世界の建築は今 No.151

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2018/05/07 18:30

Roy & Diana Vagelos Education Center (New York, USA)

ロイ&ダイアナ・ヴァジェロス教育センター (アメリカ、ニューヨーク)

Design : Diller Scofidio + Renfro&Gensler(Executive Architect)
設計:ディラー&スコフィディオ +レンフロ&ゲンスラー(エグゼキュティブ・アーキテクト)


コラボレーションを育成する“スタディ・カスケード”

建築オタクにとって、ニューヨークのアッパー・タウンというと、やはり著名建築家の作品がひしめくコロンビア大学がまず気になるところだ。今コロンビア大学のメディカル・センターを構成する図体の大きな建築群の中でひときわ目立つのが、注目度抜群の立面形をもつ「ロイ&ダイアナ・ヴァジェロス教育センター」だ。

延床面積約10,000㎡、14階建てのタワーはスリムなガラス張りだが、一見して見たことのないようなユニークな形態が心に残る印象だ。傾斜した外壁、透明なガラス壁面、突き出たボックス群などが、周辺に展開する低層なアーバンスケープに対し、著しい対比を生み出すカウンター・ポイントになっている。

建物は一見自由勝手な形態的をした作品のように見えるが、驚異的なアサンブラージュ表現は、曲折しながら上昇して行くダイナミックな階段の外部表現にある。底部のロビーから最上階まで繋がるヴァーティカル・スペースである階段空間は、“スタディ・カスケード”と命名されたこの「教育センター」の重要なフォーカス・スペースだ。

“スタディ・カスケード”とは、直訳すると“教育の滝”で、要するに建物が「教育センター」であるから、教育という滝が垂直に長く流れる空間という意味。 南面するこのガラス張り階段室は、建物本体より突出しているため、曲折しながら上昇する形態がダイナミズム溢れる印象を与える。

段状のプラザから上昇するこの“スタディ・カスケード“は、上部に行くに従い拡大と縮小を繰り返す。それによりアトリウム的空間を生み出し、エリザベス・ディラーによれば、”界隈性“を備えている。これらの空間は、段状になった着席スペース、ガラスで囲まれた会議室、オープンな集会室、そしてアウトドア・テラスなどになっている。

そこは医学部の学生たちにとっては社交的な場であり、勉強しリラックスする場所でもある。外部に目を向ければ、ニューヨーク市街をはじめ、ハドソン川やその向こうのニュージャージーの景観を楽しめる。逆に通りから見ると、ジグザグ状のサーキュレーション・ルートは、日が落ち照明が点灯して内部空間が浮き上がると、ダイナミックに積層された空間が迫力を増す。

タワー部分の建築面積は1,160㎡だが、これが上階では557㎡に圧縮される。このため必要とされる教育スペースや管理スペースは、許容ゾーニング範囲内のフレームに圧縮されている。そのためアメニティやパブリック・スペースは減少を余儀なくされている。

最新式の解剖学ラボや275席のオーディトリアムなどの傍らを縫うように曲りくねり上昇する垂直動線は、タワーの約半分を占有している。その北側の半分には、基本的な組織が収容されている。すなわちオフィス、教室、ハイテク・シミュレーション・ルームなどだ。 

建物は重量を減らすためにファサード・ガラスと接するスラブには、空(から)のプラスティック・ボールをコンクリートに埋め込んだヴォイド(中空)・スラブを使用したアメリカでも数少ない建築で、特にポストテンションで用いたそれはアメリカで初めてという。

コロンビア大学キャンパス北端に聳えるこのランドマークは、エリザベス・ディラーによれば、「空間は組織化された非形式的な教育にとっては非常に重要です。コロンビア大学の先進的医学教育プログラムをサポートするために、私たちはコラボレーションを育成させる建築をデザインしました。それは14層に渡ってリンクされたサイズの異なる空間群、すなわちフォーカス的で社会的であり、プライベート的かつコミューン的であり、インドアでありアウトドアでもあるという、決定的な特徴をもつ“スタディ・カスケード”です」。


[図 面]

 

[建築家]


右よりディラー、スコフィディオ、レンフロの各氏

ディラー・スコフィディオ+レンフロ略歴
1979年 エリザベス・ディラーとリカルド・スコフィディオにより、ニューヨークにディラー・スコフィディオ・アトリエを設立。
1997年 チャールズ・レンフロが加わりディラー・スコフィディオ+レンフロと改称
1999年 マッカーサー・ジーニアス賞
2003年 ブルンナー賞
2004年 チャールズ・レンフロがパートナーとなる
2005年 ナショナル・デザイン賞
2013年 ローマ・アメリカン・アカデミー100年記念名誉メダル
2016年 ナショナル・デザイン・アカデミー生涯業績賞(エリザベス・ディラー)

 
■代表作

代表作に、アリス・タリー・ホール改修、ジュリアード・スクール増改築、アメリカン・バレー学校増築、ニューヨーク州立劇場改修、ハイライン、ブラウン大学クリエイティブ・アーツ・センター、ボストン現代美術協会、岐阜県営住宅ハイタウン喜多方エリザベス・ディラー棟、スイス・エクスポ02パビリオン(現存せず)、MoMA増築、ザ・ブロード・ミュージアム、バークレイ・アート・ミュージアム&パシフィック・フィルム・アーカイブ、コロンビア大学医学センター教育ビル&コロンビア・ビジネス・スクール、コパカバーナ・イメージ&サウンド・ミュージアム、スタンフォード大学美術&美術史ビル+カルチャー・シェッド、Dタワー集合住宅、ハイライン公園、ザ・ブロード美術館、ロイ&ダイアナ・ヴァジェロス教育センターなど。

Photos: ©Iwan Baan
Photos and Material: Courtesy of Diller Scofidio + Renfro