最終更新 2017/11/30 17:00
近年ステファノ・ボエリが頭角を現したのは、ここに紹介する「ヴァーティカル・フォレスト(垂直の森)」によるところが大きい。1956年ミラノ生まれのボエリは今年61歳。ミラノ工科大学、ヴェネチア建築大学で建築を学び、ハーバード大学GSD、モスクワ・ストレルカ・インスティティュート、ベルラーへ・インスティティュート、スイス連邦工科大学ローザンヌ校など、世界の著名工科大学で教鞭をとってきた。
1999年にミラノ事務所を開設し、2013年には上海にも開設。彼は主にヨーロッパ都市におけるウォーターフロントのリノベーションを、地政学的&環境的見地から進めてきた。近年は鬱蒼と茂る樹木を取り込んだ環境的な高層集合住宅を手掛けている。その話題作となっているのが「ヴァーティカル・フォレスト」だ。
低層ビルがひしめくミラノのアーバン・エリアに立ち上がった高さ116mと85m、全113戸の高層集合住宅は、従来のアーバンスケープに突如現れた「垂直の森」という強いインパクトを発揮している。外壁を取り巻くテラスには、樹木を多数植え込み、緑に覆われた住戸は外部テラスのスラブ側面しか見えない状態である。
「ヴァーティカル・フォレスト」は、サステイナブル集合住宅のひとつのモデルであり、大都市植林活動のひとつの例である。それは地上に都市を拡大することなしに、都市の環境やバイオダイバーシティ(生物多様性)の再生に寄与するプロジェクトなのである。
「垂直の森」は大都市の都心というよりはむしろ、その郊外とのボーダー・エリアにおける植林活動や自然化運動を目指すポリシーに対応した建築デザインである。ミラノのイゾラ地区の境界近くに建設された建物は、27階建てのタワーDと19階建てのタワーEで構成され、高さ3m、6m、9mの樹木が700本。さらに20,000本以上の潅木や草花が、太陽への向きを考慮して植え込まれている。
地上で換算すると、この建物に使用されている樹木の量は20,000㎡の森林に匹敵する。また都市的な密度でいうと、その樹木数は約75,000㎡の戸建て住宅地に匹敵するようだ。「ヴァーティカル・フォレスト」の植物システムは、ひとつのマイクロクライメイト(微気候)を構成しており、また湿度を保ち、二酸化炭素や微粒子を吸収する。二酸化炭素は年間19,000kg 吸収し、酸素を18,980kg排出する自然環境生成マシーンと言えそうだ。
さて「ヴァーティカル・フォレスト」における113戸の住人480人に対して、植物の量や種類はどうなっているのだろうか。全体で樹木700本、低木5,000本、ツタ類や多年性植物15,000本。樹木や低木の種類は23種、ツタ類や草花は94種と、非常に多種類にわたっている。住人ひとり当たりの植物の量は、樹木2本+低木8本+草花40本という豪華さだ。加えて鳥の巣は、現在20個あるようだ。
こうした数多くの植物をメンテナンスするシステムは緻密である。中央監視システムが各棟に1個ずつあり、両棟にある280個の各テラスには、ひとつずつのウォーター・コントロール・システムを配置。年間6回の剪定をし、灌漑用水は年間3,500m3に及ぶという。これらの結果、アメリカの著名なサステイナビリティ賞であるLEEDの金賞を受賞している。
©Stefano Boeri Architects
1956年 | イタリア・ミラノ生まれ |
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1980年 | ミラノ工科大学卒業 |
1989年 | ヴェネチア建築大学でPhD取得 |
1993年 | マルチプリシティ設立 |
1999年 | ボエリ・スタジオ設立 |
2004-2007年 | 『ドムス』編集長 |
2007-2011年 | 『アビターレ』編集長 |
2008年 | 事務所をステファノ・ボエリ・アーキテクツに改名 |
2011-2013年 | ミラノ文化カウンセラー |
2013年 | ステファノ・ボエリ・アーキテクツ上海設立 |
近年、中国・同済大学ディレクターに就任 |
主な作品に、セラーニョ・レジデンス、RCSリッツォリ本部、カサ・ボスコ、RCSタワーA2、ヴィラ・メディテラネ、カサ・イタロ、マダレーナの兵器工場改修、ミラノExpo2015 マスタープラン、ヴァーティカル・フォレストなど。
Portrait, Photos and Material: Courtesy of Stefano Boeri Architects
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