最終更新 2015/08/31 17:30
「グラスゴー美術学校」といえば、チャールズ・レニー・マッキントッシュの名作として世界的に知られた千載不朽の存在だ。マッキントッシュはアーツ・アンド・クラフト運動の推進者であり、アール・ヌーヴォーの元祖ともいえる歴史にその名を残す建築家だ。グラスゴー・スタイルを代表するマッキントッシュの名作に増築棟を完成させたのが、コンペを制したアメリカのスティーヴン・ホールだ。
「グラスゴー美術学校セオナ・リード・ビル」は、マッキントッシュが設計した1909年の「グラスゴー美術学校」の補足的コントラストを成していると同時に、象徴的な関係を生み出している。それによってお互いのストラクチュアにおける不可欠な部分を高揚させているのだ。新しいビルの薄く半透明な物質性が「マッキントッシュ・ビル」の石積みに敬意を表して、いい対照となっている。スティーヴン・ホールの光のヴォリュームは、芸術のための先進的な学校活動の受け皿をグラスゴーのアーバン・ファブリックに見事に実現した。
建物のユニークなインテリアとエクステリア・デザインは、アート・スクールの新しい21世紀モデルを創造するカタリスト(触媒)になっている。内部を外部に出すことで、プログラムの機能的な必要性や心理的な要望を満たし、また外部を内部に引き込むことで都市に連続したり、反対側の「マッキントッシュ・ビル」に連繋している。
マッキントッシュの光に関する建築断面形の独創的なマニピュレーションは、スティーヴン・ホールの異なる光の中にヴォリュームを配するアプローチに大きな影響を与えたという。スタジオ/ワークショップ空間は建物のベーシックなブロックに配されているが、それらの空間は相互依存的な関係のみならず、各空間の自然光に対する異なるニーズを反映させるべく配されている。
スタジオ群は建物の北側ファサードに配置され、傾斜した大きな開口部をもっている。ここからは高品質の北側拡散自然光を最大限取り入れるようなアクセスが試みられている。このようなハイクオリティ・ライトを必要としないオフィスや食堂は南面に配置。ここでは自然光へのアクセスは、内部で働く人々のニーズに対応し、バランスをとった処理がなされている。空間の室温などは日除けなどの採用でコントロールされている。
「セオドア・リード・ビル」の最大かつ魅力あるデザイン的特徴は、”光のドゥリヴン・ヴォイド”だ。屋上から地下までを貫く光の吹き溜まりのような、回遊性も抜群の光井戸だ。ここではストラクチュア、視覚的な空間変化、自然光がインテグレートされている。”ドゥリヴン・ヴォイド”の光のシャフトは、建物の地下まで光を落とし、移りゆく光の強さや空の色彩変化などを反映させる。
建物を貫く3本の”ドゥリヴン・ヴォイド”は光井戸や垂直動線となって、エアコンをも排除するする優れもの。しかもインテリア・ランドスケープに魅力ある変化をもたらせているのは素晴らしい。階段が上昇しながら白亜のライト・ウェル(光井戸)を貫き、この内壁に開けられた数々の開口部から隣接する各空間へ自然光を配分していく。さらにはこれらの開口部から、向かいの空間とのヴィジュアル・コネクションも可能となる。
「マッキントッシュ・ビル」のメイン・スタジオの高さに合わせて、南側エレベーションに沿ってスコットランド産の石灰岩によるランドスケープ・ロッジアが、都市に開いたエクステリア・ソーシャル・コアを形成している。石造ワークのある自然植栽テラスに水路を巡らせ、それがリサイクル・ポンドに流れ込んでいる。池から反射した自然光が内部の天井にまだら模様を描き出している。
新しい「セオナ・リード・ビル」を巡る”コネクション回路”は各部間の”創造的浸食”を助長し、大学における全体アクティビティの中核になっている。段状スロープのオープン回路が、ロビーから始まって展示空間、プロジェクト・スペース、レクチュア・シアター、セミナー・ルーム、スタジオ、ワークショップ、そして集会や展示にも使えるグリーン・テラスなど、全ての主空間をつなぎ、「グラスゴー美術学校」と好対照をなす白亜の透明空間は、明るく刺激に満ちたアカデミック空間を北国のグラスゴーにもたらせた。
© Mark Heitoff
1947年 | ワシントン州ブレマートン生まれ。 |
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1970年 | ワシントン大学で建築を卒業、ローマで建築を学ぶ。 |
1976年 | ロンドンのAAスクールに学ぶ。 ニューヨークに事務所設立。 |
1981年 | コロンビア大学で教鞭をとる。 |
1993年 | 「ヘルシンキ現代美術館」国際コンペ最優秀賞 |
1997年 | AIA宗教建築賞、AIAニューヨーク支部名誉メダル、 アーノルド・ブルンナー賞、第38回BCS賞 |
1998年 | フランス建築アカデミー・ゴールドメダル、アルヴァ・アアルト賞、 クライスラー・デザイン・イノヴェーション賞 |
2000年 | アメリカ文芸アカデミー会員 |
2001年 | フランス建築アカデミー・ゴールドメダル、AIAシアトル支部デザイン賞 |
2007年 | AIAニューヨーク支部名誉賞 |
2009年 | 国際建築賞 |
2010年 | RIBA国際賞、ジェンクス賞 |
2011年 | AIAゴールドメダル |
2014年 | 高松宮殿下記念世界文化賞 |
代表作にストアフロント・ギャラリー、ネクサス集合住宅、セント・イグナチウス・チャペル、ヘルシンキ現代美術館、クランブルック科学研究所、サルファティストラート・オフィス、ロイジュウム・ビジター・センター、サイモンズ・ホール、ネルソン・アトキンズ美術館、プラット・インスティテュート・ヒギンス・ホール増築、へリング現代美術館、多孔的スライスド・ブロック、クヌート・ハムスン・センター、リンクト・ハイブリッド、ヴァンケ・センター、海と波のミュージアム、ナンジン・シファン・アート・ミュージアム、Tスペース、成都ラッフルズ・シティ、グラスゴー美術学校セオナ・リード・ビルなど多数。
Photos and Material: Courtesy of Steven Holl Architects
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