大分県国東半島で伝統的に栽培され、畳表に使われていた七島藺を乾燥させるために昔使われていた杵築の砂浜沿いの今は一面笹林となった狭い土地を、クライアントは偶然手に入れた。
七島藺(しちとうい)は断面が三角形をしていることから「三角イ」とも呼ばれていた。そんな事もインスピレーションとなり、今回、屋根に2枚重ねの構造用合板の間に2X4材を三角形にトラス状に並べ、ストレストスキンパネルを作った。従来の長方形断面のストレストスキンパネルと違い、三角トラスになっていることで、XY両軸方向の曲げに効くパネルを作ることができた。それにより、9m角のプランの側面の平行な木造耐力壁と同方向とストレストスキンパネルを置き、海側を全面開口、道路側はストレストスキンパネルを200mm幅でスライス(実際は200mmの幅で製作)した三角格子スクリーンを半透明な耐力壁として建てた。平面計画としては、9m角の正方形プランを、黄金比で分けた3、4m角の半地下の予備室と、その上に中二階の寝室で区切り、玄関を構成するトイレとテラスに突き出す方形のバスルームを配置した。キッチンは、折り畳み式ダイニングテーブルが納まった扉状の収納棚の開閉により、L字形キッチンスペースを使用時には作ることができる。
海側の開口は、4枚の引戸を壁の外まで引くことにより、海の景色を切り取るピクチャーウインドーとなる。壁外の引戸の戸袋はスチールフレームでつくり、耐力壁とした。
これらの構造的な工夫は全て、ほとんど人も車も通らない砂漠を平行な小道から海まで、視覚的に抜けた空間を作り、必要最小限の仕切りのコントロールで、いつも笹が風に戦ぐ音や、波の音の中に身を置く生活をつくり出したいと考えたからである。
家の中心には特別に作ってもらった七島藺の敷物を敷いた。命のない七島藺にも、何故か故郷に戻ったかのような、そんな生気を足裏で感じた。
■建築概要
所在地:大分県杵築市
主要用途:別荘
設計−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
株式会社:坂茂建築設計
担当:坂 茂、菅井啓太、阿部節佳、佐々木真海
構造:滋賀県立大学教授 陶器浩一、
高橋俊也構造建築研究所 担当/高橋俊也
施工−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
会社名:有限会社 ベネッツ 伊東政博
構造・構法−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
主体構造・構法 木造
基礎:ベタ基礎
規模−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
階数:地上2階
軒高:3,670mm 最高の高さ 4,020mm
敷地面積:628.38㎡
建築面積:94.08㎡(建蔽率14.97% 許容15%)
延床面積:103.05㎡(容積率16.44% 許容30%)
1階:88.19㎡
2階:14.86㎡
撮影:平井広行

■経歴
坂 茂(Shigeru Ban)
- 1957
- 東京都生まれ
- 1984
- 米クーパー・ユニオン建築学部卒業
- 1985
- 坂茂建築設計設立、その後ニューヨークとパリに事務所を構える
- 1985-
- 再生紙を建築資材に使うなど さまざまな独自の構造・工法を開発し、作品づくりと並行して世界各地で災害支援活動に取り組む
- 1995
- NGO「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)」設立
- 現在
- 芝浦工業大学特別招聘教授
- 2025-
- 日本芸術院会員
■経歴
- 2014
- フランス芸術文化勲章コマンドゥール
- 2014
- プリツカー建築賞
- 2017
- マザー・テレサ社会正義賞
- 2022
- アストゥリアス皇太子賞平和部門
- 2024
- 高松宮殿下記念世界文化賞建築部門
■代表作
- 2010
- 仏ポンピドー・センター メス
- 2013
- NZ紙のカテドラル
- 2017
- 仏ラ・セーヌ・ミュジカル
- 2017
- 静岡県富士山世界遺産センター
- 2019
- 台南市美術館
- 2023
- 下瀬美術館
- 2024
- 豊田市博物館