2017年7月22日から9月10日まで、「Reborn-Art Festival 2017(リボーンアート・フェスティバル2017)」が宮城県石巻市の市街地と牡鹿半島を中心に展開された。東日本大震災によって被害を受けた地域での芸術祭として注目され、会期中に延べ26万人が訪れた。
制作委員長の小林武史氏(音楽家/一般社団法人APバンク代表理事)のもと、中沢新一氏(思想家・人類学者/明治大学野生の科学研究所所長)、
和多利恵津子氏(ワタリウム美術館館長)、和多利浩一氏(ワタリウム美術館代表CEO)、岩井俊二氏(映画監督/株式会社ロックウェルアイズ代表)、江良慶介氏(一般社団法人APバンク)が委員として名を連ね、芸術と音楽と食の総合イベントとして構成された。
小林武史氏が櫻井和寿氏、坂本龍一氏と設立した、自然エネルギーをはじめとした環境プロジェクトに融資を行う非営利団体APバンクは、東日本大震災の災害復興支援のための募金活動としてap bank Fund for Japanを始め、その後、被災地での炊き出し、災害復興ボランティアの派遣など、さまざまな復興支援活動を継続して行ってきている。
APバンクが2005年から開催していた野外音楽フェスティバル「ap bank fes」もReborn-Art Festival 2017のイベントの一つとして7月28日(金)・29日(土)・30日(日)に宮城県柴田郡にある国営みちのく杜の湖畔公園北地区風の草原にて行われ、約3万5千人を動員した。
東京から石巻駅まで最短で2時間半程度。そこから半島の先端の鮎川まではバスで1時間ほど。地の利があると思えない開催地ではあるが、みっしりとした森の樹々が深く、海の水は透明。夏の日差しの中でも、爽やかな風が抜けて、気持ちがいいという東北の気候を全身で享受しながら、アートを見て回る。
エリアはAからDの4つに分けられている。
エリアA 石巻市街地中心エリア
<作品展示アーティスト>
ルドルフ・シュタイナー / ヨーゼフ・ボイス / 名和晃平 / コンタクトゴンゾ / ナムジュン・パイク / 皆川 明(minä perhonen) / 目 / 八木隆行 / Zakkubalan / 有馬かおる・犬山キワマリ荘・水戸キワマリ荘・XYZ Collective・パープルーム / ハスラー・アキラ / カオス*ラウンジ / 齋藤陽道 / キュンチョメ / クー・ジュンガ / 宮永愛子 / バリー・マッギー / カールステン・ニコライ / 鈴木康広 / 野外劇場
エリアB 石巻市周辺エリア
<作品展示アーティスト>
小林武史 × WOW × DAISY BALLOON / JR(ジェイ・アール) / 増田セバスチャン / カールステン・ニコライ / 金氏徹平 / SIDE CORE(サイドコア)
まず市街地のインフォメーションセンターである石巻駅前から徒歩10分程度の旧観慶丸商店(石巻市指定文化財)に行けば、全体のインフォメーションが得られた。市街地を歩くと、津波が来たラインが生々しく残っている。ここに来たアーティストたちの心に何を残して、どのような作品となったのだろうか。住んでいる人々の暮らしとこの芸術祭はどう関係しているのだろう、など考えながら街中の作品を巡った。
「牡鹿半島を目指す途中で石巻工房に立ち寄った。休日にもかかわらず、出勤していた千葉隆博工場長の貴重な昼休みにご案内いただいた。石巻工房は、約250店舗あるリボーンアート・フェスティバルのパートナーショップのひとつだが、皆、先を急ぐのか、リボーンアート・フェスティバルに来た人の立ち寄りは初めてとのこと。パートナーショップではスタンプラリーができ、スタンプ3つでハズレなしの抽選器を回すことができる(なんと一等を当てました)。
エリアCに行く手前にある蛤浜にあるcafeはまぐり堂にて昼食。すぐ横には、震災後に建築家たちが立ち上げたアーキエイドの活動の一部として、明治大学門脇耕三研究室の学生たちがリノベーションを手伝った古民家もある。当初は宿泊施設であったが、現在は眼下に海を見下ろせるギャラリー。近いうちに宿泊施設として再開させたいということ。今はSUP(Stand Up Paddleboard)とバーベキューなどを組み合わせたレジャーも提供している。
牡鹿半島に入って一番最初に作品があるのが、旧桃浦小学校エリア。公式ウェブサイトにトレッキングのような服装が推奨されていた理由がすぐにわかる。かなりの斜面を降りていくが、この日の午前まで数日間、雨が降り続いていたせいで、足場はぬかるみだらけ。ともかく滑り落ちないように下り続けると浪田浜に出て、青木陵子+伊藤存の作品「浜と手と脳」が広がる。まるでちょっと前までそこで暮らしていた人がいたかのような痕跡と入江の静けさから、自然と一体になって暮らしてきた身体感覚が呼び起こされるようだった。その手前の桃浦小学校跡地にはブルース・ナウマン、鈴木康広、コンタクトゴンゾの作品がある。少し半島を下った洞仙寺の界隈、桃浦エリアには、休校中の萩浜小学校を使った展示や、もものうらビレッジという9月1日にオープンした宿泊・研修施設もある。桃浦は、アーキエイドの活動の一環で筑波大学貝島桃代研究室が漁業を生業としてきた浜の暮らしの再生をサポートしてきた。桃浦浜づくり実行委員会(桃浦住民有志と筑波大学との協働)とap bankが浜と里山の知恵を学ぶ場として作ったもものうらビレッジは、リボーンアート・フェスティバル閉幕後も通年利用可能。
エリアCのちょうど真ん中あたりの荻浜にはインフォメーションセンターや「はまさいさい」(食堂)があり、牡鹿ビレッジとして、こちらも10年かけて地域と一緒に育っていくという目標を掲げるリボーンアート・フェスティバルの、「人と人との出会いを生み出す場」として拠点として閉幕後も営業中。牡鹿ビレッジから灯台に向かって歩くと、鈴木康広の「ファスナーの船(足漕ぎボート)」やブルース・ナウマンの「初心者のために(教えられるピアノ)」があり、入江には名和晃平、さわひらき、宮永愛子の作品やReborn-Art DININGがある。
エリアC 牡鹿半島中部エリア
<作品展示アーティスト>
ギャレス・ムーア / ブルース・ナウマン / 鈴木康広 / コンタクトゴンゾ / 青木陵子+伊藤存 / Chim↑Pom(チン↑ポム)/ ファブリス・イベール / 金氏徹平 / パルコキノシタ / デイヴィッド・ハモンズ / 名和晃平 / さわひらき / 宮永愛子
牡鹿半島先端に位置する鮎川地区は、南三陸金華山国定公園の一部であり、3回お参りすると一生お金に困らないといわれている金華山への旅行客や、かつて捕鯨産業で栄え、賑わっていた。
対岸に金華山を望むホテルニューさか井には、石巻在住の作家である増田拓史の作品「みれなかったものがみえた時,2017」と「部屋の中に置かれた海,2017」がある。窓や屋上から望む内海「金華山瀬戸」は、東日本大震災の引き波によって海面が露出し、鹿が歩いて渡っていたと言われる。津波のスケールの大きさを物語る。
ホテルニューさか井からほど近いのり浜は、公式な海水浴場ではないので、監視やブイなども見当たらず、手付かずの浜辺が広がる中、島袋道浩の「起こす」が展示されている。海を感じることと作品を鑑賞することの区別が曖昧になり、感覚が解放されていく心地良さと自然に飲み込まれる恐ろしさを同時に感じた。
牡鹿半島を巡り、復興は道半ばといった印象を持った、6年目になる今も仮設住宅で移転先の整備を待っている住民もいる。こんなにたくさんのショベルカーとコンクリートを一度に見るのは初めてかもしれないと思うほど、防潮堤は着々と建設されている。本当にここで暮らす人々が望むことなのだろうか。
力強い緑と碧い海に圧倒され、とても夏休みらしい週末であった。リボーンアート・フェスティバルの計画は、2014年から準備されて、3年越しで実現したと聞いた。被災地でアート・フェスティバルを開催することには賛否両論あったことは想像に難くないが、東日本大震災という大きな自然災害ではあったが、復興過程を共有し、東北の自然や暮らしに目を向けるきっかけになれば良いなと思った。
エリアD 牡鹿半島先端・鮎川エリア
<作品展示アーティスト>
岩井優 / 島袋道浩 / バリー・マッギー / 宮島達男 / 増田セバスチャン / ファブリス・イベール / 増田拓史 / Yotta(ヨタ)/ 草間彌生 / ギャレス・ムーア
「リボーンアート・フェスティバル 東京展 そこで何が起きていたのか?」
会 期:2017年10月20日(金) ~ 12月30日(土)
休館日:月曜日(12/4は開館)
開館時間:11時より19時まで(毎週水曜日は21時まで延長)
入館料:大人 1,000円 / 学生[25歳以下] 800円 ペア割引:大人2人 1,600円 / 学生2人 1,200円 / 小・中学生 500円 / 70歳以上の方 700円
※リボーンアート・パスポートのご提示で300円引。※各割引の併用はできません。
主 催:ワタリウム美術館 / Reborn-Art Festival実行委員会 / 一般社団法人APバンク
会 場:ワタリウム美術館 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-7-6 Tel:03-3402-3001
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