世界の建築は今 No.133

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2016/11/04 10:00

EPFL New Mechanics Hall (Lausanne, Switzerland)

スイス連邦工科大学ローザンヌ校ニュー・メカニクス・ホール(スイス、ローザンヌ)

Design : Dominique Perrault
設計:ドミニク・ペロー


メタリック・メッシュによる科学の殿堂

スイス連邦工科大学ローザンヌ校というと、SANAAの名作「ローレックス・ラーニング・センター」を思い出す。ドミニク・ペローの「メカニクス・ホール」は、ちょうど「ラーニング・センター」の前に建っている。低く優美にうねる有機的なSANAA作品に対して、スティール製のメカニカルな装いで控えるペロー作品は好対照をなしている。

ドミニク・ペローは「メカニクス・ホール」を2011年の国際コンペで勝利。この計画は古いホールを取り壊し、キャンパスへのブリッジ役をしていた接続軸を温存して「メカニクス・ホール」を新設するものであった。

延床面積19,000㎡に及ぶ建物は、4層のスーパーストラクチュアと1層のインフラストラクチュア・レベルを有している。内部にはエンジニアリング学部の管理オフィスをはじめ、研究実験室群、および生物学部のオフィス・スペースを内包。

研究科学者用の大規模な実験場と研究室である建物は、大きな中央アトリウムによってふたつの棟が連結されている。機能的に言えば、ふたつの棟はそれ自身の技術的・サーキュレーション的ネットワークをもつ別々の2棟と考えられる。

2棟の分割はオリジナルのグリッドを尊重したもので、他方空間の細分化とダブル・ハイトをもたらしている。RC造の躯体は、メタル壁+セメント&PVCフロアで、仕上げは白黒のカラーリングを光沢とマットに塗り分けている。

オパークの壁面とガラス・スクリーンがパースペクティブを生み出し建物に深度を与え、廊下を歩くと初めてのオリジナル体験のような印象を受ける。天井や壁面の明快なスーパーグラフィックにより、建物内への目的地には容易に到達できる。

個々のオフィスはペリフェラル部分に配置。オフィスは広く、ベイ・ウインドウによって外部にワイドに開かれている。そのため程よく抑えられた自然光が内部のワーク・スペースを満たす。居心地よく、明るく、広い部屋はリサーチ・ワークという長時間の仕事には打ってつけである。

建物中心部のアトリウムは、レセプションやソーシャル・エリアとして使用。吹抜けた大ヴォイド空間を飛び交い輻輳する階段群が、正にピラネージの「牢獄」的世界を演出している。白い空間に、黒い手摺ややはり黒いチューブ状の照明器具が錯綜するヴォイド空間を彩っている。

メカニカル・ファサードは建物の南面、東面、西面を覆っている。組立前に工場でつくられたモジュールの形と大きさは、EPFLの歴史的なマスタープランによって決定された。個々のモジュールは、ふたつのスーパーインポーズされた層で構成されている。内側のスキンは温度や騒音を遮断し、外側のスキンは太陽光を遮断する。それはドミニク・ペロー事務所の「フランス国立図書館」で使用された高品質のメタリック・メッシュを装備したフレームで構成されている。

ひとつのモジュールは3つの垂直パネルで構成され、そのうちの2つはスライドし、他は固定されている。スライディング・モジュールはガラス・パネルの前面で展開し、もうひとつはガラスにスーパーインポーズされている。

スライド・パネルは普段はビル自動システムによって可動するが、手動での操作も可能だ。3番目のモジュールは、オパーク色のファサード・パネルに固定されている。グレーの陰影が付いたメタリック・メッシュ・パネルは、ファサードの垂直面から5度傾斜。この傾斜パネル群の並置は編み目のパターンのように見える。

科学が新しい「メカニクス・ホール」のエッセンスだ。工業製品やデータ・プロセッシング技術を用いつつ、他方オリジナル・マスタープランによる動線ネットワークや構造グリッドを継承した「メカニクス・ホール」は、EPFLキャンパスの歴史における新しい科学の殿堂だ。


[図 面]

 

[建築家]

■ドミニク・ペロー略歴


Portrait: ©Domus-China

1953年 フランス、クレルモン・フェラン生まれ
1978年 第6建築大学卒業
1979年 エコール・デ・ポンゼショセ(国立土木大学)卒業
1980年 国立高等社会大学大学院修了
1981年 ドミニク・ペロー事務所設立
1982-84年 パリ市と誌計画研究所勤務
1993年 フランス建築グランプリ
1997年 ミース・ファン・デル・ローエ賞
1998-2001年 フランス建築家協会会長
2001年 ワールド・アーキテクチュア賞
2002年 BTVバウエレンプライス賞
2006年 ニュー・アルペン建築賞、デダロ・ミノッセ国際賞
2010年 建築アカデミー・ゴールドメダル
2013年 レジオン・ドヌール賞
2015年 高松宮殿下記念世界文化賞

 
■代表作

主な代表作に、ユジノール・サシロール会議場、ベルリエール工業館、コロニーハーフェン、イヴリ・シュル・セーヌ浄水場、図書技術センター、フランス国立図書館、オリンピック・ヴェロドローム&水泳競技場、アプリックス工場、ルーシー・オブラ・メディアテーク、プライス・スーパーマーケット、インスブルック市庁舎、ヴィラ・ワン、バタフライ・パビリオン、梨花女子大学キャンパス・センター、ヨーロッパ連合(EU)裁判所、スカイ・ホテル、NHフィエラミラノ・ホテル、プライオリー公園パビリオン、3星&4星ホテル、マジック・ボックス、オリンピック・テニス・センター、MEバルセロナ・ホテル、ピアッツァ・ガルバルディ、スイス連邦工科大学ローザンヌ校ニュー・メカニクス・ホールなど。

Photos and Material: Courtesy of Dominique Perrault Architecture

 


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