世界の建築は今 No.140

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2017/05/31 17:30

Via 57 West (Manhattan, New York)

Via 57 ウエスト (ニューヨーク、マンハッタン)

Design : Bjarke Ingels/ BIG
設計:ビヤルケ・インゲルス/ BIG


マンハッタンの斬新なスカイラインを牽引する起爆剤

今ニューヨークは空前の集合住宅ラッシュだ。もちろん超高層マンションを筆頭に中・高層マンション群で、それらはやはりマンハッタンの特にミッドタウンに集中している。この辺りは美術館をはじめ、シアター、レストランその他のエンターテイメント施設が多数あり、マンハッタンの魅力を代表するエリアだ。

地元の建築家ラファエル・ヴィニョリの「432 マジソン・アヴェニュー」が超スレンダーなマンションで話題をまいているが、その他にも世界の著名建築家たちが目白押しだ。フランスのクリスチャン・ド・ポルザンパルク、ジャン・ヌーヴェル、イタリアのレンゾ・ピアノ、ポルトガルのアルヴァロ・シザ、イギリスのザハ・ハディド、スイスのヘルツォーク&ド・ムーロン、地元のSHoPアーキテクツなど、まさにマンハッタンは超高層マンションの牙城と化した感がある。

そうした中で、マンハッタン・ミッドタウンの西側を流れるハドソン川河岸に完成したのが、今ニューヨークで話題の建築家ビヤルケ・インゲルスの「Via 57 ウエスト」だ。このあたりは、遙か自由の女神方向に沈む華麗な夕日をエンジョイできる、マンハッタン切ってのバンテージ・ポイントとして知られている一等地だ。

建物は通常の集合住宅の形態的概念を打ち破るユニークなフォルムが圧巻だ。”テトラヒードロン(4面体)”の異名をもつ建物は、35階建て高さ142mの超高層マンション。このくらいの規模の集合住宅タワーは、ことマンハッタンについていえばごくザラである。だが「Via 57 ウエスト」の建築フォルムは3角錐のピラミッド形というニューヨークでは滅多にお目にかかれない形態だ。しかも北側と東側は垂直壁面で、南西壁面が巨大は傾斜壁面という大胆なデザイン。

売っ子建築家ビヤルケ・インゲルスは多量の自然光が降り注ぐこの南西斜面に着目。斜面中央部あたりに長方形プランの大きな中庭を掘り込んだのである。これはインゲルスの故郷、コペンハーゲンの伝統的な都市公園からインスパイアーされたものである。中庭は当然グリーンがいっぱいであるが、これは近隣にあるハドソン・リバー・パークの緑をインテグレートさせたものである。

この中庭を例えばハドソン川対岸のニュージャージー側から見ると、外壁が大きく斜めに切り取られたように見えるのだが、真上からの俯瞰写真を見るとスッキリした長方形なのだ。さらに中庭の形は、これも近くにあるセントラル・パークの形と同じプロポーションで、大きさが13,000分の1という。こうしてみるとインゲルスは、マンハッタンのアーバン・エレメントを巧みに参照しているのが分かる。

ハドソン川に開けた中庭は4階レベルで騒音も少なく、燦々と降り注ぐ日差しが、夕方になると低い西日となって深度のあるガーデン奥までを満たす素晴らしさ。南西側から高さ142mの頂点へと収束していく建物は3角錐のため、背後にある「ヘレナ・タワー」からハドソン川への眺望を遮らない配慮が心憎い。延床面積約80,000㎡、709戸を擁する建物は、南面する斜面の各住戸にはテラスを設けるというシンプルなルールで統一されている。

建物の低層部には、住民のためのアメニティー施設が多数含まれている。映画室をはじめ、水泳プール、インドア・ハーフ・バスケットボール・コートなど。その上には多くのスタジオ群があり、さらにベッド・ルームが1室〜5室までの住戸群が、テラスやバルコニー付きで配されている。

建物は今世界で”アンファン・テリーブル(恐るべき子)”と騒がれる売っ子若手建築家、ビヤルケ・インゲルスのニューヨーク・デビュー作。ユニークなピラミッド形超高層ビルは、単なる集合住宅の枠を超えて、マンハッタンの斬新なスカイラインを形成する起爆剤になろうというパワーを秘めている。


[図 面]

 

[建築家]

■ビヤルケ・インゲルス 略歴


©Ulrik Jantzen

1974年 デンマーク、コペンハーゲン生まれ
バルセロナ大学とデンマーク王立芸術アカデミーで建築を学ぶ
1998年 OMA勤務
2001年 PIOL建築事務所をジュリアン・ド・スメットと設立
2004年 ヴェネツィア・ヴィエンナーレ金獅子賞
2005年 PLOT解散
2006年 BIG (Bjarke Ingles Group)を設立
2010年 ヨーロッパ建築賞
2011年 フランス建築アカデミー賞
2012年 AIAデザイン賞
2014年 RIBAヨーロッパ賞
2015年 カナダ建築優秀賞、国際高層建築賞、AIAデザイン賞
2016年 AIAアーバン・デザイン賞、アガ・カーン賞、アメリカ建築賞集合住宅銀賞、
国際高層建築賞
2017年 AIA集合住宅賞

 
■代表作

主な代表作に、コペンハーゲン・ハーバー・バス、海洋ユース・センター、VM集合住宅、ヘルシンガー精神医学病院、シヤケット・ユース・センター、マウンテン集合住宅、スーパーキレン・マスタープラン、8ハウス集合住宅、デンマーク海洋博物館、エクスポ2010デンマーク・パビリオン、タマヨ文化センター、アスタナ国立図書館、グルメル・ヘラップ高等学校、Via 57ウエスト、ココ・マイアミ集合住宅など多数。

Photos and Material: Courtesy of BIG

 


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