世界の建築は今 No.114

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2015/03/31 10:00

Serpentine Sackler Gallery (London, UK)

サーペンタイン・サックラー・ギャラリー(イギリス、ロンドン)

Design:Zaha Hadid
設計:ザハ・ハディド


レンガ造+テンシル構造のハイブリッド空間

ロンドンのケンジントン公園にある「サーペンタイン・ギャラリー」は、1924年に建てられたクラッシック様式の建物である。多くの読者が知っている世界の著名な建築家がデザインしている夏期用の「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」は、その建築活動のひとつである。第1回目がザハ・ハディド、2回目がダニエル・リベスキンド、3回目が伊東豊雄と続いてきたパビリオン・デザインは今年15回目で、昨年の14回目は藤本壮介がデザインして話題になった。

ここで読者の方に認識してもらいたいのは、サーペンタインという名前を冠した建物は3つあり、その違いというかそれぞれの活動を知ってもらいたい。「サーペンタイン・ギャラリー」と「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」は前述のとおりだが、それに加えて今回ザハ・ハディドがデザインした作品が「サーペンタイン・サックラー・ギャラリー」だ。「サーペンタイン・ギャラリー」から徒歩7分ほどの距離にある。

ロンドン中央部におけるザハの手になる初めての恒久的な建築である増築棟は、新古典様式のオリジナル・ビルとは互いに補足し合う関係となっている。第1回目の「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」を設計したザハは、その時以来「サーペンタイン・ギャラリー」との親交を維持し、今回のデザイン・コミッションにつなげた。建物周辺のランドスケープ・デザインは、世界的に有名なアラベラ・レノックス=ボイドが担当し、女性建築家と女性ランドスケープ・デザイナーという女性デュオによる作品となった。

「サーペンタイン・サックラー・ギャラリー」は「ザ・マガジン」と呼ばれる1805年の古い弾薬庫に増改築を施し、ギャラリーとして再生させたものである。ザハは旧棟の方はあまりいじらず、900㎡の空間を増築し、新しいギャラリー、レストラン、ソーシャル・ スペースを包み込んだ。サーペンタインの第2のスペースはロンドン中心部の新しい文化的拠点となった。

建物は既存の「ザ・マガジン」と新規につくったテント構造の新棟がある。旧棟はふたつのレンガ造によるバレル・ヴォールト空間(弾薬庫)と、それを取り巻く正方形プランで正面側に列柱のある低いストラクチュアで構成されている。ザハは弾薬庫内にあったパーティションを取り払ってギャラリーに改修。さらに周囲のストラクチュアと弾薬庫の間にトップライト付きの屋根をかけてギャラリーとしている。

ふたつのヴォールト空間と中庭空間がコネクトされて、ひとつの連続したギャラリー空間として生まれ変わった。トップライトからはソフトな自然光が流入し、ギャラリー・シークエンスに完全な展示用照明環境を創出している。この旧棟にはギャラリーの他に、ギャラリー・ショップをはじめ、サーペンタインのキュレーター・チームのオフィスも入っている。

新棟の方は静的な既存のレンガ造に対し、建物全体を活性化して新しい文化的な拠点としての役目をもっている。したがってクラシカルな既存のビルとは違って明るく、透明で21世紀の現代建築らしく軽やかでダイナミックな造形を目指した。増築棟は仮設建築でよく使用されるエフェメラルなテンシル構造。ザハ事務所にとっては初めて、恒久的な建築をテンシル構造でデザインした。

グラスファイバーで織ったテキスタイル・メンブレインの使用により、自在な曲面壁が可能になってダイナミックな造形を生み出し、硬質な既存棟と素晴らしい対象をなしている。それがペリメーターを巡るスティール・ビームと内部に立つ5つのスティール・コラムを覆っている。

東側ではメンブレインの屋根が、ザ・マガジンのパラペット部分をオーバーハングして伸びている。上部のリニアなガラス開口部が、ザ・マガジンの上部に触れることなく軽やかな屋根が伸びていることを示している。かくしてザ・マガジンの西側外壁は、増築棟のインテリア壁となり、かつての機能性と美しさを温存。レンガ造とテンシル構造による剛柔の対峙は、魅力的なハイブリッド空間を生み出した。


[図 面]

 

[建築家]


©Simone Cecchetti
■ザハ・ハディド略歴
1950年 イラク、バグダッド生まれ。ベイルートのアメリカ大学卒業後、渡英
1977年 AAスクールを卒業(AAディプロマ賞受賞)し、OMAに入所
1980年 自己の設計事務所を開設
1981年 「59イートン・プレイス」で、英国建築デザイン・ゴールドメダルを受賞
「ピーク・クラブ・コンペ」(香港)で最優秀賞
1992年 ニューヨーク「グッゲンハイム美術館」における”ロシア・アヴァンギャルド展“の展示デザイン
1993年 本格的建築作品「ヴィトラ消防ステーション」完成。「カーディフ湾オペラハウス・コンペ」最優秀賞
1999年 ドイツ建築家協会名誉会員
2000年 アメリカ文芸アカデミー名誉会員。アメリカ建築家協会名誉会員
2002年 エ-ケル・ダルジャン賞(仏)受賞
2003年 ミース・ファン・デル・ローヘ賞受賞
2004年 プリツカー建築賞受賞。RIBA世界賞受賞
2005年 ロイヤル美術アカデミー会員。ドイツ建築賞受賞
2006年 AIA英国支部賞受賞。RIBAジェンクス賞受賞
2007年 高松宮殿下記念世界文化賞
2011年 スターリング賞
2012年 大英帝国勲章デイム・コマンダー
2014年 RIBAロンドン賞

 
■代表作

主な作品に、ヴィトラ消防ステーション、ランドフォーム1、ムーンスーン・レストラン、マインド・ゾーン、サーペンタイン・ギャラリー、ストラスブール・バス・ターミナル、インスブルック・スキー・ジャンプ台、ローゼンタール現代美術センター、BMWセントラル・ビル、ホテル・プエルタ・アメリカ、オルドラップガード美術館増築、フェーノ科学センター、ロペス・デ・エレディア・ワイナリー、マギーズ・センター、国立20世紀美術館、グラスゴー・リバーサイド美術館、エヴリン・グレイス・アカデミー、広州オペラハウス、ピエールヴィーヴ、サーペンタイン・サックラー・ギャラリーなど多数。

Photos and Material: Courtesy of Zaha Hadid Architects


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