- 再生時間:14分44秒 -
(インタビュー:寺松 康裕氏)
寺松
グッドデザイン賞の審査委員長に就任されたということで、今回はグッドデザイン賞ということに焦点をあてた、お話を伺えればと思います。
内藤
Gマーク制度が民営化して10年目を迎えます。それから本拠地もミッドタウンに移して新しくなるということで、新しいスタートをきる年だというふうに捉えています。
私が何をやろうとしているかというと、1つはデザインの議論を活性化させたい。デザインというと、もうみんな「デザインだよね」とかって言って、わかったような感じになっていますが、「じゃあ、デザインて何?」って言われた時にデザイナーなり、行政の人も含めてですね、はっきり答えられる人はいないと思うんです。だから、やはりデザインというのは何かというのを常に問い続ける集団、要するに審査委員団であって欲しいという風に思います。技術的な革新というのは常にデザインの革新に揺さぶりをかけてきたんだと思うんです。新しい技術が開発されるとデザインとは何かと、その境界線に割って入るわけなので、いつもデザインというのは技術的な進化とともに揺さぶりをかけられるわけです。建築でもそうですよ。なんか建築でも新しい技術が出てくると、「えっ、これが建築なの?」って。そうはいっても「それじゃあ建築っていう意味は何なの?」っていつもこう問われるわけです。コンピューター技術もそうだし、情報通信やインターネットの技術もそうだし、そういう日常生活に様々な技術が差し込まれることによって、その本質がいつも問われているわけで、そこのところをちゃんと見据えて議論していくような運営の仕方が求められているのではないかということです。ですから、簡単な言葉でいえば、「デザインとは何か」、ということを「ちゃんとみんなで議論しましょう」と。結論は出ないかもしれないけど、この時代の我々第一線のデザイナーたちが、議論した内容はこういうことだということを定着させていきたいと思っています。
寺松
日本の産業のあり方が、いろいろ変わってきているなというようなことを、内藤さんご自身、何か感じていらっしゃるというのはあるのでしょうか。
内藤
今何が起きているのかということをやっぱり見つめなきゃいけないわけで、もの造りの仕組みの部分とデザインは決して無関係ではないと僕は思っています。問題はデザイナーの側の意識で、デザインはプロダクトの側の最後のお化粧だと、考えている分にはデザインに明日はないと僕は思っています。やっぱり最先端のデザインというのは常に生産システムに根ざしたもうちょっと深いところまでもぐって上がってきたものでないと、本当の意味でのプロダクトにはならないのではないかという思いがあります。それはこれからやっていくんじゃないかという気がします。で、それにつけてもちょっと気になるのは、大きい組織の中で、その大きい組織自体が、デザインをどう捉えているかということだと思うんです。デザインというのは、最後のお化粧をすればいいんだという風に考える企業と、デザインは、企業そのものがよって立つコアのコンテンツだと考えるかによって、全く違う組織と立場があるんだろうと思うんです。例えば、企業内のデザイナーがほとんど力を持たない企業があるわけです。末端の末端みたいに位置付けられているところもあるし、企業の戦略の中枢にデザイナーがいる場合もある。様々ですよ。Gマークはいずれにしてもデザインの賞なので、あらゆるデザイナーを励ます賞であって欲しいと思うのです。企業内デザイナーもそれから小さなプロダクトのデザインをやっている外部のデザイナーも。Gマークは、デザイナーがもっと世の中で大事な役割なのだということを訴え続けていく賞であり、集団であると思うので、選定作業を通してそういう人たちを励ますような気持ちも必要なのかなって気がしています。
寺松
このサイトを見てくれる人達はやはり建築関係が多いと思います。内藤さんは昨年まで環境ユニットの審査にかかわってこられましたが、社会基盤あるいは社会インフラとしてのデザインという、そういう範ちゅうに関して何かコメントをいただけないでしょうか。
内藤
環境部門に関していいますと、ランドスケープあるいは外部空間を積極的に評価していこうと、それもこれからの産業コンテンツの一つだからということで立ち上げたわけです。今年度からは、空間構成にまつわるようなものを全部評価していくような部門になると思います。そうするとソフトウェア的なものも場合によっては環境部門で評価してもいいんじゃないかとなります。例えば、街づくりNPOとかそういうのもあります。そういうものもこれから全国で起きてきていますが、そういうもので素晴らしいものはちゃんと評価しましょうということになるでしょう。ともかく新しい領域なので、できるだけ沢山の方に応募してもらいたいと。これは建築も含めてです。僕はGマークは非常に大御所的なものが応募されても構わないし、新人賞的なものが出ても構わないと思っているんです。できたてホヤホヤもちゃんと評価していきますので、むしろ気軽に応募していただく対象としてGマークの環境部門は捉えてもらっていいんじゃないかという気がしています。
寺松
例えば街づくりのソフトのような活動に対して賞を出すということですか?
内藤
そうです。基本的にはもうそういうものも、デザインなのだ、と言い切ってしまえばいいと思うんです。基本的にはデザインの概念というのは、あるファンクションがあって、それを日常生活にどうやって翻訳できたかという話だと思うんです。極端なことを言えば、非常に鮮やかな政策手段をうった場合でも、それはデザインと言えなくはないと僕は思っているんです。それは制度を翻訳しているわけですから。ましてやNPOみたいなものっていうのは、NPOを社会のソフトウェアコンテンツと捉えることもできるわけだし。非常にうまくいった場合はそれをデザインと称して評価したっていいじゃないかっていう、踏み込んだ考え方もできると思っています。
寺松
審査委員長が変わると、グッドデザイン賞の印象も少し変わってくるように感じますが、今年のテーマというのは、審査委員長としてはどんなイメージを持っていらっしゃいますか?
内藤
一応、宣言文みたいなものを書きましたが、そこで書いたのは、これからは四次産業のためのデザインが必要だということです。基本的には、一次、二次、三次産業っていうのがあるんだけど、農業も工業もサービス業もあるいはその中間もみんな大事だと言いたいんです。これからはそういう時代になっていくんではないかという気がします。例えば食糧の問題を考えても、一次産業が国の土台であるということは、みんなが認識していることだし、一次産業から二次産業に移ったというような話ではないと。そうすると何が起きてくるかっていうと、それぞれを繋ぎ合せるような、スーパーバイズするような形態が一つの産業になってくるのではないかというのが僕の考え方です。これを四次産業と名付けて、繋ぎ合せるということ、あるいはスーパーバイズするということが、大きい役割になるのではないかと考えたのです。だとすると、そのコアにはデザインという概念がすわるはずだという漠然とした直感があります。これは今日初めて言う話ですが、私は建築家でありながら社会基盤(土木)に所属して、いろんな委員会に出たり、いろんな役割を果たしているわけですが、その時に何をやっているかっていうと、基本的にはスーパーバイズなわけです。土木の人と建築の人の話が通じない時に、こちらとこちらを両方説明する、あるいは両方捉える、あるいは土木と建築と都市計画とを繋ぎ合わせる、飛び越える。そういうスーパーバイズしたり繋ぎ合わせたりというのが、私の身の回りに一手に来ているわけです。そうするとそれはそのまま世の中のことと同じで、いろんな産業間で起きていることとか、これから新しい産業が起きてくるにしても同じことじゃないかと。そこでやっている私の頭の中の仕組みは、アーキテクチャーっていう概念、それはデザインと置き換えてもいいわけです。つまり物事を意思を持って組み立てるアブストラクトな思考をアーキテクチャーと呼ぶとすると、その概念で都市計画を語り、土木の人たちとも接し、建築の人たちとも、デザインの人とも接する。そういう概念としてデザインを捉えれば、この産業と他の産業を結び合わせ、どう調整するか、これもデザインだと思うんです。その結果、物としてのデザインもあるけれど、もうちょっと違った概念のデザインというのもあるかもしれないと。そういうようなイメージで宣言文を書きました。
寺松
最後になりますが、応募者に対して一言何かいただけないでしょうか。
内藤
やっぱり応募は多い方がいいですよ。どんな賞であれ、賞っていうのは、みんなで育てるものだと思っているんです。つまり応募者側と審査する側とのインタラクティブなコミュニケーションの場だと思っていて、その意味では、応募する側が育てるようなつもりが半分くらいないと。半分はそのコンペクティブな場所なので挑戦してもらいたいんですけど、残り半分は「みんなで育てようよ」っていう気持ちになってくれると嬉しい。Gマークもこれまで事実そうやって育ってきたので、引き続きよろしくお願いしたい。できたらGマークという場所はプロダクトやIDやソフトウェア、建築とか都市などそういうとこのムーブメントやあるいはデザインという風にくくれるかわからない境界領域も含めて、最先端のものが集まる場所であるべきだと思うんです。その時代のデザインを見ようと思ったら、Gマークの応募作を見れば大体わかるというのが、基本だと思っていますので、ぜひとも沢山よせていただきたい。で、我こそはという方はぜひとも賞をとっていただきたい。それが僕の希望です。
(2007年4月16日 於:東京大学)
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