KENCHIKU世界/地域に根ざした建築家

田邉雄之建築設計事務所|神奈川県鎌倉市|ローカルでグローバルな建築家のありかた(2/2)

文:久留由樹子、写真・図版(明記以外):田邉雄之建築設計事務所

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WORK x ation Site 軽井沢


軽井沢の六本辻に面する建物のコンバージョンとフォリーの増築。元飲食店を三菱地所が運営するフレキシブルなワークスタイルに対応するワーケーションオフィスへと変更した。建物には3つのワークスペースがあり、1つはセミナー開催に適した平面形で、1つは3面開口からの自然光によりリラックスした雰囲気をもち、2階のもう1つはキッチンを備えチームビルディングに適した空間となっている。建物全体にケーブルラックを兼ねた長押を新設し、既存壁を壊さずに新規照明やLAN、プロジェクターを配線した。フォリーは屋根や庇や壁を兼ねた角度が異なる6枚のサーフェイスから構成され、通りからも見える位置に配置し、厳しい景観規制のなかで生まれ変わった施設の「何も描かないビルボード」としての役割も果たす。企業に対しての短中長期の1棟貸しや部屋貸利用を想定するなかで、多様なニーズに応えるとともに、自分の居場所を見つけられるような空間づくりを行った。

 

構造:木造、階数:2階、敷地面積:1027㎡、建築面積:222㎡(既存)23㎡(フォリー)、延床面積:275㎡(既存)11㎡(フォリー)

 

 

アルマジロ


アルマジロは鎌倉の緑に囲まれたハナレで、敷地は狭い路地の突き当たりに位置する旗竿地である。クライアントはカップルとその父親で、敷地内に建つ築80年の建物が世界中から集めた楽器や古家具などの調度品で手狭になってきたため、ゆったりと食事をしたり、音楽を奏でたり、昼寝ができる空間が望まれた。そこで風が抜けて、光が降りそそぐ庭の一部に今回の建物を計画した。ぐるりと囲まれた緑を楽しめる開放的な1階と、空からの光と音だけが聞こえる「あなぐら」のような2階て。動物は光や風、気温や湿度、土地の起伏といった環境をよみ快適な寝床を選ぶ。そこにじっとしていても心地よく、ずっと居眠りできるような空間をめざした。
*アルマジロとはスペイン語で「武装した小さなもの」という意味で体中が鎧のような鱗甲板で覆われている。 熱帯雨林や草原、半砂漠のような気候が穏やかで暖かい場所に生息し、毎日「あなぐら」で約18時間とたっぷりの睡眠をとる。

 

構造:木造、階数:2階、敷地面積:422㎡、建築面積:34㎡、延床面積:52㎡

 

 

ペッタンコハウス2


長野県茅野市、標高1160mに位置する夫婦と子供のための住宅。元々畑だった敷地は南北に長く、少し高い南側がメインの接道で東側の隣地は1mほど高く、その向こうには八ヶ岳の山々がそびえる。水下にあたる西側は茅野の市街地に向かって雄大な景色が広がっている。クライアントは植栽家・ランドスケープデザイナーで、これまでに様々な建築家との協働もおこなってきた。鎌倉からのIターンであり、自らの庭をつくれることと、この景色に惹かれて移住を決意された。そのような大切な庭と建物の配置関係は、敷地での地縄張りや模型を用いながら検討を重ね、最終的にはやや窪んでいる敷地の北側を庭、南側を建物とすることにした。平面計画ではその庭が常に眺められるよう居間を配置。その居間には建物中央の屋根に設けた南向きの大きなドーマーから、2階床のルーバーを通して光が差し込む。また居間と台所に設けられた西側の開口部と、同じく西側に開けたウッドデッキからは、一日の終わりに夕日とともに変わりゆく景色を日々楽しむことができる。2階は階段ホールを中央にして、腰壁で仕切られた夫婦と子供のスペースがそれぞれ配置されている。1階の床から2階の天井まで貫く独立柱は、将来個室化する際の手がかりともなる。居間と玄関の上部は吹抜けであり、間仕切りの少ない2階も含めて大きな気積を感じることができる。

 

構造:木造、階数:2階、敷地面積:1217㎡、建築面積:165㎡、延床面積:131㎡

 

 

鎌倉笹目座


鎌倉笹目座は神奈川県鎌倉市笹目に位置する2棟(全8テナント)の木造2階建て商業施設。敷地は鎌倉中心部から長谷の大仏へ向かうバス通りである由比ガ浜通りに面している。この通りには明治、大正、昭和初期の鎌倉別荘文化を今なお感じさせる商店がいくつか点在する。それら商店の多くは二重屋根/二重庇を持つファサードで、まちのスケールをつくりだしている。そこで今回の建物のファサードにも内部が見え隠れする二重屋根/二重庇を設ける計画とした。計画当初は建物完成時に敷地を分割して販売することも考えられていたため、コートヤードを形成しながらも敷地を二分するように双子のような2つの建物を配置した。延床面積はどちらも約32坪ほどであるが、敷地形状に合わせて平面形が若干異なる。しかしそれぞれの建物の屋根勾配の水下を両隣地側にとることで一棟のような一体感をつくりだしている。またパサージュやコートヤードを挟んだ開口部を平面的に同じ位置とすることで、隣棟への繋がりや広がりもつくりだしている。内部空間には構造材の見える化(オフセット柱+長押)により異なるテナントが入居しても建物全体の統一感を保つ狙いがある。木造の屋外階段、二重屋根、外壁にウッドデッキ等この建物で使われている屋外部分の木材は、留め方やブラケットを工夫することで更新可能な納まりとしている。今回の建物は商業施設であり不特定多数の方が訪れる。その方々に輸送エネルギーの低減と、森林の維持管理の大切さが少しでも伝わるように地産地消もテーマとして掲げた。そのためクライアントと林業者、施工者と共に神奈川県の箱根の山林に入り、柱や梁となる木を選定し伐採するところから始めた。中庭を用いて地域のイベントも行われている。

 

構造:木造、階数:2階、敷地面積:214㎡、建築面積:52㎡x2棟、延床面積:90㎡x2棟

 

 

田邉雄之/田邉雄之建築設計事務所

田邉雄之さん/田邉雄之建築設計事務所

田邉雄之さんからのメッセージ

思い返せば幼い頃からものづくり/建築が大好きでした。幼稚園では牛乳パックやケーキの空箱で、まちをつくり、小学校の夏の自由研究では、通っていた校舎や訪れたホテルの模型を工作用紙や丸棒や割り箸などで何度も制作をしていました。今でもカッターや斧や素手やペンやマウスなどを用いて、ものづくりをすることはとても楽しいと感じています(つい先日も仲間と共に斧とノミでワインバーのインテリアに用いる魚を彫っていました)。

頭の中で思い描きそしてつくる、または検討を重ねる中で思いもよらない形が生まれる瞬間は、そこへ到達するまでのさまざまな苦悩の過程も含めて、人生の中で大切な時間です。このようなものづくり/建築を続けられるように、私は鎌倉に事務所を構えているのかもしれません。

鎌倉は三方を山に一方を海に囲まれ、豊かな自然と身体に近いスケールの建物からまちなみが形づくられています。ここでは都市とは異なる緩やかな時間が流れ、日々自然の変化を感じて観察しながら暮らすことができます。ローカルなプロジェクト、そして増えつつあるグローバルなプロジェクトを行ううえで、自分のものづくりに対する軸を確認できるこの地に身を置くことが重要だと考えています。

https://yuji-tanabe.com/
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