12月22日(金)から、銀座メゾンエルメス フォーラムで、霧の彫刻で知られるアーティスト・中谷芙二子と、その父である科学者・宇吉郎の展覧会「グリーンランド」が始まった。
中谷芙二子は偉大な科学者であった父・宇吉郎の影響についてこう語る。「自然に対する、その謙虚さ、感謝を学びました」
「ここをグリーンランドにしましょう」と芙二子が言った銀座メゾンエルメス フォーラムはレンゾ・ピアノが設計したガラスブロックのファサードを持つ。そのガラスブロックを氷に見立て、宇吉郎が雪氷研究に赴いたグリーンランドの地とし、その中で芙二子が新作 《氷河の滝-グリーンランド》を発表している。
30分ごとにノズルから吹き出す霧は姿を変えながら、室内を満たし、ひやっとした冷気とともに人を包み込む。しばらくすると暖気に押されて、霧は下に降りてゆき、徐々に視界が晴れてくる。この間、ただ佇み、霧を見ていると、水、光、空気と触れ合うことに身体が喜んでいると感じた。毎回、新しい驚きをもって、霧に身体を委ねるのは、とても愉快である。
「氷のことは氷に聞かないと分からない」という言葉を残した宇吉郎が、実直に自然を観察し、そこにある現象を曇りのない眼差しで見つけていたように、芙二子もまた霧という自然現象に委ねながら芸術作品を作り続けてきた。また、芙二子が70~80年代に制作していた映像作品にも同様の眼差しを認めることができる。
近代的な建築の中においても霧は圧倒的に力強い。そしてあっという間に消えて、水になり、床を濡らす。人間がどうすることもできない、自然の原理がそこにあり、その様子をただ見つめるほかない。そのことについて悲観的に思えないのは、宇吉郎と芙二子が、親子二代にわたる自然への敬畏とともに、自然と戯れ、楽しむことも忘れていないからだろう。
アーティストプロフィール
中谷芙二子 Fujiko Nakaya
1933年、札幌生まれ。東京在住。米国ノースウェスタン大学卒業。1966年にニューヨークで結成され、芸術と科学の協働を理念とした実験グループ「E.A.T.」に参加、1970年の大阪万博ペプシ館にて人工霧による「霧の彫刻」を発表する。以降、世界各地で人工霧を用いた環境彫刻、公園、インスタレーション、パフォーマンスなどを手がける。他ジャンルのアーティストとの共同制作も多い。1970年代よりビデオ作品も制作し、1980年には原宿に「ビデオギャラリーSCAN」を設立。2017年フランス芸術文化勲章コマンドゥール受勲。代表作に《F.O.G.》(ビルバオ・グッゲンハイム美術館、1999年)、《雨月物語―懸崖の滝》(横浜トリエンナーレ、2008年)、《Veil》(フィリップ・ジョンソン「グラスハウス」、2014年)、《London Fog》(テート・モダン、2017年)など。
中谷宇吉郎 Ukichiro Nakaya (1900–62)
日本を代表する科学者の一人であり、雪氷学の基礎を築いた実験物理学者。1932年から雪の結晶の研究を開始し、1936年に世界で初めて人工的に雪の結晶をつくることに成功。1952年からは研究の場を米国へと移し、対象もグリーンランドの氷冠にまで広がった。主な著書に『雪』(岩波文庫、1938年)、『雪の研究―結晶の形態とその生成』(岩波書店、1949年)、『Snow Crystals: Natural and Artificial』(ハーバード大学出版局、1954年)、『北極の氷』(宝文館、1958年)など。1994年、生誕の地である石川県加賀市に「中谷宇吉郎 雪の科学館」が開館。
「グリーンランド」 中谷芙二子+宇吉郎展
開館日:2017年12月22日(金)~ 2018年3月4日(日)
月~土 11:00~20:00(最終入場は19:30まで)
日 11:00~19:00(最終入場は18:30まで)
休館日:不定休(年末年始はエルメス銀座店の営業時間に準ずる)
入場料:無料
会 場:銀座メゾンエルメス フォーラム(東京都中央区銀座5‐4‐1 8階 TEL: 03-3569-3300)
主 催:エルメス財団
協 力:プロセスアート、中谷宇吉郎記念財団、中谷宇吉郎 雪の科学館
展示協力:YKK AP株式会社
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