最終更新 2015/06/03 13:00
310mの高さを誇る「ザ・シャード」は、イギリスはもとよりEUで最高の建物である。高さ150m以上を超高層というが、アメリカに比べるとイギリスをはじめEU諸国には日本と同様超高層はそんなに多くない。近年わが国には「あべのハルカス」が高さ300mでデビューし、「ザ・シャード」と兄弟のような親近感をもつが、そのフォルムは全く違う。
「ザ・シャード」はピラミッドを310mの長さに引き伸ばしたようなデザインだが、「あべのハルカス」はより機能性を重視した形態をしている。内部機能は「ザ・シャード」にある集合住宅が「ハルカス」にないくらいで、あとはオフィス、ホテル、展望台、駅、商業施設などで同じである。
というわけで「ザ・シャード」の方が、ヨーロッパの大都市中心部に位置するだけあって形態志向が強い。超縦長3角形状のエレベーションはシンプルかつ端正なフォルムで、天空を目指すゴシック建築に似て崇高な印象を与える。建物はニューヨークや香港などの超高層群の中に建つそれとは違って、近隣に同クラスの超高層がないため、そのシルエットは際立ったシャープさを見せている。
建物はロンドン・ブリッジ駅のすぐ脇に位置し、テムズ川サウスバンクに建つ72階建ての超高層。同駅は電車、バス、地下鉄が乗り入れし、毎日200,000万人の乗降客が使用するロンドン一の過密駅。これは都市輸送の重要な結節点における高密度開発をプロモートするという、ロンドン市長のポリシーを反映させたものである。
建物の形態はロンドンの素晴らしいスカイラインによって決定されたといえる。イタリアの風景画家アントニオ・カナレットや、モネが描いたテムズ川に浮かぶ帆船のマストや教会の塔にヒントを得て考案されたという。8つのガラス壁面が先細りしながら頂上まで安定したフォルムで延びている。
スレンダーなピラミッド形タワーの形態は、要望された機能や用途にピッタリと対応している。大きな床面積が確保できる低層部はオフィス階となっている。パブリック階とホテルは中間階に入り、アパートメント部分は上層階と、巧みに分けて配分されている。
パブリック・スペースの最上階となる68階―72階には地上240mの展望ギャラリーがある。「ザ・シャード」はさらにその上に306mまで延びて頂点を形成。用途のミックスによって、建物は非常に活性化されている。メガロポリス・ロンドンの重要なトランスポート・ノードにおける建物ということで、そのパブリック・アクセスは重要だ。
タワーの形態やヴィジュアル・クォリティは、シャード(=かけら)と呼ばれるガラス張り8面体によって限定されている。ロウ・アイアン・ガラスによるパッシブなダブル・ファサードは、間にローラー・ブラインドを装備し直射太陽光を防ぐ。互いに接しない8つのガラス壁面同士の間隙にある通気口により、ウィンター・ガーデンへ自然換気を行っている。
これらのスペースはオフィスにおける会議室や避難脱出空間として使用され、集合住宅階ではウィンター・ガーデンとして使用されている。それにより現代の密閉されたビルディングでは、しばしば不可とされている外部環境との密接なリンクを保持している。
建物のメインとなる構造エレメントは、建物中心部を縦に貫くコンクリート・コアだ。そこにはサービス・ライザーをはじめ、エレベータ、避難階段などが包含されている。総数44基のシングル&ダブルデッキ・エレベータは、ストリート・レベルやステーション・コンコース・レベルにおける多数のエントランスと密接に繋がっている。
このプロジェクトは鉄道駅のコンコースとバス・ステーションの再開発をも含んでおり、既存の屋根は取り払われ、ガラス張りキャノピーに置き換えられた。さらに小売店舗群は配置換えを行い、鉄道駅、バス・ステーション、タクシー乗り場相互のヴィジュアル・コネクションが明快になった。
ふたつの30m x 30mのパブリック・スクエアが、今回の開発プロジェクトの中核をなしている。
公共領域へのこの類の改修は、ロンドンの混雑し無視されてきたエリアの都市再生には決定的な意味をもっている。
©Stephano Goldberg
1937年 | イタリア・ジェノヴァで生まれ |
---|---|
1964年 | ミラノ工科大学卒業。フランコ・アルビーニ事務所勤務 |
1965-70年 | フィラデルフィアのルイス・カーン事務所およびロンドンのZ.S.マコウスキー事務所勤務 |
1970-77年 | リチャード・ロジャースと共にピアノ&ロジャースを共同主宰 |
1977-80年 | 構造家のピーター・ライスと共同でピアノ&ライス・アソシエイツを主宰 |
1981年 | レンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップを故郷のジェノヴァに設立。 |
1981年 | コンパッソ・ドーロ賞(イタリア)、アメリカ建築家協会(AIA)名誉会員 |
1984年 | フランス芸術文化勲章 |
1985年 | レジオン・ド・ヌール勲章(フランス) |
1986年 | 王立英国建築家協会(RIBA)名誉会員 |
1989年 | RIBAゴールドメダル |
1990年 | 京都賞 |
1991年 | リチャード・ノイトラ賞(アメリカ) |
1994年 | アメリカ芸術文化アカデミー名誉会員 |
1995年 | 高松宮殿下記念世界文化賞 |
1998年 | プリツカー賞 |
2002年 | UIAゴールドメダル |
2008年 | AIAゴールドメダル |
主な作品に、ポンピドー・センター&IRCAM、メニル・コレクション美術館、フィアット・リンゴット工場再開発、ジェノヴァ港湾再開発、サン・ニコラ・スタジアム、ユネスコ・ワークショップ研究所、関西新国際空港、リヨン国際都市、ハイヤ大橋、アトリエ・ブランクーシ再築、ニュー・メトロポリス、ジャン・マリー=チバウ文化センター、ポツダム広場再開発計画、KPNテレコムタワー、オーロラ・プレイス、メゾン・エルメス、ナッシャー彫刻センター、ピオ神父巡礼教会、 パウル・クレー・センター、ハイ・ミュージアム新館、ピーク&クロッペンブルク・デパート、モルガン・ライブラリー増改築、ブロード現代美術館、ニューヨーク・タイムズ・タワー、カリフォルニア科学アカデミー、ザ・シャードなど多数。
Photos and Material: Courtesy of RPBW
Cookie(クッキー)
当社のウェブサイトは、利便性、品質維持・向上を目的に、Cookie を使用しております。詳しくはクッキー使用についてをご覧ください。
Cookie の利用に同意頂ける場合は、「同意する」ボタンを押してください。同意頂けない場合は、ブラウザを閉じて閲覧を中止してください。