世界の建築は今 No.163

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2019/04/24 17:45

Salesforce Transit Center (San Francisco, USA)

セールスフォース・トランジット・センター(アメリカ、サンフランシスコ)

Design : Fred W. Clarke/ Pelli Clarke Pelli Architects
設計:フレッドW.クラーク/ペリ・クラーク・ペリ・アーキテクツ


アメリカ・アーバン・デザインのニュー・パラダイム

サンフランシスコのダウンタウンに、効率的な輸送体系の確立と良好な交通環境の創造を目指した交通計画、すなわち“マルチモーダル”なトランジット・ステーションが完成して話題となっている。「セールスフォース・トランジット・センター」と呼ばれるこの駅は、11の輸送システムを連結し、サンフランシスコ市を地方→州→全国へと繋いでいる。

建物にはイノベイティブかつ高度なサステイナブル・デザインにより、5.4エーカー(約22,000㎡)ものルーフトップ・パークを屋上にもち、多種多様な性格をもつ近隣街区発展の礎となっている。ニューヨークの「グランド・セントラル・ターミナル」とロンドンの「ヴィクトリア・ステーション」の精神を参照したこの駅は、光に満ち溢れた高い大空間を擁し、サンフランシスコという世界でも有数の大都市としてのステータスに供するグランド・エントランスを形成している。

建物は「セールスフォース・タワー」と「トランジット・センター」のふたつから成っている。かつてこの街には、ウィリアム・ペレイラが設計したサンフランシスコ最高のランドマークとしてつとに知られた高さ260mの「トランスアメリカ・ピラミッド」がある。シスコのシンボルとして今でも多くの市民の心に刻まれている。このタワーをはるかに抜いて屹立したのが、61階建て高さ326mの「セールスフォース・タワー」だ。

後者の「トランジット・センター」は、同市の金融街のワンブロック南側にあるミッション・ストリート沿いに、5ブロックをもカバーする水平タワーともいうべきスケールを誇っている。この水平的な建物はいくつものストリートを横切り、その屋上には公園が配されているのが特徴だ。傾斜したコラム群の上に浮遊し、白くしなやかにうねる建物は遠くからも見え、優雅で明るく歓迎ムードを醸し出している。

建物のストリート・レベルにあるカフェやショプ群がビジターを呼び込み、近隣街区を活気づける。他方、ルーフトップ・パークは樹木や草花が生い茂るオアシスを形成し、ビジターを惹きつけその滞在時間を長くしている。それは通勤ハブとしての「トランジット・センター」を、都市におけるひとつのデスティネーション(目的地)へと変える効果を発揮している。

「トランジット・センター」の内部は明るく高く、“ライト・コラム”(光の柱)と呼ばれる構造的表現を強調したスカイライトから多量の自然光を導入。内部の隅々まで照らし出す光は新鮮で、魅力的なアトモスフィアを醸して秀逸だ。圧巻は中央にある高さ36mもあるグランド・ホールにある“ライト・コラム”だ。それは「トランジット・センター」における最高のパブリック・スペースとなっている。

屋上公園から降ってバス乗り場やグランド・ホールを越え、地下2階にある列車プラトフォームにまで、このドラマティックなストラクチャーは自然光を降り注ぐ。さらに「トランジット・センター」全域に対して、ビジュアルな中心として君臨している。

だが「トランジット・センター」の中心施設となるのは、自然や種々の活動スペースに満ちたルーフトップ・パークだ。ここは近接ビルへのブリッジなどを含むと、12箇所以上の公園入口があるというアクセスしやすい公園だ。さらにアクティブな活動スペースと、パッシブな活動スペース2通りの活動ができる空間が、ランドスケープに織り込まれている。すなわち1,000人も収容するアンフィシアターをはじめ、カフェ、子供の遊び場などがあるのに対し、読書をする静かなエリア、ピクニック空間、休息スペースなども用意されている。

「セールスフォース・トランジット・センター」は、アメリカにおけるアーバン・デザインの新しいパラダイムではないだろうか。シスコ・ダウタウンのど真ん中に、緑が繁茂する巨大な公園を屋上に頂く建物は、単なるトランジット・ステーションをはるかに超えた多機能をもち、近隣開発への強力なドライビング・フォースとなっている。


[図 面]

 

[建築家]

Fred W. Clarke/ Pelli Clarke Pelli Architects
フレッド W. クラーク/ペリ・クラーク・ペリ・アーキテクツ

(Photo by Peter Hurley)
https://www.pcparch.com/

Photos by Jason O'Rear and Peter Hurley
Drawings by Steelblue and by courtesy of Pelli Clarke Pelli Architects
Photos and Material: Courtesy of Pelli Clarke Pelli Architects