- 再生時間:16分46秒 -
(インタビュー:寺松 康裕氏)
寺松
茅野の市民館ですけれども、この建築はご自身ではどのような位置付けをされている建築なのでしょうか?
古谷
僕はですね、同じ種類の建築を何回も何回も造るということが、なぜか無くてですね、毎回毎回新しいタイプのものというか、新しい建物、種別というか、そういうものに巡りあうことが多いんですね。そういう意味では僕は、ホールとしては初めて設計したもので、しかもそれがプロポーザルでしたけれども、審査の課程から質疑応答、それから投票とかそういうことにまで、全てが住民に公開されて行われたプロポーザルで当選したんですね。そういういう意味では、非常にそれまでの活動してきたことのある意味で集大成というか、それからまた次への大きなるステップになったんじゃないかなという風に思います。
寺松
市民館が市民ホールという位置付けだけではなく、美術館があり、図書館があり、レストランがある、という、そういう非常に文化複合施設的なもので、かつ、ホール自体もマルチホールという形式をとられていますけれども、これは何か新しいタイプを提示されようという意識があったのでしょうか?
古谷
ええ。市民館の多くが例えばですね、町の中心から離れた公園の中に、まぁ確かに環境はいいですけども、そういう中に位置付けられていたり、あるいは市役所のような行政の中心地と抱き合わせになったり、いろんなケースがあると思うんですけれども、この敷地は非常に特徴的な敷地で、茅野駅に隣接しているというか、プラットホームのまん前にあるんですね。そういう意味からは今までのいわゆる市民会館というものとは違うプログラム、これが可能だという風に思いました。というのは、市民会館の中にホールがあり、美術館があったとしてもですね、こういった文化活動っていうのは、極々一般的な市民から見ると、多少敷居が高いというか、そんなに日常的なものではありませんね。例えば音楽会を見に行く、美術展を見に行くという。それに対して駅、それから駅の反対側には商業施設もあるんですけれども、こういった日常の生活に直接関わりのある、そういう機能とこれが隣りあってるわけですから、いわゆる、あえて市民館に行こうと思って行く人だけではなくて、日常的にその辺りに来られる方にとっても広場になるような、そういう市民館というものを構想したいという風に思ったんです。幸いこのプログラムの中には、2つのホール、それから美術館、他に図書館の駅前の分館を造るプログラムが入っているんです。本館そのものはそれこそ少し離れた環境のいいところにあるんですけれども、そうなると車の運転ができる大人はあんまり不便を感じないかもしれませんが、中高生とか、あるいはお年寄りとか、そういう方にとってみると、図書館ですら行くにはちょっと距離があるっていうか、なかなか思い切らないと行くとこまで行かない、という位置にあったんですけど、それが駅前出張所というか、そういうものが含まれていたので。
寺松
図書館をあそこに入れるというのは、最初からあったプログラムなのですか?
古谷
はい。コンプレックスの中に含まれていることは最初からあったんです。ただ、置き場所が問題で、それで僕が考えたのは、あのコンペの要項では駅の方から近づいてって、敷地が長細いんですけど、まず駅側の半分は公園に整備する、それがまず駅前広場とリンクする形でアウトドアの空間ができて、市民館そのものはその公園を通り抜けた先に立地する、配置するというのが、普通の考え方っていう風にされていました。ただし公園の面積を維持できていれば、この境界の形は多少アレンジしてもいいという、そういう但し書きがついていたので、僕はそれを拡大解釈してですね、ちょっとどころじゃなくて、この部分から大分ビューっとクチバシを延ばしてって、直結させて、その直結させたクチバシのところに図書館をもっていく、というのが僕の考え方の一つ大きな特徴で、後から聞いたらそれがやっぱり一つの決め手になって選ばれたと聞きました。
結果としては、その図書館という文化的な内容ものではあるけれども、その中では比較的日常に近いもの、音楽会や演劇に比べて。そういったものが、駅と、いわゆる音楽ホール、美術館といったものをちょうど繋ぐ役割を果たすことになったんです。
寺松
今回の受賞理由で、ワークショップというプロセスを重ねながら、実際にプロジェクトを進められたことが評価されたように思うのですが、そのワークショップというやり方、--古谷さんはわりと昔からやられていると思うのですが、--一般的なワークショップのあり方と、今回茅野の場合のワークショップの展開とで違いがありますか。そのワークショップのあり方についてお話をいただけないでしょうか?
古谷
はい。今回の場合には、特に当時の茅野市長がですね、この計画を推進するにあたっては、「開館後、その館を使っていく市民達が中心になってその内容を決めてもらいたい。で、そのみんなが決めたことをその通り予算の範囲内でですけど、その通り造るから、その代わり責任を持って賑やかに使いなさい。」というのが市長さんの考え方で、当初から市民との共同作業をするということがうたわれていまして、現にプロポーザルになる以前から構想をまとめてらして、これは「地域文化を創る会」で、その人達が中心になって、どういう劇場、どういう美術館、どういう図書館がありたいか、ということをもんでおられて、そこにだから僕は設計者として加わったという形なんですね、後から。同時にホールのコンサルティングをしてもらうためにイトウマサジさんも僕が頼んでコンペを一緒に応募したわけですが、イトウさんを伴って、みんなの会に僕達が後から入ったという感じです。そこからですね、こないだ僕知ったんだけど、市の人が数えてくれて、竣工してから後のことも含めて、記録に残ってるだけで会合が143回あったそうなんですよ。約5年間で。そのうち100回近くは最初の1年間にあると思うんですね。過半の部分は最初の1年間、あとは継続的にあったんです。これはもはやワークショップというよりはですね、市民館という新しいものをつくる設計、広い意味でのデザインの仕事を一緒にやっているという感じですね。ですから通常でいう、住民が、あるタイミングで建設中の内容、施設の内容を理解を深めるというようなワークショップとはちょっとけた違いなものだったと思います。
寺松
古谷さんの活動をいろいろ拝見していますと、建築のソフトの部分をどう組み立てるか、ということも注目が非常に高いですけれども、一方でやっぱりそうはいっても今回の学会賞に選ばれた理由の中にあるような、デザインの優秀性というか、先見性というか、他にないものを提示したと、これまでにないものを提示した、そういう評価を今回されたと思います。そこで、あえてそのソフトの部分ではなくて、デザインというところに話を少し絞っていただいて、ご自身ではどういうデザイン展開などを留意されているでしょうか?
古谷
今回のものは、立地も特殊だったし、それから複合文化施設であるということで機能も一色ではない多様なものが混在しているということで、ここではやっぱりさっきの日常・非日常、それからいろいろな分野のアート、それから日常の普通の生活と芸術鑑賞みたいな、いろいろ対極的にあるものがここに混ざるんで、そのいろんなものが混ざり合って、つまり一つのものを見方を変えるといろんな風に見えるということをデザインの一つのコンセプトにしたかったんです。それでですね、建築が出来上がったら、これはどっちが正面でどっちが顔だみたいな。よくいるんですけども、これは実は顔がいくつもあって、見る方角によって全然違うように見える、それは結構意識的に。ホームの方から見た時、それから駅降りてからアプローチしようとする時、それから車に乗ってきて駐車場に車を止めた時、それから舞台の後ろから搬入というか、自分が出演しようと思ってバックヤードから来る時、四者四用の四面がそれぞれの違う顔を持つということがまずやりたかった。そこにさっきの内容としてのハイブリッド性と、それから実際建築の表現としてのハイブリット性というか、そういうものがうまく連動するといいなという風に思っています。
寺松
今おっしゃった、表現としてのハイブリット性というのをもう少し・・。
古谷
例えばホームの側から見るとですね、そこにはランダムなスクリーンがありまして、ガラスも外側によってるのと内側によってるのと、デコボコデコボコしながら、しかもピッチも割合ランダムなピッチで出来上がってるんです。これは一つには、まずガラスであるということは、この前を走っていく特急あずさの乗客、それからプラットホームで乗り降りする日常的な中学・高校生とか通勤客、こういった人たちにとって、これが茅野の市民文化のショーケースになってもらいたいと、開放感があって。しかしその開放感も今のこのヒダヒダのガラスでですね、実はちょっと細かい話になりますけど、飛び出してる方を少し反射率を高くして、引っ込んでる方は、透過度が高くなってるんで、ホームから見るとちょっと一瞬錯覚するんですね。自分の後ろの山が映ってるのと同時に向こうの山が透けてるような状態、あるいは館内が、プラットホーム上にいる自分の姿が映ってるようにも見えるし、館内の人々が見えているようにも見えるという、まさに見てる側と見られてる側がこの一枚のスクリーンの中で混在するようなことをやりました。これはまず一つの混ぜ合わせなんですね。今度はそれをこちら側にランダムに、これは実は列車がだんだん速度を落としてきて到着して、そしてまたスピードを上げて出て行くから、それに走っていく動いていく視線から、音楽的なリズムを感じてもらえないかなぁと思って、ランダムにつくってあるんです。そうすると少し音楽が感じられる。で、今度はそういう面から周って反対側の東側の面になると、これは全く同じピースの細長いPCコンクリートがスリットをあけて、ずーっと同じ部材がウェーブしたり、屈曲しながら、ずっと東側から北側にかけて繋がっています。これは今度はこちら側のランダム性とか、透過と反射の織り交ざったのに比べると、はっきりした一つの面になって、これを同じ建物の向こう側とこっち側の立面図かって思うほど違うんですよ。で、違うこちら側に何か統一感のある表情でできてるんですが、それでもよく見ると、そこにスリットがあって、これは長さが30センチくらいで高さが13メートルという1枚ガラスが間にずっと差し込まれてるんですけど、ああいう風に閉鎖的に見えるあの壁ですら、夜になると光がもれてきますし、中に立つとその隙間から外の景色がずーっと見えてくる。今度はそっちのホワイエの方へ歩いていくと、その隙間から向こうの景色が逆についてくるような感じになっている。やっぱり少し動きのある、閉鎖してるかなぁと思うと完全に不透明に閉ざしてるわけではない。ここでもそういう混ぜ合わせ・・。
寺松
今の時代を反映したデザインをその中で表現されているということですか?
古谷
そうですね。まさに何かある一つの秩序で全部ができてるわけではなくて、いろいろなものが混ざり合ってる感じが、それを現代というならば確かにそうだと思います。
寺松
最後になりますけど、今後のご自身の設計の課題といいますか、テーマというものはどんなところにおかれていますか?
古谷
今まで、さっきも言いましたが、少しいろんなタイプの美術館をつくったり住宅つくったり、病院つくったり、役場つくったり、そして今回市民会館つくったり、また小学校を設計してますけど、いろんなビルディングタイプのものに挑戦する機会に恵まれてきまして、こういうタイプだから一つのものに対するノウハウをずっと蓄積していって、そういう種類の建築に対してエキスパートになるってことはちょっとのぞめないですね。毎回チャレンジみたいな感じになって。だから事務所のパートナーはいつも四苦八苦しておりますけど。つまり、ずっと自分のところで蓄積したものを放出するタイプの仕事じゃなくて、また一からそれにチャレンジして勉強してやっていきたいですね。多分でもそういうことっていうのは、そう誰もかれもができるものでもないと思うので、ここまでやってこれたっていうのは、自分に託された何か指名かなっていう風に思っていて、大学と両方やっているということも含めて、さっきのワークショップということも含めて、新しいものを提案する時、どうしてもそれを提案して納得していただくために、それの理解を生むプロセス、といったものも重要になってきますから、それも含めて今の自分の置かれている立場を生かそうとすると、やっぱり新しいものをつくることなんですね、僕がつくっていきたいのは。その新しさっていうのが、単にファッショナブルに新しいという意味で言ってるのではなくて、こういう建築がありうるのか、生まれうるのか、それが次の人たちにとって一石を投ずるような、そういうある種のインパクトを与えられるようなものをつくっていきたい。
本当はですね、僕はほっとくと結構デザインが好きで、形を綺麗にしていくことは割合自分では多分好きなんですけども、それだけでやっていくと気持ちよくていいんだけど、やっぱり自分にムチを打ってですね、なんかそのある種の新しいものに挑戦として、それがその建築の社会だけじゃなくて、我々の社会や都市に対して何か一石を投じて、それがまたヒントになって別の人がもっとそれをよくしていくことで、なんか変わっていくっていう、そういう石を投げる・・・。
寺松
あえて表現を先鋭化に走るところには自らブレーキをかけていらっしゃるって感じですか?
古谷
まだしばらくはブレーキをかけといた方がいんじゃないかなと思ってるんですが。
寺松
どうもありがとうございました。
古谷
ありがとうございました。
(2007年6月6日 於:NASCA)
2007年 日本建築学会賞(作品)受賞者記念講演会「作品を語る」は、 下記の日程で開催されます。
2007年7月 5日(木)東京(建築会館ホール)
2007年7月10日(火)札幌(北海道大学学術交流会館講堂)
詳細 http://kenchiku.co.jp/event/news070523.shtml
日本建築学会HP http://www.aij.or.jp/aijhomej.htm
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