レポート

マーク・マンダース展 レポート

文・写真:柴田直美

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2021年3月20日に東京都現代美術館にて『マーク・マンダース ─マーク・マンダースの不在』展が始まった。マンダース氏は「Self-Portrait as a Building(建築としての自画像)」という構想をもとに30年以上作品をつくり続けている。それは「マーク・マンダース」という架空の芸術家の自画像を構築する彫刻やオブジェをおく「建築」ごとがインスタレーションとなっている。完全にコントロールされた世界でありつつも、そこには鑑賞者それぞれの想像力に委ねられた余白も同時にある。

本展は金沢21世紀美術館で2021年2月28日まで開催されていたミヒャエル・ボレマンスとマーク・マンダースの2人展『ダブル・サイレンス』が終わってすぐに東京に輸送された15点の作品に18作品を加えた33点によって構成されている。2019年に東京都現代美術館がリニューアルオープンした際のコレクション展『MOTコレクション』にて、収蔵されている自身の作品によるインスタレーション《音のないスタジオ》を構成した際に、東京都現代美術館の空間に興味を持ったそうだ。

2人展が開催された金沢21世紀美術館(2004年竣工)と東京都現代美術館(1995年竣工)を空間性でみたときに、丸く正面性がない金沢21世紀美術館と荘厳ともいえる重々しいエントランスや通路をもつ東京都現代美術館はかなり違う。東京都現代美術館がどのように新しい見え方になるのか、とても興味をそそられたと本展担当学芸員の鎮西芳美さんは語る。(今まで展示をしてきた他の美術館の担当者も同様に思っていたとのこと。)

あいちトリエンナーレ2016で展示されていた《サイレント・スタジオ》や『MOTコレクション』で《音のないスタジオ》をみたときの「おもしろいとわかるけれどもそれが何か完全に把握したわけではないのでもっと見たい」という気持ちは、金沢21世紀美術館で2人展を見たときにさらに増幅され、今回の展示を見たあとに、やっぱりもう一回でも二回でも見たいと思うほどであった。マンダース氏がつくりだす「架空の建築」の中に身を置くことで、「見る」こと以外の何かを感じとっていて、それはマンダース氏との会話のようなもので、自分のコンディションによって作品が見せてくる顔が違うからではないだろうか。(作品自体は少しも全く変わらないのに。)

 

 

コロナ禍により来日が叶わなかったマンダース氏は、オンラインで記者会見を開催した。(展覧会タイトルのように本当に不在のまま、展示が設営された。)

展示室は、さまざまな部屋の連続として「ひとつの文章」になっていると説明するマンダース氏。半透明の養生シートで囲われた中や外を歩くと彫刻作品に遭遇するエリアは「スタジオ」、博物館のように作品を展示している「ミュージアム・ルーム」というようにそれぞれに名前が付けられている。《短く悲しい思考》の釘が打たれている高さはマンダース氏の目線であり、彼の不在を浮き上がらせていると担当学芸員の鎮西さんがいうように、明らかではないが、マンダース自身の存在を感じさせる仕掛けがそこ此処に潜ませてあるのだろうと思う。「架空の建築」とマンダース氏が呼ぶこのインスタレーションは、輪郭がない空間の構築、であって、いわゆる建築とは違って縮尺を変えることもできる。それは彼の「建築」の中では彼自身の大きさも変えられるからではないだろうか。美術館内にいても常に外と繋がっている感覚を覚える輪郭が希薄な金沢21世紀美術館と正反対に外部と遮断されたかっちりとした輪郭をもつ東京都現代美術館に入った作品の見え方がずいぶん違うのは当然であった。

マンダース氏は「彫刻は三次元であること、(かすかに)触れるという物質性があることなどが彫刻する理由」と語る。話す中で「かすかに(subtle)」や「静かに(silence)」という言葉が多用されていたが、情報(聴覚・触覚)が抑えられることでかえって、作品から音が流れているように見えたり、触ってもいないのに過去の自分の経験から粘土のひんやりとした感覚や触るともろい感覚を思い出したり、それがブロンズでできていると知って一瞬で金属の硬質感にとってかわる。

「未完成であることは、まだこれから何かが起きるということ」であり、その瞬間がブロンズという風化や酸化しにくいマテリアルで固定されているにもかかわらず、二度目、三度目に見た時にやっぱり何か変わっているのではないかと思ってしまうくらいバイアスが働くのを止められない。そこに切なさや痛みを感じるのかもしれない。

 

マーク・マンダース ─マーク・マンダースの不在

会場:東京都現代美術館(東京都江東区三好4-1-1)

会期:2021年3月20日(土・祝)~ 6月22日(火)

開館時間:10:00~18:00 展示室入場は閉館の30分前まで)

休館日:月曜日 ※6/1~6/22の期間休館日なし

観覧料:一般 1,500円/大学生・専門学校生・65歳以上 1,000円/中高生 600円/小学生以下無料 完全予約制

 

※チケット購入・予約はこちら:https://www.e-tix.jp/mot/