最終更新 2015/11/06 10:00
かつてのパリ・グラン・プロジェの都市的プロジェクトとして名高い「音楽都市」の設計者として、またフランス人初のプリツカー賞受賞者として、クリスチャン・ド・ポルザンパルクはフランス建築界の大御所エリートだ。
日本では福岡に「ネクサス集合住宅・ポルザンパルク棟」を1991年にデザインしたが、わが国では彼の後を追ってプリツカー賞を受賞したジャン・ヌーヴェルが「電通タワー」を設計して人気を出し、ポルザンパルクの名前を聞くことは少なくなった。しかしその間、彼は足繁くニューヨークに通っていたのだ。
ここに紹介する「ワン57タワー」は、早くも彼のニューヨーク第3作目となっている。「LVMHタワー」(98m)を1999年に、「ニューヨーク・プリズム・タワー」(144m)を2014年に完成。そして同年に75階建て306mの「ワン57タワー」を完成させた彼は、現時点で完成した集合住宅ビルではニューヨーク最高層のスーパー・スレンダー・タワーを完成させた。
ニューヨークの集合住宅タワーでは、すでにロウワー・マンハッタンにできたフランク・ゲーリィ設計の「8スプルース・ストリート」(265m)が、2010年に完成して以来最高の座にあった。低層階に小学校を含み、ファサード全体にシワが寄ったようなゲーリィらしいデコン風の表現で話題になっていた。
ここにきて「ワン57タワー」にその座を奪われた。だが「東京国際フォーラム」の設計者、ラファエル・ヴィニョリが割と近くに「パーク・アヴェニュー432」を建設中で、これが2016年に426mで完成するので、来年までのほんの1年だけであるが、ニューヨーク最高の集合住宅タワーとして君臨することができる。
敷地はセントラル・パークの南端から2ストリート南に下った西57ストリートにある。今から10年ほど前の2005年に、デベロッパーのエクステル社は57ストリートにポルザンパルクによるタワーのデザイン・コミッションを発注した。その後数々の敷地をチェック、無数の模型による形態、高さ、ヴォリュームなどの検討を行ない、4年後の2009年に「ワン57タワー」として現在の敷地に着工した。
それは丁度経済危機が勃発した直後であったが、エクステル社は、このプロジェクトを諦めるどころかすぐさま販促をし始めた。ポルザンパルクは経済危機のさなかにニューヨーク最高層のレジデンシャル・タワーを建てる決定的な解決案を創出することができた。
建物は珍しいL字形の敷地に立っている。内部には下階部分に豪華な210室のパーク・ハイアット・ホテルが入っており、上階にはセントラル・パークを眼下に見下ろすスーパー・リッチなアパートメントが135戸入居している。インテリア・デザインは、今ニューヨークで売れっ子デザイナーのトーマス・ジュール・ハンセン。15万ドルもするイタリア産大理石のバスタブなどを使用する豪華さだ。
ポルザンパルクはL字形敷地の複雑さを利用して、自分流デザインの本領を発揮したと言える。この特殊な敷地に対応したニューヨーク市の敷地規制や空中権によって、際立って高い超高層が可能になった。
超高層ビルで一番目立つところはクラウン(頂部)と言ったのは「クライスラー・ビル」設計者のウィリアム・ヴァン・アレンだが、ポルザンパルクもクラウンをシンプルで美しくまとめた。曲面を自在に仕上げて定評のある彼は、南側に向けて滝のようなカーブをデザインした。
建物はスレンダーなシャフトが306mの高さに伸びているといった単純な構成ではない。57ストリートに面する南側ファサード下層部には、頂部に同じような滝の曲面をもつさまざまなマッスが折り重なっている。全体としては大きな滝が垂直都市ニューヨークに流れ落ちている印象で面白い。エントランス・キャノピーも波打っている。
北側のセントラル・パーク側は垂直のガラス壁。南北のガラス壁面は2種類のガラスが交互に高さいっぱいに伸びている。東西のガラス壁面は南北とは違って濃淡のある3~4種類のガラスがピクセル状に張られている。
セントラル・パークのグリーン越しに見る「ワン57タワー」は美しい。スレンダーなシャフトがスーッと伸びて、他のビル群を軽く一等地を抜く高さは気品に満ちて気高ささえ感じられる。ポルザンパルクのソフトな曲線の美学はニューヨークのデベロッパーには殊のほか気に入られ、彼自身のマグナム・オーパス(代表作)となった。
©Steve MUREZ
1944年 | モロッコ、カサブランカ生まれ |
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1966年 | ニューヨークに移住してコロンビア大学で建築を学ぶ |
1970年 | エコール・デ・ボザール卒業 |
1980年 | 事務所設立 |
1989年 | フランス文化省文芸勲章 |
1990年 | パリ建築大賞 |
1992年 | フランス建築アカデミー・シルバー・メダル |
1994年 | プリツカー賞 |
1998年 | フランス建築グランプリ、AIA名誉会員 |
2004年 | 都市計画グランプリ |
2005年 | MIPIM賞 |
2006年 | コレージュ・ド・フランス芸術創造チェア |
主な作品に、マルヌラ・ラ・ヴァレの給水塔、オート・フォルム集合住宅、ナンテール・ダンス学校、カフェ・ボブール、ネクサス集合住宅、音楽都市、リヨン・クレジット社、ブールデル美術館、パレ・デ・コングレ、グラース裁判所、ルクセンブルグ・フィルハーモニー、ミュゼ・エルジュ、レシャン・リーブル、ゴモン・マルティプレックス、ル・モンド・パリ、在独フランス大使館、ホテル・ルネッサンス、リオデジャネイロ・アート・シティ、ワン57タワーなど多数。
Photos: ©Wade Zimmerman and ©ACDP
Material: Courtesy ACDP
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