日本建築家協会 会長芦原太郎、日本建築士会連合会 会長三井所清典、日本建築士事務所協会連合会 会長大内達史は、「新国立競技場整備計画再検討にあたっての提言」を「新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議」に提出した。
提出先
新国立競技場整備計画再検討のため関係閣僚会議
遠藤利明 議長
菅 義偉 副議長
下村博文 副議長
新国立競技場の整備計画再検討推進室
杉田和博 室長
また、関係する省庁等へも同文の提言を提出する。
提出先
下村博文 文部科学大臣
太田昭宏 国土交通大臣
舛添要一 東京都知事
独立行政法人日本スポーツ振興センター
河野一郎 理事長
新国立競技場整備計画再検討にあたっての提言
私たち建築設計三会は、安倍首相のリーダーシップにより新国立競技場建設計画が白紙撤回されたことを歓迎いたします。景観の問題はじめ、建設コストの肥大化、建設工事の至難さ、工期上のリスクなど、複雑な問題を解決することが可能な最後のタイミングで英断がなされたと考えております。
しかしながら、これから行われるデザインおよび設計、建設工事のプロセスに残された時間は少なく、同様な問題を繰り返すことがあってはならないと危機感を抱いております。私たちは建築の専門職能団体として、この懸念が現実のものとならないように、以下の提言を行うとともに、第三者的立場にある団体として、要請があればできる限りの支援をさせていただきたいと考えております。
[提言の骨子]
1. 設計条件の見直しについては、多目的利用の見直し、競技場昨日の絞込みとともに、費用のかかる地下・低層部分の施設も大幅な縮減をすること。
2. 工期短縮のためには、これまで設計を担当した設計事務所チーム(設計JV)を再招集して、設計の見直しに参加または設計業務を担当させること。なおこの体制で「設計と施工を分離する方式」を採用した場合には今回のオリンピック開催までに間に合うと考える。
3. デザインおよび設計・工事については細部にわたって意思決定をし、それを組織決定として固めるサイクルを迅速に行うために、専門家を加えた実務体制をとるとともに、情報公開を十分に行うこと。
[提言内容]
今回の白紙撤回に至ったきっかけはあまりに高額となった工事コストであると報道されていますが、その原因となったものは単にデザインの新奇さにあるだけではなく、工事の総量が大きくならざるを得なくなるような設計条件の設定であると考えております。
再スタートの際に最初に行わなければならないことは、この設計条件の見直しと共に、その条件の下で最適なデザイン・設計・工事が行われるための枠組み作りと、プロジェクト全体の責任と権限を明確にしたプロジェクトの体制づくりと考えます。見直しにあたっては、商業主義に走らず、品位品格を保つことも重要です。それらに関しまして、私どもの提言を以下に記載いたします。
1 設計条件の見直しについて
設計条件を大幅に見直すことなく、あらたな設計を始めても工事コストと工期のリスクは変わりません。再スタートを機に、これらのリスクを最小化する設計条件の設定をすることが必要です。
1) 多目的利用を想定した施設全体の使用目的を再検証し、要望に優先順位をつけ、必須の機能に絞られた建物とすること(特に開閉式屋根の必要性については見直すべき)。
2) 競技場としての機能をついても、付帯する施設等については大胆に見直しを行い、最小限の施設構成とすること。
3) 交通が集中する東京の中心地にあり、かつ余裕のない敷地特性から、土の搬出などに莫大な費用と工期がかかるため、屋根構造以上にコストのかかる地下部分・低層部分の構造物を可能な限り取りやめ、掘削および搬出土量が最小限となるようにすること。
4) 仮設等工事運営上の経費が過大にならないこと。
2 最適なデザイン・設計・工事が行われるための枠組みについて
1) 設計者の選定について
これまで設計を担当した設計事務所チーム(設計JV)を再招集して、設計の見直しに参加または設計業務を担当させるのが望ましいと考えます。これまでの当施設の設計実務にあたっての多くのノウハウを蓄積した設計JVの活用が、工期の短縮には極めて効果的と思われます。
2) 設計・施工の業務の進め方について
見直しされた設計条件の下に、設計と施工の業務の進め方については、大きく二つの方式が想定されます。
A. 設計と施工を分離する方式
従前の設計JVの知見を活用して最速でデザインおよび基本設計・実施設計を完成した後、施工業者の競争入札を行う方式。
B. 設計と施工を一体化する方式
設計と施工を一体化する方式としましては施工業者の参加のタイミングの違いから大きく二つの進め方が考えられます。
ア)新たな設計条件がまとまった後、デザイン、基本設計・実施設計および施工を一体にしたコンソーシアムを選定する。
イ)基本設計完了時点で、工事の競争入札を行って施工業者を選定する。
私たち建築設計三会は、我が国の優れた設計JVの実力を考えると、Aの「設計と施工を分離する方式」を採用した場合でも、今回のオリンピック開催までには十分間に合うと考えています。
なお、施工業者の技術協力を取り入れるECI方式を再度取り入れることも可能と考えます。
Bの「設計と施工を一体化する方式」では、施設内容と価格の透明性を確保することが難しくなる懸念があるため、発注者の立場で工事内容および工事費の精査を行う専門家にその任に当たらせる等の仕組みづくりが必要です。
3 プロジェクト責任体制について
プロジェクトのヘッドクォーターについては、「新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議」が設置されたことが先般報道されておりましたが、細部にわたって現業レベルの意思決定を行うため、実務レベルでも強固な責任体制をとる必要があります。また、ゆり戻しのない合理的な計画づくりおよび事業者の選択のために、設計および工事・コストの面で豊富な知見を持つ専門家の参画が欠かせないと考えます。
さらに、これまでは、残念ながら開かれた説明体制と国民的合意の積み上げの下に行われてきたとは言いがたいところがありました。建築づくり、特にこのような巨大プロジェクトにおいては関係者が多岐にわたる上に、建築物の機能・内容・工事費・工期が絡み合う複雑なものであり、説明と合意は容易に行い得るものではありません。しかしプロジェクトの再スタートにあたっては、広く国民の理解と支持を得られるだけの公開性と公正性を確保する必要があり、そのための解り易い情報公開体制および問題が発生した際のリスクコミュニケーションの体制を確立する必要があります。私ども建築設計三会は、専門職能団体として、この国家プロジェクトの成功のために、要請があればできる限りの支援をさせていただく所存であることを申し添えさせていただきます。
以上
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