KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

川勝真一/一般社団法人建築センターCoAK (Centre for Co-Architecture Kyoto)|京都府京都市|京都に日本初の建築センターをつくる(1/2)

Research for Architectural DomainからCentre for Co-Architecture Kyotoへ

今年の4月にクラウドファンディングで募った「建築文化を『案内』するプラットフォーム=建築センターを京都につくる」プロジェクトは、募集終了日を待たずに成立し、今秋の本オープンに向けて準備を進めている。このプロジェクトを立ち上げたのが、一般社団法人建築センターCoAK(Centre for Co-Architecture Kyoto)代表の川勝真一さんだ。川勝さんは京都で建築を学び大学院を卒業後、2008年に「建築の居場所」を探るインディペンデントなリサーチ・プロジェクト「RAD - Research for Architectural Domain」を立ち上げ、リサーチを始め建築家の展覧会・レクチャー・シンポジウムの企画実施、町家や商店街の改修のワークショップ、ここ5, 6年は公共建築の設計プロセスの中でリサーチとワークショップにも携わってきたが、昨年9月末にRADとしての活動を一旦終了した。

「展覧会を企画していたこともあり、キュレーション(curation)ということを改めて考えたいと思いました。キュレーションの語源には、cureとかcareという病気を治す(世話する)という意味があります。これまでリサーチ活動を通して感じたのは、建築や空間、場所作りに関しては、本来的に誰もが関わることができ、そこに対して意見を言う権利があると思っています。ただし、日本だとその辺りの意識や文化的背景が弱く、一般の人々と空間的なイシューの接続の回路がほぼないことが気になっていました。そういう部分をどうケアするかをキュレーションだと捉えれば、これまでやってきたワークショップや展覧会、ガイドツアー等が、キュレーションワークとして位置づけられるのではないかと考えるようになり、そのための実践ができる、メディアになる場所を持ちたいと思いました。既存の美術館やギャラリーではなく、自分なりにそのための場をゼロから作らないと、やりたいことができないと思い、場所探しを始めました。」そして「けんちくセンターCoAK | Centre for Co-Architecture Kyoto」の設立に踏み切った。
また、この4月から母校である京都工芸繊維大学で特任研究員として、建築の展覧会などのキュレーションを掘り下げる研究をしている。そして、京都芸術大学大学院芸術研究科では特任教授として、あらためて「京都」を対象としたリサーチベースのプログラムを学生と一緒に実施することを計画中。CoAKが実践の場だとすれば、そこに研究と教育の三足の草鞋を履くことになるが、それらを上手く連動させていきたいと考えているそうだ。

加えて、川勝さんが海外で体験したことがあった「建築センター」のような場所が日本にもあるべきではないかと思っていたこともCoAKに繋がった。国内にも審査機関の日本建築センターがあるが、ここでの建築センターはそれとは趣が異なる。「建築センター」や「建築博物館」等と名称は様々だが、その国や都市の建築に関する基礎的な情報や展示があり、独自の企画展覧会の実施や、観光客向けにガイドツアーなども開催する。建築の専門家はもちろん一般市民、観光客にも開かれた施設である。特に、アムステルダム建築センター (Arcam (Architecture centre of Amsterdam)、ウィーン建築センター (Az W – Architekturzentrum Wien)、カナダ建築センター (Canadian Centre for Architecture)、シカゴ建築センター (Chicago Architecture Center (CAC))、デンマーク建築センター (Danish Architecture Center)、パリのアルスナル建築博物館 (The Pavillon de l'Arsenal) 等が有名だ。

「海外の建築センター等は、アーカイブ部分等は研究者が主体ですが、建築専門のビジターセンターとして機能していたり、ローカルな建築や都市の情報が得られたり、常設展示がある所だと都市の歴史や発展の中で建築の文脈が理解できるなど、都市や建築を巡る上での解像度を上げることができるのですごくいいんですね。例えば、アルスナル建築博物館はパリという都市がどのように発展してきたか、今のような姿になっているかが分かりやすく紹介されています。子どもたちが社会見学のような形で見にきているのも印象に残っています。日本人は建築やまちへの愛着が低く、古いものを大事にしないと言われることもありますが、そもそも自分のまちやそこにある建築について知るためのインフラがないのではと思います。国立近現代建築資料館はアーカイブのための施設ですし、日本建築センターは技術評価機関で全然違う。なので、まずは「建築センター」とはこういうものだと、小さくてもいいので形に示さないと伝わらないなと思います」と川勝さんは話す。

 

Centre for Co-Architecture Kyoto(CoAK)のあり方と考え方を表すダイアグラム(デザイン:平野拓也)Centre for Co-Architecture Kyoto(CoAK)のあり方と考え方を表すダイアグラム(デザイン:平野拓也)

 

場所探しとCoAKの周辺環境

物件探しは、京都を中心に活動している建築出身の不動産会社add SPICEの岸本千佳さんに探してもらった。そして昨年8月末に、自宅からも近い場所に、路面に面して間口が広く、外から何をやっているのか見えるので風通しも良さそうな、まさに望んでいた条件の物件が見つかった。地下鉄烏丸線北山駅から下鴨中通を北大路通に向けて徒歩約10分。京都の中心というよりは少し外れた落ち着いたエリアだ。「観光客向けの建築案内所ではなく、建築に関するAID(支援)するためのセンターでもあってほしいという思いがありました。地域の人が建築の知見を得られて、技術などの相談が受けれる。そういう形で地域とどう関わっていけるかを考えたかったので、なるべく普通に人が暮らしている生活のあるところに開きたいと思いました」と説明する。周囲はまさに住宅街で、昭和初期に開拓された京都の初期の郊外住宅地という場所。南に行くと下鴨神社、北に行くと上賀茂神社などもあるが、そこまで古いものが多くないので、観光客がたくさん訪れるような場所ではない。

ただし北山駅に向かう道沿いには安藤忠雄氏の「京都府立陶板名画の庭」、磯崎新氏の「京都コンサートホール」、飯田善彦氏の「京都府立京都学・歴彩館」、北山駅東側の交差点近くには菊竹清訓氏の「京都信用金庫北山支店」があり(菊竹氏は同金庫の支店をいくつか手がけている)、支店内に菊竹氏の建築を紹介しているコーナーもあったりと建築家物件が多い。住宅地を歩いていると、有名建築家が手がけた住宅建築に出くわすこともある。また京都府立大学や京都府立植物園が近く、京都府の文化ゾーンになっている地区だ。「地下鉄やタクシーで少し移動すれば、大谷幸夫氏の「国立京都国際会館」や村野藤吾氏の「ザ・プリンス 京都宝ヶ池」もありますので、その辺りの建築ツアー等も考えています。」と思いを巡らす。

 

一階が「けんちくセンターCoAK (Centre for Co-Architecture Kyoto) 」。2024年4月26日(金)〜 5月12日(日)に開催されたプレイベント第一弾「ARCHIZINES FAIR 2024」の様子が外からも見える。Photo: Horii Hirotsugu一階が「けんちくセンターCoAK (Centre for Co-Architecture Kyoto) 」。2024年4月26日(金)〜 5月12日(日)に開催されたプレイベント第一弾「ARCHIZINES FAIR 2024」の様子が外からも見える。
Photo: Horii Hirotsugu

 

CoAKのデザインとコンセプト

新たな出発となるテナントは元不動産屋。基本的に解体できる範囲は自分たちで作業をおこない、電気工事や家具製作、アルミのH鋼を使用した取手やカーテンレールなどは大工さんにお願いした。空間デザインは建築家の木村俊介氏(SSK)。受付デスクや三角形の多目的テーブル、本棚や椅子が、イベントやプログラムに応じて変化し、空間の見え方が変わることを目指している。ロゴも含めたグラフィックデザイン全般は平野拓也デザイン事務所の平野拓也氏による。「CoAK」という単語には、家具造りなどで用いられる両サイドがとんがっている「合い釘」という意味もあり、ロゴでは基本の幾何学エレメントに合い釘が刺さっている様子がデザインされている。合い釘のモチーフには、この場所が建築と何かを「つなげていく場」になっていけるようにとの思いを込めている。

 

CoAKのロゴの構造についての解釈とプロセス(デザイン:平野拓也)CoAKのロゴの構造についての解釈とプロセス(デザイン:平野拓也)

 

CoAKは、Guide(案内・紹介)、Aid(支援・相談)、Intaract(交流・発信)の3つの「案内」機能を軸に展開される。「例えばAid(支援・相談)に関して言うと、公共、民間を含めて様々なサービスが多々あるので、それぞれの特徴を把握しながら整理し、相談内容によって適所に案内できるように準備しています。CoAKだけで全て解決するのではなく、不動産の専門家や工務店さんをつないでいきたいと思っています。ほかにも大工・職人不足の問題に対して、DIY好きな方々が修繕ボランティアをされている地域や、DIY講習を受けた人たちの仕組み作りなども勉強していきたいですし、木工所やデザイナーの工房と一緒に何かできないかという話も進めています。」これまで川勝さんが培ってきた『地域の方達と関わりながら、引き出すためのリサーチ』がここでも活かされる。一時的な問題解決だけでは新たな課題に対処しづらい。主体的に取り組む人たちを地域の中にいかにつくっていくかが重要だが、そうしたプレイヤーを育てていく場にもなっていくのではないだろうか。

マネタイズ面はどう考えているのか。「徐々にですが建築が好きな人に響くようなグッズの制作や、有料建築ツアーが組めるようにと計画しています。大学や企業との連携事業などにも取り組みたいと思います。ツアーについては、知り合いの建築家や事業者さんに話をしつつ、プライベートな空間も含めた京都の建築資源をこれまでよりも開いていけるようにしたいと考えています。建築家が設計した住宅やスタジオ訪問など、条件次第では見学可能な場所はあると思いますので、プライベートとパブリックで二分するのではなく、そのあいだを作りたいです。やはりその土地や街で暮らしている様子や、生きている場所を見て、理解してもらうのが重要かなと思います。」地域住民も含め観光客などの外部の人たちに対して、ツアー体験を豊かにするようなガイダンス方法を考えたいと言う。それはプレゼンテーションのように一方的に「こうです!」と言うものではなく、相手に寄り添いながら一緒に理解を深めていくようなものではないかと、それにより伝わる建築の面白さや魅力があり、そのための体験プログラムを企画していきたいそうだ。

また、CoAKが地域やまちに与える機能について川勝さんは続ける。「2012年にRADで町家の改修をした際、建築を専門とする以外の人たちが自分の周りの空間を作ることにどう関わっていけるのか、それに対してどう専門家がサポートできるかを考える事ができました。そういうことの延長線上でできることを探ってみたい。最初はちょっとしたことから、建築っておもしろいかもと興味を持ってもらえればよく、その次が用意されていることが必要だと思います。次に何か少しつくってみる、最終的には自分がどんな空間で生きたいかを実現できる、そんな人が増えていくことがまちを楽しくし、豊かさにつながっていきます。こういう人がたくさんいるまちの方が面白いですよね。そんな状況をつくれる場所にCoAKをしていきたい。単なる建築ツアーでおもしろかったと終わらせず、もう一歩自分だったらこうする、こういう場所ができたらいいのにと考えていけるようなところを目指したいです。建築は日常的に関わりを持つものなので、そこを意識して取り組むと、建築祭などの取り組みとも棲み分けができてちょうどいいかなと思います。」

 

CoAKの3つの「案内」機能と仕組みを表すダイアグラム(デザイン:平野拓也)CoAKの3つの「案内」機能と仕組みを表すダイアグラム(デザイン:平野拓也)

 

CoAK本オープンに向けて

4月末にひとまず空間のベースが完成し、現在は本オープンの準備を進めながら不定期でプレイベントを開催している。どのくらいの規模感のイベントが良いのか、どんな内容が向いているのか等、これからCoAKで展開できそうなことを探っている。プレイベントの第一弾は「ARCHIZINES FAIR 2024 / 4月26日(金)〜 5月12日(日)*1」。建築や都市に関するオルタナティブな印刷物=アーキジンズによるブックフェアだ。その後も小規模のトークイベントや読書会などを実施し、6月には建築家の湯浅良介さんのプロジェクト展示「湯浅良介「TEMPO++」/ 6月7日(木)〜 23日(日)*2」を開催した。
「展示は、建築家の総体的な活動というよりは、一つの建築プロジェクトにフォーカスし、建築を一つのものとしてでなく、一連の出来事として捉えていくようなことに今後は取り組みたいと思っています。そうすると、これまでとは異なる展示やドキュメンテーションを考えることになると思います。地域の人からするとまちの歴史や、建築という話題にカジュアルに触れることができる場所であり、観光客にとってはビジターセンターであり、建築家や学生には発表の場所であったりと、それらがうまく混ざりあってほしいと思っています。できることから少しずつですが、3つの機能がセットになって存在しているような状態を目指しています。」

日本で初めての「建築センター」は、ユニークな相談機能も含め、単なる建築のビジターセンターではない様々な機能があることが特徴だ。ゆえにCoAKは多機能な建築文化への受付のような場所として捉えられる。ここで全てが完結するのではなく、街の中にある建築的なコンテンツをコーディネートし、イベントなども周辺の講義室や会議室、展示スペースを借りるなど、ネットワーク型の施設にしていきたいという。「HAGISO」のようにまちに展開する文化施設のようだ。
なのでまず「けんちくセンターCoAK」がどんな所か、実際に体験してほしい。海外では建築が文化としてあり、住民のまちや建物に対する関わりが強く、保存や景観等に反映されることも少なくない。利用していく人が増えていけば、活動が広がって浸透して、他の都市や地域でも作られていき、少しずつまちへの愛着が生まれたり、何気なく見ていたまちの見え方も変わっていくのではないだろうか。そのきっかけとなるCoAKは、川勝さんが経験してきたこと全てが繋がっていて、進化し続けていく場になりそうだ。本オープンの際に何が起こるのか益々楽しみである。

 

けんちくセンターCoAK | Centre for Co-Architecture Kyoto
運営:一般社団法人建築センターCoAK(代表:川勝真一)
住所:606-0824 京都市左京区下鴨東半木町67-17,1F
URL:http://centrecoak.org
Mail:Email:info@centrecoak.org
Tel :075-585-4067

 
 
 

Cookie(クッキー)
当社のウェブサイトは、利便性、品質維持・向上を目的に、Cookie を使用しております。詳しくはクッキー使用についてをご覧ください。
Cookie の利用に同意頂ける場合は、「同意する」ボタンを押してください。同意頂けない場合は、ブラウザを閉じて閲覧を中止してください。