再開発が進む渋谷に建設された既存建物は、ルーバーの設置など幾度も改修が繰り返されていた。現行の耐震基準を満たしておらず、湿式石貼りの剥落の危険、違反増築などが見受けられ、継続使用するのは難しい状況だったが、店舗の居ながら耐震改修、事務所への用途変更を行い、遵法性と建物性能を担保しようと試みた。
新設の開口を設ける際に躯体を斫(はつ)って開ける「はつりのディテール」をファサードデザインに反映させるため、外壁躯体ラインの内側にサッシュを取り付ける「インセットサッシュ」のディテールを考案した。あらわになった躯体には素材モルタルをあえて仕上げとして使用し、躯体や残ったモルタルの表情を拾い、もともとあったような不思議な外観を実現した。
凹凸の残る既存躯体や、耐震補強による新規躯体を等価に扱う手斫り、施工によって生まれる偶発的な要素を意匠として残し、渋谷とともに歩んできた履歴をそのまま外壁に発露させた再生建築である。
■建築概要
所在地:東京都渋谷区神南1丁目6-9
用途:オフィスビル
ビル所有者:東急株式会社
工事完成年月:2020年1月
設計:神本豊秋+株式会社 再生建築研究所
担当:神本豊秋 飯島康太郎 長田壮介
構造設計:イシクラカズヒロ構造アトリエ
設備設計:高砂熱学工業株式会社
照明計画:大光電機株式会社
施工:株式会社エフビーエス・ミヤマ
撮影:長谷川健太
構造・工法:RC造
建築面積:319.74m²
延床面積:1648.41m²
施工期間:2019.04-2020.01
■経歴
神本豊秋
- 1981
- 大分県生まれ
- 大学卒業後、青木茂建築工房に8年間勤務
- 2012
- 神本豊秋建築設計事務所設立
- 2012-
- 東京大学生産技術研究所(川添研究室)
特任研究員着任 - 2015
- 株式会社再生建築研究所設立
- 2018-
- ミナガワビレッジの運営開始
■主な受賞歴
- 2019
- 〈ミナガワビレッジ〉で
東京建築士会 住宅建築賞 - 2020
- 日本建築学会作品選集 新人賞