トレーラーハウスのように牽引して移動できる、モバイルサウナをつくりました。雪の降る温泉街や、新緑の森の中、夕暮れの海辺、紅葉の湖畔など、土地に縛られずその季節ごとにサウナが似合う場所に移動させることができます。
サウナは単に身体を温めるというだけではなく、ゆっくりと自分の内面と向かい合うことができる瞑想空間でもあります。携帯をいじるわけではなく、景色を眺めるでもなく、ただ座ってゆっくりと時間を過ごすということが、現代を生きる人々にとっては実はとても特別で幸福な時間なのだということを、設計前のサウナ視察にて野尻湖にあるThe Saunaで本格的なフィンランド式のサウナに入ったときに感じました。そのときふいにおりてきた、「小宇宙のようなサウナ」というイメージをもとに、木組みで神秘的な光の立ち込めるサウナ空間をつくりました。
四角形とアーチ型を合わせた木組みを少しずつずらしながら重ね合わせて作り上げた、外は矩形、中はドーム状のサウナです。景色を見るような窓はつくらず、ハイサイドライトから木組みを通して少しだけ光を入れることによって、時間変化等による光のうつろいを感じられる、置かれた場所の雪や緑や水などの自然を光の色や表情として感じられる、茶室のような小宇宙空間を目指しました。
人が素肌に近い状態で入るサウナ空間においてケミカルなものは使いたくないということや、サウナの熱などへの耐久性、断熱性とコストバランスなどを考えて、ほぼすべての材料をレッドシダーの2×4材のみでつくりあげることにしました。ビス等の金物はサウナでは熱くなるので内部では使わず、外周部のみで結合する構成としています。
車で牽引する際には震度4〜6相当の揺れに何時間もさらされます。短手方向の揺れに対しては四角形を斜め材で固めたフレームが効き、長手方向の揺れに対してはフレームが倒れようとする力に対抗するために柱間に材料を追加してマッシブホルツを構成しました。さらに外側にも外壁、天井、床材をフレームと直行方向に貼り付けることにより、より強度を高めています。
自然の中に溶け込みながらも人工物としての魅力もあって、どんな風景にも似合うような素朴でチャーミングな外観にしたいと思いました。屋根はなるべく存在を消すように薄く見せ、外壁は構造と同じレッドシダーの2×4材で、ランダムにななめの彫りを入れることで豊かな木の表情をつけています。これからこのサウナとオーナー家族がどんな風景を旅をしていくのか、とても楽しみです。
■建築概要
延床面積:6.62㎡
用途:サウナ
施主:高野隼人
設計・監理:MIGRANT
施工:施主+MIGRANT+有志によるセルフビルド
竣工:2020年12月
PHOTO: INUTOMO HONDA
■経歴
島田 真弓
- 1982
- 東京都生まれ
- 2006
- 早稲田大学 理工学部建築学科 卒業
- 2008
- 早稲田大学大学院 建築学専攻修士課程
修了 - 2008-2009
- 日建設計
- 2011-2018
- 手塚建築研究所
- 2018-
- MIGRANT 共同主宰
■経歴
寺田 和彦
- 1984
- 奈良県生まれ
- 2007
- 京都大学 工学部建築学科 卒業
- 2009
- 京都大学大学院 建築学専攻修士課程 修了
- 2009-2018
- 手塚建築研究所
- 2018-
- MIGRANT 共同主宰
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