九州、沖縄まで、小さい工務店に対してもアンケートをとって「設計料というものを法制化したいか」と聞く。私の勘では80%はOKと言います。それを持って国土交通省なりそれなりのところへ行って、「法制化してください」と、それは国民のためにもなるし我々業界のこの馬鹿げた話もなくなるのと違いますかと。姉歯の事件みたいなことはなくなって、みんな幸せになるのと違いますかと。そういう話をしていきたい。
JIA発足当時、出来ないことを丹下さんだったらやれるかもしれないと思った。ひょっとしたら時代が変わって専兼分離をして欧米並みに一流国家になると思った。けど、ならない。だからそんなことするよりも設計料をちゃんととって、監理もちゃんと契約して、確認申請でチェックするようになったら、ごまかしがきかないようになってくる。そうしたいと思います。

建設業法の問題点

出江

建設業法っていう業法の中には倫理規定とか契約規定とかいろんなことが書いてあるが、施工に関することしか書いていません。 
しかし日本の中には、施工だけやっている会社と設計・施工をやっている会社と二種類ある。施工だけしている会社には今の建設業法でいいけれども、設計・施工している会社に対しては不備な法律と思います。
要するに「設計・施工をする会社」は設計・監理と施工の2本立てで仕事してるんだから2本立ての業法がいるわけです。設計施工は日本独特の業態で、設計施工がほとんど無い欧米に倣った建設業法だけでは不完全です。今の建設業法の中に設計のこと書いてないから、設計を軽んじてしまうわけです。
業法の中に「設計・施工する会社はこういうことを守りなさい」と「タダはいけませんよ」というようなことをちゃんと書かなければいけない。要するに日本の特殊な設計・施工に対応した業法が必要で、2本立ての業法を打ち立てないことにはいつまでたっても「設計はタダ」という認識が消えないと思う。それも運動の1つです。

(2007年12月11日 於:出江寛建築事務所)