世界の建築は今 No.113

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2015/03/02 10:00

Raffles City Chengdu (Chengdu, China)

成都ラッフルズ・シティ(中国、四川省、成都)

Design:Steven Holl
設計:スティーヴン・ホール


スライスされたマルチ・ファンクショナル・シティ

スティーヴン・ホールのマグナス・オーパス(最高傑作)といわれる「成都ラッフルズ・シティ」は別名「スライスド多孔ブロック」とも呼ばれ、異なる機能を有するハイブリッド型のパブリック・プラザを持っている。このプロジェクトはイコン的な超高層と違って、自然光の配分に従って造形化され、そこから複雑な形態が生まれた。

日本人にとっては周知のように成都は四川料理の本場。しかも有名な三国時代の軍人・諸葛亮(孔明)の本拠地と聞けば多くの日本人が知っているはずである。北京や上海という大都市の発展にメディア上では押されているものの、中国では4番目の大都市で近年は同市への興味は上昇している。

建物は周辺のアーバン・ファブリックを考慮し、必要とされる最少の太陽光を受容するために、エクソスケレタル(外骨格)・コンクリート・フレームをスライスして精度の高い幾何学的な角度のフォルムが生み出されている。高さ1.8mの窓がびっしりと穿たれた外壁には、耐震交差ブレースが走っている。他方スライスされた部分は全面ガラス張りとなっている。

建物の敷地はかつての「四川省歴史博物館」の跡地で、同市の最も栄えているエリアのひとつ、レン・ミン・ナン通り沿いにある。将来地下鉄駅が道路の向かいにできる予定だ。中心に大きなプラザをもち、建物としては3棟だがタワーとしては5棟がそれを取り巻く延床面積195,000㎡に及ぶマルチ・ファンクショナル・コンプレックス。オフィス、ブティック、5つ星ホテル、サービス付きアパートメント、および商業店舗を含む巨大施設だ。

建物は多数の機能をインテグレートしたアーバン・ライフを創造するポテンシャルをもっている。小さな都市と言われるだけあって、仕事、生活、ショッピングが統合されたマルチな都市生活がエンジョイできる。この巨大都市構造体の中にヒューマン・スケールを確立することは、通りとショッピング・センターの2方向にオープンなショップを持つ”マイクロ・アーバニズム”のコンセプトを通してなされている。

ブロックの中心部に枠付けされた大きなパブリック・スペースは、3つの谷間で構成されている。これは中国の著名詩人のひとり、杜甫の詩作にインスパイアされたものである。3層のプラザ・レベルは、時間のコンセプトである中国の暦年の噴水、12ヶ月の噴水、30日の噴水をベースにした3つのウォーター・ガーデンをフィーチャーしている。これら3つの池は下階にある6層のショッピング・エリアのトップライトとして機能している。

プラザには5つの通路からアクセス可能で、それにより多くの市民を招き入れる。その強い都市体験は多孔性による多方面からの進入によってもたらされる。ダイナミックな建物形態は、太陽光の入射角度に従ってカットされたものであり、またプラザはいくつもの視点レベルから見晴らすことができる。パブリック・スペースはこのプロジェクトの心臓部にある。常時一般大衆に開かれたアーバン・スペースをダウンタウンに創造することは、他の都市開発も取り入れるべきコンセプトである。

このパブリック・スペースにおけるもうひとつの魅力あるハイライトは、3つのユニークなパビリオンだ。3つの建物の外壁に彫り込まれたニッチのような空間には、スティーヴン・ホール・アーキテクツのデザインによる「歴史パビリオン」、米国建築家レベウス・ウッズのデザインによる「ライト(光)・パビリオン」、そして中国彫刻家ハン・メイリンによる「ローカル・アート・パビリオン」が勢揃いしている。

特に「ライト・パビリオン」はニューヨークの建築家で数年前に他界した故レベウス・ウッズの作品で、ランダムに張り巡らされたコラム群に、カラフルなライトを照射するというラジカルなデザインで来館者を虜にしている。ウッズは建築家とはいえ当年初はアンビルト・アーキテクトで、ラジカルな建築の崩壊的な絵画で有名であった。後年わずかに米国内外に小さなフォリーのような作品をつくった。死後の今回の作品は友達であったスティーヴン・ホールの好意と彼へのオマージュとして生まれたものと推察される。

「成都ラッフルズ・シティ」はサステイナブル・デザインの模範的な回答でもあり、米国環境評価基準LEEDの金賞に値する内容をもっている。468本の地熱井戸により地中からの熱を吸収して暖房し、雨水をリサイクルして溜めたプラザの大きな池で建物を冷やしている。他方自然の草木や百合の花壇などは、ナチュラル・クーリング効果を発揮している。

またハイ・パフォーマンス・ガラス、低エネルギー設備機器、ローカルな材料の使用により、エネルギー効率を高めている。エネルギー保存のためにオフィス空間には稼働センサーが取り付けられ、人工照明の使用を抑えている。その上LEDライトを使用し、光の当たらない深い空間をやめ、自然光を最大限取り入れている。さらに各タワーの頂部にあるルーフ・ガーデンにより、ヒート・アイランド現象を抑えている。


[図 面]

 

[建築家]


©Mark Heitoff
■スティーヴン・ホール略歴
1947年 ワシントン州ブレマートン生まれ。
1970年 ワシントン大学で建築を卒業、ローマで建築を学ぶ。
1976年 ロンドンのAAスクールに学ぶ。ニューヨークに事務所設立。
1981年 コロンビア大学で教鞭をとる。
1993年 「ヘルシンキ現代美術館」国際コンペ最優秀賞
1997年 AIA宗教建築賞、AIAニューヨーク支部名誉メダル、アーノルド・ブルンナー賞、第38回BCS賞
1998年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル、アルヴァ・アアルト賞、クライスラー・デザイン・イノヴェーション賞
2000年 アメリカ文芸アカデミー会員
2001年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル、AIAシアトル支部デザイン賞
2007年 AIAニューヨーク支部名誉賞
2009年 国際建築賞
2010年 RIBA国際賞、ジェンクス賞
2011年 AIAゴールドメダル
2014年 秩父宮殿下記念世界文化賞

 
■代表作

代表作に、ストアフロント・ギャラリー、ネクサス集合住宅、セント・イグナチウス・チャペル、ヘルシンキ現代美術館、クランブルック科学研究所、サルファティストラート・オフィス、ロイジュウム・ビジター・センター、サイモンズ・ホール、ネルソン・アトキンズ美術館、プラット・インスティテュート・ヒギンス・ホール増築、へリング現代美術館、多孔的スライスド・ブロック、クヌート・ハムスン・センター、リンクト・ハイブリッド、ヴァンケ・センター、海と波のミュージアム、ナンジン・シファン・アート・ミュージアム、Tスペース、成都ラッフルズ・シティ、グラスゴー美術学校セオナ・リード・ビルなど多数。

Photos and Material: Courtesy of Steven Holl Architects


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