■街のシンボルとして再び
1991年に完成した当初は、本磨きの黒御影石がステンレスサッシと面一に納められ、キラキラと高級感のある様相であったのだろう。もちろん今でもその一面はあるものの、バブル経済の象徴に思えた。一方で立派な石貼り。竣工から街を見てきたオーナーは、角地のメリットを生かしながら街のシンボルになるように、個性がありかつ上品な高級感を失わないデザインを希望された。
駅前に近い所から大規模のビルに建て替わり、大門方面に向かうほど街の様相は古くなる。敷地のサイズもコンパクトなものが多く、街の更新はまばらである。本建物も築33年となりシールの打替えなど外壁修繕の時期で、オーナーは「街が変わるにはまだ10年近くかかるのでは」との現状と、街を変えたいとの思いが動機となり、この機会に表層のリニューアルを考え始めた。
羽田空港から都心部への窓口となっている浜松町駅の周辺は、インバウンドにより海外からの人々が多く行き交っている。彼らの街歩きのアイストップになるように立体感のあるものに変容させられないかと考えた。とはいえ角面にはテナントの広告看板が下からズラリと並び、1階廻りは乱雑感がある。そのあたりを引きずらないデザインで覆うことを条件とした。
■過去から現代へ
浜松町は港区の資料によると、江戸時代に遠州浜松出身の人物が名主となり『浜松町』となったとある。江戸末期の古地図に見られるように、そのころは大名屋敷が建ち並び存在感があったのだろう。一方時代は変わり現在は大門通りの先に東京タワーがビル群の屋上を突き抜いて頭を出している。時代が変わっても堂々としたシンボルとなる建物が街の歴史を継いでいるのではないか。そんな歴史ある街並みの一部にそっと黒御影石の建物が建っていた。ビルオーナーからは街のシンボルになるように外観を改修してほしいとの要望である。それらの特徴を図形化しオマージュすることで外観が決まった。さらに夜間も賑やかな街で、デザインの要となる斜めのラインを強調する照明により、周辺のビルの煌々と光る看板にも負けない存在感と個性を単純明快に示している。
■建築概要
所在地:東京都港区浜松町1丁目27-9
建築主:トラストリアルエステート株式会社
用途:テナントビル
設計担当:湯村泰成/株式会社湯村泰成建築設計事務所
施工(下記以外):株式会社慶西
*以下分離発注
足場工事:株式会社新陽
サイン工事:日本サイン株式会社
構造・規模:RC造 地上9階+PH
敷地面積:98㎡
延床面積:756㎡
竣工:2024年10月
写真撮影:沖裕之/株式会社Blue Hours

湯村泰成(Yumura Taisei)
■経歴
- 1995
- 横浜国立大学工学部卒業
- 1997
- 横浜国立大学大学院修士課程修了
就職後、各設計事務所にて活動 - 2006
- 一級建築士事務所開設
- 2015
- 東京都千代田区にてオフィス開設
- 2022
- 法人化により株式会社設立
■受賞歴
- 2016
- 『団地の未来』集会所コンペ案/入賞
- 2017
- 岡山結婚式場デザインコンペ案/2等
株式会社湯村泰成建築設計事務所
(Yumura Taisei architects office)
一級建築士
管理建築士
東京建築士会正会員
〒101-0061
東京都千代田区神田三崎町2-20-1石川ビル
Website:https://taisei-yumura.jp/
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MAIL:info@taisei-yumura.jp











