レポート

『elements of architecture』(TASCHEN)刊行記念トークセッション

文・写真:柴田直美

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2018年10月31日(水)、『elements of architecture』(TASCHEN)の刊行を記念して、筆者である建築家のレム・コールハース氏、建築編集者・キュレーターの太田佳代子氏、建築家の小林恵吾氏によるトークセッションがTSUTAYA TOKYO ROPPONGI特設イベントスペースにて開催された。

2014年に第14回ヴエネチア・ビエンナーレ国際建築展の総合ディレクションを務めたレム・コールハース氏は、「ファンダメンタルズ(基本要素)Fundamentals」という総合テーマのもと、「Absorbing Modernity: 1914-2014」、「Monditalia」、「Elements of Architecture」 という3つの展示を構成した。
(レポート: https://kenchiku.co.jp/online/report/report_no001.html
今回の『elements of architecture』は、第14回ヴエネチア・ビエンナーレ国際建築展の会期中に出版された『Elements』(Marsilio、2014年)をさらに深めたものである。

トークセッションの冒頭に「私はライターとしての役割も重視しているので、本を出版することは重要である。」と話したコールハース氏は、建築家になる前にジャーナリストとして活動していたことでも知られる。また「本」という物質性そのものに興味を持っているのは、厚さ7cm、重量2.7kg、1,344ページという『S, M, L, XL』(The Monacelli Press、1995年、ブルース・マウ(グラフィックデザイナー)との共著)などを見れば明らかである。

『elements of architecture』は、『S, M, L, XL』のページ数の約2倍、なんと2,528 ページにもおよぶ本であり、特別な印刷製本技術と紙(50g Opakalという非常に薄い用紙)を使ったという。この装丁を手がけたイルマ・ブームは、近年、コールハース氏が日本のモダニズムについてまとめた『プロジェクト・ジャパン』(Taschen、2011年)のデザインも手がけており、コールハース氏とは20年近く折にふれ、コラボレーションをして来ている。

本著では、建築だけにある要素として(例えば、構造的役割をもつものは外して)選んだ15の要素を緻密に研究した結果がまとめられており、コールハース氏はその中から「階段」を挙げて、説明をした。

階段の専門家として取り上げたフリードリッヒ・ミールケ(Friedrich Mielke)は、戦争で義足になった人物であり、世界中の階段について研究している。

「例えば、階段の踏面のどこに足を置くかというリサーチは、まるでダンスのようで、建築家が階段を見る視点とは違って、本人の実経験による謙虚なリサーチである。これらのリサーチによって、背景や歴史を発見することができたことが嬉しい。」というコールハース氏の視点は、ビエンナーレで立てた「Less architects more architecture」というスローガンにもあらわれている。

大勢の建築を学ぶ学生が詰め掛け(建築家は?と会場に問いかけた後、建築学生も含めてと問い直した時にざっと半数以上の手が上がった。)、別の仕事をしていたキャリアは建築家としてどう影響しているかという質問に対して「建築家という職業になる前に別のことをするのはおススメ。建築のことだけをみていると視野が狭くなる。建築への外からの視点を持つことができる。」とアドバイスを送る真意も同じだろう。

プレゼンテーションの最後に、「デジタル化されている今の社会を、どうやって伝統と組み合わせるかを検討した」として、デジタルデータと建築について言及した。「歩いているのか、座っているのか、寝ているのかを感知するセンサーを持つ床を高齢者の家に導入すれば、もし倒れていたら、自動的に救急車が手配されるということも可能である。そうなると、床の意味や意義が変わり、家はデータを生み出すものになる。(搾取されることもある)建築の本質が今までは「囲うもの」だったとしたら、それは変わっていっている。」という言葉は、デジタル社会に慣れすぎた我々への警告であると受け取ったが、決してただ悲観的なだけではなく、「どんどん早くなっていくコンピュータの進化の恩恵を受けているし、より洗練されたかたちでそれを使うことができないかと考えている。」とさらに先を見ているようだ。

Countryside: Future of the World(グッゲンハイム美術館、2019年秋)という展示の企画を進めているコールハース氏は、過去には都市の密度が取り沙汰されたが、今は、すごい勢いで変化していて、都会の変化よりも早いと言えるカントリーサイドに注目している、という。

建築や都市の中にある未開拓のエリアに切り込んでいき、そこにあるモノや状況をつぶさに観察し、気がつかなかった視点で、わかりやすく提示してくれるその手法はジャーナリストそのものであり、本というメディアの特性を最大に生かしたかたちで共有できることを素直に嬉しいと思った。

  • 『elements of architecture』
  • コールハース氏
  • 15のカテゴリーで構成
  • イルマ・ブーム氏はグラフィックデザイナーであり、編集者である
  • 400冊の発注があれば生産可能
  • トークセッションの様子

 

『elements of architecture』(TASCHEN)刊行記念トークセッション

会 期:2018年10月31日(水)

会 場:TSUTAYA TOKYO ROPPONGI