2026年7月24日(金)、横浜美術館で「毛利悠子 Recompose — 第60回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館帰国展」が始まった。毛利悠子(1980年神奈川県生まれ)は、既製品やファウンド・オブジェ、自作の装置を組み合わせ、作品が置かれた環境などの諸条件により変化していくインスタレーションを制作している。
本展は、第60回ヴェネチア・ビエンナーレ(2024年)において、日本館代表作家として、国際交流基金のコミッション、イ・スッキョンのキュレーションのもと、開催した個展「Compose」を横浜美術館のギャラリー9での展示に再構成したものである。日本館の約3分の1の広さであるギャラリー9に、15作品(Compose展は17作品)が展示されている。
ギャラリー9は、もともと外部空間だった場所を2024年に完了した大改修時にギャラリーとして再編した空間で、作品の背景に外の風景が入り込み、また外部(美術館前の広場)から室内を覗くこともできる。自然光があふれ、一般的な美術館の展示室とはずいぶん様子が違う。
中央に穴が開いた日本館も、周囲の環境との接続が特徴的な空間である。雨風が吹き込む日本館が物理的に外部とつながっていたのに対して、ギャラリー9は視覚的につながっている。作品そのものだけでなく、作品が置かれる環境も展示の一部になっているといえるだろう。また、本展はギャラリー9での初めての企画展でもある。
展示は、毛利が継続的に取り組んできた「モレモレ」と「Decomposition」(デコンポジション)という2つのシリーズにより構成されている。
「モレモレ」は地下鉄構内で雨漏りしているところの水をうけて、ホースやビニール袋などで対処されている光景に着想を得て、毛利が10年以上にわたって取り組んでいるシリーズである。駅員たちのふるまいに着想を得て、さまざまな日用品を用いて形づくった水の循環システムが自然現象(重力)と組み合わされて、不規則に動く様は、展示室内に小さな生命が生まれたようでもある。
「Decomposition」は、電極を刺された果物がゆっくりと朽ちていく過程で、その水分量の変化によって不規則な音と光が生み出されるシリーズである。果物が朽ちて、コンポストされて、土に還るという展示外も含めたエコシステムが取り込まれた作品である。
「Compose」展のキュレーター、イ・スッキョン氏が展示に寄せた文章には、人間を人間たらしめる根源的な力である創造性に希望をつなぐ姿勢が表明されている。
【第60回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館「Compose」展キュレーターノートより(抜粋)】
「Compose」の原義は「com・pose=共に・置く(place together)」とされている。「Compose」展は、コロナ禍後の分断、争い、地球規模の課題や危機に直面する世界において、ばらばらになった人々があらためて共に置かれ、住まうことの意味を問いかける。人々はどのようにして「危機」において創造性を与えられるのか。それこそが、予期せぬ水漏れに立ち向かう駅員の姿を見た毛利が作品を着想するに至った背景にある。水漏れは完全には修復されることなく、フルーツはやがて朽ちてコンポスト(堆肥)となってゆく。しかし、こうした小さな営みにこそ、私たちの慎ましい創造性がもたらす希望の鱗片があるのだ。——— イ・スッキョン
展示作品を構成する要素のうち、スピーカー以外はヴェネチアで現地調達されたもの。売れ残った果物を八百屋から譲り受け、展示期間を通して用いた約400個の腐った果物は、ビエンナーレ会場でコンポストされ、堆肥となった。
本展のタイトルである「Recompose」は、「組み立て直す」という意味である。環境や素材、偶然によって変化し続ける作品を、別の場所でもう一度組み立て直す、この展示をよく表すタイトルである。
水や果物など、馴染みのある素材で構成されているいっぽう、空気中の湿気をはじめとする環境など、普段は目に見えないものによって作品が駆動する。作品を通して、環境のなかに存在するが、普段見過ごしている自然現象や摂理を見留めると、自分は宇宙を含めた大きな営みの中の存在であるということを実感する。そして、時々動く作品に生命を感じて愛おしく思えてきて、展示を観終えた時に優しい気持ちが湧いてきた。
毛利悠子 Recompose — 第60回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館帰国展
会場:横浜美術館 ギャラリー9
会期:2026年7月24日(金)~11月23日(月・祝)
休館日:木曜日(8月13日、9月24日、11月19日は開館)
開館時間:10時~18時(11月21日・22日は20時まで)※入館は閉館の30分前まで
観覧料:無料
主催:横浜美術館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)、株式会社メルコグループ
協力:イ・スッキョン、Yutaka Kikutake Gallery、みなとみらい線、JA横浜、池谷晃麻氏
公式ウェブサイト:https://yokohama.art.museum/exhibition/202607_mohriyuko/
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