レポート

「A&A」プロジェクト:「A&Aリアムフジ」/「A&Aジョナサンハセガワ」 レポート

文・写真(明記以外):柴田直美

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2016年(前回)の岡山芸術祭の期間に発表された「A&A」プロジェクト(岡山で現代美術アーティストと建築家が一緒に宿泊施設をつくるプロジェクト)の第一弾として、宿泊施設「A&Aリアムフジ」(リアム・ギリック(アーティスト)とMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO(建築家)が協働)と「A&Aジョナサンハセガワ」(ジョナサン・モンク(アーティスト)と長谷川豪(建築家)が協働)が完成した。

「A&A」プロジェクトの事業主である公益財団法人石川文化振興財団は、理事長の石川康晴の地元である岡山市や岡山県を活性化させるため、芸術文化支援事業のひとつとして、「岡山芸術交流」を行なっている。熱心な現代アートコレクターでもある石川が岡山の市街地に現代アート作品を展示することで、街を活性化させようとする試みである。

「A&A」は、岡山市内の歴史文化ゾーンおよびその周辺に、すべて1棟建てのプライベートタイプの宿泊施設を、今後20年をかけて増えていく予定。今回、オープンした2つに続いて、A&A ライアンアオキ(ライアン・ガンダー×青木淳建築計画事務所)、A&A フィリップフジモト(フィリップ・パレーノ×藤本壮介建築設計事務所)、A&A リクリットワン(リクリット・ティラヴァーニャ×アトリエ・ワン)が計画されており、さらに増えていく予定。

アドバイザーとして建築家を選定した青木淳は「単にアーキテクトの手を借りて実現されるアーティストの美術作品というのではなく、単にアーティストの作品を組み込んだアーキテクトの建築作品というのでもなく、アーティストとアーキテクトのどちらにとっても「作品」であるという稀有な状況をつくりだすことが、このプロジェクトの目標である。」と語る。コラボレーションの方式すらないと青木氏がいうように、アーティストとアーキテクトが試行錯誤しながら考え方をシェアしてプロジェクトが進められ、A&A ライアンアオキは敷地が決まっていない状態でプロジェクトが始まっているという。今回完成した2棟を見学し、建築的なスケールを持ったアートとも、アート的なコンセプチュアルさを持った建築ともいえる、特別でかつて経験したことがないような体験をしている実感があった。残りの施設の完成もとても待ち遠しい。

 

事業主: 公益財団法人石川文化振興財団

内容:宿泊施設

宿泊者数:1名〜6名まで(1棟(1客室))

価格(予定):77,000〜165,000円/1泊(税抜・サービス料込)※時期変動性

プロデューサー:那須太郎(TARO NASU代表/ギャラリスト)

アドバイザー:青木淳(青木淳建築計画事務所)

公式ウェブサイト:http://a-and-a.org/

 

 

A&A リアムフジ/A&A Liam Fuji

ニューヨークを拠点に制作活動を行っているアーティスト・リアム・ギリックと、日本の建築設計事務所・MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO の両者によって誕生した「A&A リアムフジ」は『The Manabe Equation House』という愛称がついている。20 世紀半ばに地球温暖化についての研究家として数々功績を残した気象学者・真鍋淑郎の名前がその由来だが、ギリックが真鍋氏が導き出した気象学的方程式に魅せられ、この宿泊棟を真鍋へのオマージュとしたという。MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOはこうしたギリックの視点を建築として昇華させている。岡山産のヒノキ集成材CLT(Cross Laminated Timber=ひき板を繊維方向が直交するよう積層接着した厚型パネル)を田の字型フレームを軸に、立体的に空間が折りたたまれた室内は自分の位置を見失うほどに入り組んでいる。これはMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOがギリックの視点を社会の盲信を揺らがせる「迷い」のトリガーであると解釈し、「迷いの空間体」として完成した空間であり、滞在する人にも「迷いながら思索する」ことが期待されている。

 

 

アーティスト:リアム・ギリック

アーキテクト:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO

構造:木造(CLT 工法)

規模:2階建

宿泊者数:最大4名

住所:〒700-0814 岡山市北区天神町9番2-1号

延床面積:104.99m²

 

 

A&A ジョナサンハセガワ/A&A Jonathan Hasegawa

ベルリンを拠点とするアーティスト、ジョナサン・モンクと建築家、長谷川豪の2人が手がけた宿泊施設「A&A ジョナサンハセガワ」は旭川越しに後楽園をのぞむ好立地にある。青木淳建築計画事務所によるギャラリーとカフェと棟を同じくし、Wのかたちの構造体を共有している。大げさなエントランスがない分、周囲の民家に馴染んでいる施設は以前に敷地内にあった民家を思わせる。3つの建物で1つの客室という構成で、大きな階段を中心に吹き抜けがあるエントランスが、1階の天井が低く落ち着いた雰囲気の寝室と2階にある後楽園を臨む浴室を繋いでいる。 「模倣」し、 再解釈することにより、新しい価値を生み出すという制作スタイルを持つモンクは、今回も「まち」を模倣して再解釈することで、新しい「岡山のまち」の魅力を見つけ出せる空間をつくることを目指した。長谷川も建築を通して新しい「まち」の発見を促し、相互作用による体験をつくり出している。

 

 

アーティスト:ジョナサン・モンク

アーキテクト:長谷川豪建築設計事務所

構造:鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造及び木造

規模:2階建

宿泊者数:最大6名

住所:〒700-0812 岡山市北区出石町1丁目 6番7-1号

延床面積:1階 141.05 m²(内 109.05 m²が宿泊エリア)2階 50.61 m²(内 26.11 m²が宿泊エリア)

 

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