CRITICISM―審査講評

審査委員長

西沢 立衛 建築家/横浜国立大学大学院建築都市スクールY-GSA 教授

  • 西沢 立衛
  • コロナ禍ながら、密度の高い模型が並び、モニター越しのプレゼンテーションも力強く、非対面型の限界を超えるような素晴らしい講評会となった。
    最優秀賞「街の遊牧民」は、荒唐無稽な部分はありつつも、提案が街全体に広がるところに、閉塞感を打破するのびやかさとみずみずしさを感じ、私は推した。優秀賞「歩く、暮らす、はたらく」は迫真の模型であった。住宅のみならず都市空間創造への提案もしているという自覚があれば、一等になったかもしれない。「折り重なる内外空間」は興味深い提案だったが、模型が示す空間には密度と強さが足りなかった。入選「小さく囲われ大きく囲む63卓の庭」は、卓が空間や人々をつなげてゆくというもので、空間構成の秀逸さを感じた。入選「時間X空間X隙間」はたいへんエレガントは提案であった。反面多少均質な感じとなったのが残念だ。

審査委員

今井 公太郎 東京大学生産技術研究所 教授

  • 今井 公太郎
  • ポストコロナを見据えたリモートスタイルの可能性を問う課題でした。実際に我々の生活が味気ないリモート環境になったことに対しての抵抗なのか、あるいはこれをどうにかしたいという強い思いなのか、とてもエネルギッシュな提案が多かった印象を持ちました。大変ありがたいと感謝しております。
    今年の最優秀の「街の遊牧民」は、昨年に引き続き動物を媒介にした提案でした。人間とは異なる他者によって環境への視点が相対化されるのがこの種の提案の強みであり、敷地の外にあふれ出したエネルギーが感じられる提案でした。もはや動物シリーズはパターン化されてしまったかもしれません。次回のコンペではどうなることか・・。経路空間を立体的に組み合わせた「歩く、暮らす、歩く、はたらく」も建築空間に対しての強いこだわりと思い入れを感じさせる提案でした。その意味で対極的だったのは、入賞した「時間×空間×隙間」で、良く練られた立体構成で実現の可能性を感じさせる作品でしたが、一方でとても整理された静かな作品でした。
    アイディアコンペに求められる力強さと実施案向けの静けさを伴った完成度はある意味で矛盾するものであり、このコンペが目指す、実現性を伴ったアイディアの提案という難しい要求への回答として正直なところ評価が難しかったですが、結局、今回は元気のある提案の方が評価されました。今後のこのコンペの提案の方向性について考えさせられました。今回、参加してくださった皆さまの将来に期待しています。

原田 真宏 芝浦工業大学 教授

  • 原田 真宏
  • パンデミックが起こり、リモートでの社会生活が日常となって、もう1年を優に越えた。建築というハードはそう簡単に変化・対応できるわけでもないから、不満も溜まっているのだろうか、提案には実感を伴った具体的なものが多かったようだ。しかし、単に不満や不足を解決するための建築に留まらない(それは「建築」ではなく「施設」と呼ぶべきだろう)、新しい豊かさや楽しさを実現するポジティブな機会と捉えている人たちばかりであったのことには、同じく建築デザインで生きる者としてニヤリとしてしまった。
    最優秀となった「街の遊牧民」や、「ろくろっ首」と呼んでしまった(申し訳ない)「歩く、暮らす、歩く、はたらく」などはその最たるもので、中国の山岳地のように急勾配の屋根上緑地をヤギが行き交う風景が日常に重なる様や、住宅内通勤と銘打って計画学の常識の逆を張るかのように動線を最長化して複雑に関係しあうシーンを生み出したものなど、この非常時でなければ荒唐無稽とも取れる楽しい可能性を打ち出していて、高く評価された。
    私として特に印象深かったのは張さんの「時間×空間×隙間」だ。リモート作業をサポートする「離れ」や、在宅勤務の常態化による地域との接合を加速する「土間の様なエントランス」と「ピロティ」の設定は適切であるし、敷地形状に由来する斜線を含むジオメトリの効果によって、提案空間の追加から稠密となる全体に、程よいディスタンスを生み出し、心地よさげに解決している点は、学生とは思えない鮮やかな腕前で感心した。構築面にもリアリティがあり、POLUSコンペらしい提案だった。
    最後に、ファイナル審査会はもとより、提案全体にある種の「明るさ」が基調としてあったことは、特筆しておきたい。さすが「建築」、と自画自賛したいと思う。

中川 エリカ 中川エリカ建築設計事務所

  • 中川 エリカ
  • 昨年に引き続き、応募者とは非対面での2次審査となったが、会場に運び込まれた模型はどれも力作で、1次審査の時に感じた疑念を払拭したり、生活のありようを想像させるに十分な熱量を持っていた。そのことが作家不在の中でも、2次審査の会を盛り上げることにつながったと思う。
    最優秀賞「街の遊牧民」は、その作品名が示すとおり、敷地境界を超えて、街全体を住むためのフィールドだと捉える提案で、そのきっかけとして、街の空地の草を食べるヤギが登場するユニークなものだ。家の中だけに住むという窮屈さを打破し、生活領域を積極的に広げようとする姿勢が、「リモートスタイルハウス」というコンペのテーマによく合っており、1次審査の時から審査員一同感心した。2次審査では、ヤギというきっかけを超えた、より具体的な建築設計に結実していく過程を模型が語っており、票が集まった。
    惜しくも優秀賞となった「歩く、暮らす、歩く、はたらく」は、職と住の間に長い距離を取るためのパスを持った7軒の家が、執拗なまでに立体的に絡み合って総体を成す提案で、開口の配置にパターンが見られることや、全体を見通すヴィジョンの不足について指摘が上がったものの、それでもなお、作家の思いを十分に伝える、充実したプレゼンテーションだった。
    設計のきっかけをその後の設計によって乗り越えた最優秀賞に対し、優秀賞はまだ設計のきっかけの範疇を脱していないと感じさせるところがあり、そのことが、僅差ではあるが、評価を分けたポイントではないだろうか。

野村 壮一郎 戸建分譲設計本部 設計一部 部長

  • 野村 壮一郎
  • 社会の変容に対し、どのような住宅・建築をもって暮らしに変革をもたらすのか。あるいはリモートという言葉にフォーカスし、よりニッチでテクニカルな提案とするか。今回の「リモートスタイル」というテーマに対し、コロナ禍というネガティブな状況を前提とした提案と、リモートという新しい暮らし方をポジティブに捉えた提案とで、現れる建築の形に差異が生じる点が大変興味深く楽しみながら審査に臨むことができました。明快ゆえに「限定的」とも成り得るテーマでしたが、多くの提案は大きな建築の枠組みを崩さず独自に昇華させていて、学生の方々のテーマの解釈の深さやレベルの高さを感じました。そんな中で個人的には身近な暮らしの愛着を感じさせた「小さく囲われ大きく囲む63卓の庭」に好感を持ちましたが、最優秀の「街の遊牧民」には街に出て行き休耕地や空き地を活用しコミュニティを広げるという、ランドバンクに通じるユニークな「ノマドシステム」という提案があり感銘を受けました。建築の美しさは当然ですが、優れたプログラムによって提案の魅力が相乗する好例となったと感じています。
    昨年に引き続きとなってしまいますが、コロナ禍で自粛やリモート講義を強いられ、厳しい学生生活を送らざるを得ない中、意欲的に応募して頂いた全ての学生さんたちに感謝申し上げます。また次回への応募をお待ちしています。

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