第20回 A.提案部門最優秀者インタビュー
「建築家になるための登竜門的なコンペ」(林拓真さん)
今年で21回を数える日本電気硝子の「空間デザイン・コンペティション」。昨年、本コンペの提案部門で最優秀賞を受賞された林拓真さん(東京理科大学大学院)に、このコンペの魅力と受賞後についてお話を伺いました。
-- 「第20回空間デザイン・コンペティション」に応募されたきっかけをお聞かせください。
林:このコンペには長い歴史があり、過去の受賞者にはその後、建築家として有名になられた方が多くいらっしゃいます。だから「建築家になるための登竜門的なコンペ」というのが学生の認識だと思います。私自身、このコンペに応募するのは初めてでしたが、以前からとても興味がありましたので、同じ大学院だった土屋秀正君、佐々木嶺君とチームで応募することにしたのです。
第20回 A.提案部門最優秀賞
作品名:Nature in the Furniture
林 拓真・土屋 秀正・佐々木 嶺(東京理科大学大学院)
-- 受賞作品についてお聞かせください。
林:昨年のテーマは「ガラスは見えるか、見えないか」というものでした。それまであまり意識したことはなかったのですが、確かにガラスというのはその反射によって結構見えるものだと思いました。そこで「では、見えないガラスというのはどういうものだろうか。また、その存在はどうやって確かめるのだろうか」ということを考えました。するとガラスの面が見えにくいという場合でも、その小口は結構見えてしまうことに気づきました。見えないことが魅力のひとつであるガラスにとって、見えてしまう小口というのはある意味でネガティブな存在だと思ったのです。「このネガティブなものをポジティブに置き換えることはできないか」。そのように考えていくうちに、小口が家具の輪郭を形づくり、それを自然の中に置いて家具の輪郭の中に自然が宿るような風景を提案したいと思いました。最優秀賞をいただいた後、審査委員の先生方の講評を読んだり、直接お話を伺ったりしたのですが、コンペで出されたテーマに対し、ぎりぎりの境界を狙って、そこでいかにリアリティを出すか、ということに焦点を絞ったのが良い結果に繋がったと思いました。
-- 昨年、このコンペを受賞された後、どのような変化がありましたか?
林:ちょうどこのコンペの発表があった頃、私と土屋君はTOKYO DESIGNERS WEEK(以下、TDW)の「憧れの女子部屋」というコンペに参加していました。こちらのコンペは2等までに入るとTDWで実作をつくることができるというものでしたが、残念ながら私たちの案は2等までに入ることができませんでした。ところがTDWの方が「他の作品で実作をつくってみないか」と言ってくださったのです。そこでちょうど賞をいただいたばかりのこの作品を実現したいと思い、主催の日本電気硝子さんやコンペの審査委員だった平田晃久先生の後押しもあり、TDWのコンテナ展で実物を展示することができました。会場で何人もの来場者の方から「空間デザインコンペの最優秀案ですね!」と声を掛けていただいたのは嬉しかったですね。
TOKYO DESIGNERS WEEK コンテナ展 「林 拓真・土屋 秀正」
お二人の「見えないガラス」を使用したこのインスタレーションは、
来場者の注目を集めた。
今春から土屋君は総合建設会社の設計部に、佐々木君は建築設計事務所に勤務しています。私自身も今年、就職活動をする中でこの受賞作品がポートフォリオとしてとても役立ちました。コンペの表彰式の際、日本電気硝子さんのガラス製品「見えないガラス」のサンプルをいただいたのですが、就職活動のプレゼンでそのサンプルを前に説明すると「なるほど!この小口をうまく活かしたね」ととても良い反応をいただきました。
-- 最後に「空間デザイン・コンペティション」について感じられたことをお聞かせください。
林:ガラスというのは透明でシャープで美しく、それでいて「もろくはかない」イメージも宿しています。そこにアクリルなどにはない魅力があると思います。「空間デザイン・コンペティション」は、このガラスという素材に対して学生が向き合える貴重な機会です。毎回、テーマはとても難しいものですが、現代建築を構成する重要な素材であるガラスについて考えられるというのは建築デザインに携わっていく者としてレベルアップできる重要なステップだと思いました。
-- ありがとうございました。