世界の建築は今 No.167

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2019/09/02 18:45

Villa Industria Hilversum (Hilversum, Holland)

ヴィラ・インダストリア・ヒルヴェルスム(オランダ、ヒルヴェルスム)

Design : Francine Houben / Mecanoo architecten
設計:フランシーヌ・ホウベン/メカノー


シンボリックなガスタンク集合住宅

オランダのヒルヴェルスムと聞いて、とっさに「ヒルヴェルスム市庁舎」が想起されるのは建築家としては当たり前であろう。ヴィレム・デュドック設計によるオランダ近代建築の代表作品は直線的な構成でスッキリした表現。このヒルヴェルスムに完成したメカノー設計の「ヴィラ・インダストリア・ヒルヴェルスム」は、ヒルヴェルスム地区エネルギー供給会社の特徴ある工業建築が建っていた敷地に竣工した集合住宅である。

ガス関係の施設はもともと市のペリメーター部分にあったが、徐々に住宅開発によって囲まれてきた。そのためガス関連施設が移転することになり、その跡地の再開発の機会が訪れ、「ヴィラ・インダストリア・ヒルヴェルスム」というネーミングがそのエリア開発に付けられた。メカノーは延床面積74,000㎡、375戸を含むマスタープランをデザインした。一部は手頃な価格の賃貸ハウジングであり、一部は分譲タイプで、その他に400㎡の小規模商業施設や4,000㎡のスポーツ施設を含んでいる。元の敷地の工業的遺産に啓発され、このエリアは再び分かりやすいアイデンティティを持つことになった。

メカノーによるアーバン・プランでは、ペデストリアンやサイクリスト用のパブリック・スペースを優先させている。地下に駐車場を設けたことによって、水をフィーチャーしたグリーンな環境へとスペースを解放しており、さらに敷地中央部に公園を確保している。配置図からもわかるように、グリーン・スペースが非常に多いのが特徴だ。

「ヴィラ・インダストリア・ヒルヴェルスム」でもっとも目を惹くのは、かつて敷地にあったガスタンクと同形の3棟の集合住宅だ。敷地のコーナー部に位置する3棟は、ガスタンクと同様円形のプランだが、実際には円形に内接する正方形プランとなっている。円形と正方形の間の曲面スペースはテラスとしている。ガスタンクと同じようにスティール・フレームが外周に張り巡らされているため、インダストリアルなシンボリック性が強調されている。

既存の水泳プールは、レンガ、スティール、ガラスを用いて再デザインされたため、新しい建物群の美学にナイス・フィットしている。頑強な黒いスティール・コラム群が、プールの上部に配された新しいスポーツ・ホールとフィットネス・センターをしっかりと支持している。

半円形の屋根を持つモダンな住戸群が、以前の倉庫の敷地に倉庫と同じ形で立ち上がっている。「ヴィラ・インダストリア・ヒルヴェルスム」のペリメーター部分に建つ建物は、周辺にある住宅群と同じ高さにセッティングされている。中庭は親しめるキャラクターをもつプライベート・ガーデンとなっている。

「ヴィラ・インダストリア」は調和のとれた材料を使用し、彫刻的なデザイン言語を用い、工業的なディテールを配している。スティールやガラスといったクールな材料が、微妙なレリーフがある赤や赤茶色のレンガなどの温もりのある材料との組み合わせにより、見事なマッチングを見せている。

同じレンガを個々の建物に使用することで集合性を表現しつつ、他方レンガ・サイズのバリエーションや石工技術、オーナメントや特殊なオブジェにより、多様性を表現している。個々の建物のディテールは、ガス施設地の特殊な歴史を参照し、新しい界隈の工業的なキャラクターに貢献している。

ガスタンクのリノベーションとしては、ウィーンにある「ガソメーター」が有名だ。ジャン・ヌーヴェル(仏)やコープ・ヒンメルブラウ(オーストリア)などが参加したレンガ製の巨大なガスタンクのリノベーション。対するヒルヴェルスムは、それらに比べるとガスタンクは小さく、清楚で爽やかな印象だが、外部空間のリッチさがより素晴らしい。


[図 面]

 
 

 

[建築家]

Francine Houben / Mecanoo architecten
フランシーヌ・ホウベン/メカノー

(Photo by Marco van Rijt)

https://www.mecanoo.nl/

 

・Photos: ©Mecanoo architecten
・All the information: Courtesy of Mecanoo architecten