最終更新 2018/04/02 18:00
ザハ・ハディドがサウジアラビアにデザインした「KAPSARC(カプサルク)」は、「キング・アブダラ石油研究&調査センター」の英文名の略で、全世界の社会福祉に寄与すべく、エネルギーの最有効活用を意図する政策研究の非営利団体である。
70,000㎡の「カプサルク」のキャンパスは5棟の建築から成り立っている。「エネルギー・ノレッジ・センター」「エネルギー・コンピュータ・センター」「会議センター(展示ホール+300席オーディトリアム)」「研究図書館(100,000冊収蔵)」、および「ムサラ(キャンパス内の祈祷空間)」の5棟だ。
ザハは技術的・環境的配慮から、5棟の建築エレメントを、ひとつの統合した建物に集約した。リヤド高原の環境条件に反応してデザインされた建物は、ザハ・ハディド建築でははじめての、アメリカでのサステイナブル・デザインの評価基準であるLEEDのプラチナ賞受賞という栄誉を勝ち得た。
建物の基本的な組織のデザイン手法は、セル(細胞)的な構成をしているが、部分的にはモジュラー形式を取っている。それにより異なる部門の建物群を、相互につながるパブリック・スペースをもつひとつのアンサンブル(集合体)としてインテグレートさせている。
6角形のプリズム的ハニカム構造は、最小の材料を用いて、規定された容積内におけるセル群をラティス(格子)状に組み合わせている。この構造的・組織的デザインは、クリスタルなフォルムを凝集させた「カプサルク」の構成を決定。それらの形態は乾いた砂漠のランドスケープから突出しつつ、環境条件や内部プログラムの要求事項を満たしている。
この研究センターはまさにその性格上先進的な研究所であり、「カプサルク」の建築自体もまた未来を志向したものである。センター自身のヴィジュアル・キャラクターに妥協することなく、増改築することが可能な形態的構成をしている。
モデュラー・デザインが、プラン上のすべてのエレメントを決定した組織的・空間的・構造的戦略を生み出している。ヘキサゴナル・セル(6角形細胞)の6つの面は、4角形のセルにおける4つの面に比べると、その結合性ははるかに優れている。5棟の建物はそれぞれの用途に適した大きさや組織をもち、その構成的機能群に合わせて分割可能で、種々の変更に対応して改修可能だ。
建物群は、スティール・コラム群で支持されたキャノピーを巡らせた大きな中庭を取り囲んでいる。南側からの厳しい太陽光に対し、ソリッドなプロテクト・シェルをもち、「カプサルク」のキャンパスは北側と西側に開かれている。北側からの卓越風(その地方特有の季節風)を取り入れ、暖かいシーズンには中庭を冷やしている。歩行者優先のために、キャンパス内の個々の建物は中央にあるパブリック・スクエアから入るようになっており、スクエア自体はミーティング・スペースともなり、温暖期における建物間のリンクにもなっている。
極端な気候から防御する外壁に強力なプロテクティブ・シェルをもつ「カプサルク」の建築は、内部では多孔性に満ちている。個々のビルの中で戦略的に配置されている特殊な6角形セル群は、オープンとなってシェルター化された一連の中庭を生み出し、それによりソフトに調整された昼光を内部に導入している。
太陽や風の状況にあわせて、プリズミックな建築セルのクリスタル・フォームは太陽の直射光から内部空間をシールドするために、南側、西側、東側方向へと向けて高くなっている。他方内部の中庭は北側や北西側に向きとなっており、内部空間に間接的な太陽光を落としている。
各中庭の南側屋根面内部に配備されたウインド・キャッチャー(採風装置)により、北側から卓越風を取り込み、個々の中庭を冷やしている。
「カプサルク」の建築は透明性を強調し、研究者とビジター間のアクティブな交流を進めている。パブリック・エリアにおける各フロア間を透明化する事で、研究者が気楽に会い、アイディアを交換できるよう仕組まれている。「カプサルク」は、まさに厳しい砂漠の気候風土をクリアした研究者のオアシスだ。
Portrait: ©Brigitte Lacombe
1950年 | イラク、バグダッド生まれ。ベイルートのアメリカ大学卒業後、渡英 |
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1977年 | AAスクールを卒業(AAディプロマ賞受賞)し、OMAに入所 |
1980年 | 自己の設計事務所を開設 |
1981年 | 「59イートン・プレイス」で、英国建築デザイン・ゴールドメダルを受賞 「ピーク・クラブ・コンペ」(香港)で最優秀賞 |
1992年 | ニューヨーク「グッゲンハイム美術館」における”ロシア・アヴァンギャルド展“の展示デザイン |
1993年 | 本格的建築作品「ヴィトラ消防ステーション」完成。「カーディフ湾オペラハウス・コンペ」最優秀賞 |
1990年 | ドイツ建築家協会名誉会員 |
2000年 | アメリカ文芸アカデミー名誉会員。アメリカ建築家協会名誉会員 |
2002年 | エーケル・ダルジャン賞(仏) |
2003年 | ミース・ファン・デル・ローエ賞 |
2004年 | プリツカー建築賞。RIBA世界賞 |
2005年 | ロイヤル美術アカデミー会員。ドイツ建築賞 |
2006年 | AIA英国支部賞受賞。RIBAジェンクス賞 |
2007年 | 高松宮殿下記念世界文化賞 |
2011年 | スターリング賞 |
2012年 | 大英帝国勲章デイム・コマンダー |
2014年 | RIBAロンドン賞 |
2016年 | マイアミで逝去 |
主な作品に、ヴィトラ消防ステーション、ランドフォーム1、ムーンスーン・レストラン、マインド・ゾーン、サーペンタイン・ギャラリー、ストラスブール・バス・ターミナル、インスブルック・スキー・ジャンプ台、ローゼンタール現代美術センター、BMWセントラル・ビル、ホテル・プエルタ・アメリカ、オルドラップガード美術館増築、フェーノ科学センター、ロペス・デ・エレディア・ワイナリー、マギーズ・センター、国立20世紀美術館、グラスゴー・リバーサイド美術館、エヴリン・グレイス・アカデミー、広州オペラハウス、ピエールヴィーヴ、サーペンタイン・サックラー・ギャラリー、メスナー・マウテン・ミュージアム・コロンズ、南京国際ユース・カルチャー・センター、アントワープ・ポートハウス、カプサルクなど多数。
Photos and Material: Courtesy of Zaha Hadid Architects
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