世界の建築は今 No.148

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2018/02/07 10:30

New Rome EUR Convention Center & Hotel (Rome, Italy)

ローマEUR新コンベンション・センター&ホテル (イタリア、ローマ)

Design : Massimiliano & Doriana Fuksas
設計:マッシミリアーノ&ドリアナ・フクサス


巨大空間に浮かぶクラウド・オーディトリアム

ローマのEUR(エウル)といえば、ムッソリーニが1942年開催予定のローマ万国博覧会に向けて1935年より建設を始めた新都心として、建築的には世界的に有名だ。アダルベルト・リベラ設計の「EUR会議場」をはじめ、巨大な合理主義建築がゆったりと配置されている。そこに過去50年間ではローマ最大の建築が、イタリア建築界の巨匠のひとり、マッシミリアーノ・フクサスによって設計された。

「ローマEUR新コンベンション・センター&ホテル」は、239万ユーロの巨費と、計画から完成まで18年の歳月をかけたスーパー・プロジェクトだ。ローマ市に年間300ー400万ユーロの利益をもたらすという。延床面積55,000㎡の建物にはコングレス・センターをはじめ、複数のオーディトリアム、展示スペース群、ホテルを内包している。

建物はEURのビジネス地区の南側に位置し、1930年代のラショナリスト建築群に直交するシンプルな配置を取っている。「コンベンション・センター」を取り巻く周囲には、ふたつのパブリック・スペースがある。これらの広場は、ローマにおけるビジネス繁華街にあって、市民に対し多種のレジャーや外部アクティビティの場を提供している。

この施設はフクサスが“Theca(テカ)”と名付けた巨大なガラス張りのスクエアな建築と、高層のホテル棟で構成されている。テカとは解剖学でいう日本語の莢膜(きょうまく)で、卵巣の卵胞膜や精髄を包むさやを意味する。フクサスはこの建築内部にあるふたつの大きな機能空間――コングレス・センターと“クラウド”と呼ばれるオーディトリアムを包み込んでいるという意味で、この言葉を使用しているようだ。

テカは長さ175m、幅70m、高さ39mのスティール&RCの巨体。1階にある7,500㎡のパブリック・スクエアであるフォーラムに入ると、巨大な雲のような物体が空中に浮かんでいる。この驚異的な空中に浮くシーンとの遭遇は圧巻の迫力。建築とは思えない軽い印象を与えるクラウドは、スティール・ストラクチャーを高度なグラスファイバー・メンブレン+難燃性シリコンで覆ったものだ。

施設全体のデザイン的フォーカスとなるのがクラウドであるのは言うまでもない。コクーン(繭)形をしたクラウドの内部には、1,800席をもつオーディトリアムが座している。1階のフォーラムからはエレベーターやエスカレーターで3階のクラウドへ着くが、そこからオーディトリアムへは不思議な雲の中のような通路を歩く感じでアクセスする。オーディトリアムは3層で、全体は桜材で覆われている。

テカの内部にあるもうひとつの大空間は、地下にあるコングレス・センターだ。クリストフォロ・コロンボ通り側からの大階段で直接地下へアクセスすると、メイン・ホワイエへ至る。大きなコンコースを通り行き着くのが、7,800㎡の広さで6,000席を有する、これまた巨大なコングレス・スペース。

ガラス張りの”ブレード“と呼ばれる薄く長い形状のホテルは独立して建っており、17階建て439室。この施設やローマを訪問したビジターのための宿泊施設となっている。18,000㎡の延床面積をもつホテルには、また7室のブティック・スイーツや、スパ、レストランがある。

何から何まで巨大な施設には、エッフェル塔の4.5倍のスティール37,000トンが使用され、ガラスはサッカー場10個分の58,000㎡が使用された。完璧な耐震性をもち、ソーラー発電、自然換気、雨水利用など、サステイナブル・デザインも十全である。

「ローマ EUR 新コンベンション・センター&ホテル」は、世界の新しいコンベンションのメッカとなるべく開発された。それは歴史都市ローマのアーバン・ファブリックにおける、不可欠のランドマークにもなった。


[図 面]

 

[建築家]


Portrait:©Gianmarco Chieregato

■マッシミリアーノ・フクサス略歴
1944年 イタリア、ローマ生まれ
1969年 ローマのラ・サピエンツァ大学建築学科卒業
1969-88年 アンナ・マリア・サッコーニと協働で事務所を開設。
数々のプロジェクトを完成させ、イタリアおよびフランスで知られるようなり、パリにもオフィスを開設
1989-93年 フランス・アカデミー会員
1999年 フランス建築グランプリ受賞
2000年 フランス文芸賞受賞
第7回ヴェニス・ビエンナーレ2000建築部門のディレクターを務める
2002年 アメリカ建築家協会名誉会員
2003年 ソフィア国際建築アカデミー名誉会員
2006年 RIBA名誉会員受賞
2007年 ヨーロッパ・ショッピング・センター賞受賞
2009年 ミラノ・トリエンナーレ金賞受賞
2011年 イグナチオ・シローネ国際文化賞
2012年 ウォールペイパー賞
2014年 アーキタイザーA+Award賞

■ドリアナ・フクサス略歴
ローマ生まれ
1979年 ローマのラ・サピエンツァ大学で近代・現代建築史学科を卒業。
さらに同大学建築学科へ進む。その後パリの建築専門学校(ESA)を卒業
1985年 マッシミリアーノ・フクサスと協働
1997年 フクサス・デザインを統括
2000年 第7回ヴェニス・ビエンナーレ2000建築部門のキュレーターを務める
2009年 ミラノ・トリエンナーレ金賞受賞
2011年 イグナチオ・シローネ国際文化賞
2012年 ウォールペイパー賞
2014年 アーキタイザーA+Award賞

 
■代表作

主な作品に、スポーツ・コンプレックス+パーキング、グラフィッティ・ミュージアム、ミシェル・ド・モンテーニュ大学アート・ハウス、ウィーン・ツイン・タワーズ、ナルディーニ・リサーチ&マルチメディアセンター、ユーロパーク1、ユーロパーク2、ミラノ見本市会場、アルマーニ銀座、ストラスブール・ゼニス・コンサートホール、ペレス平和センター、アルマーニ4番街、ミッツァイル商業コンプレックス、サンジャコモ教区コンプレックス、パラティーノ・センター、リヨン・コンフルエンス、フランス国立アーカイブ、ビジネス・ガーデン・ワルシャワ・ホテル、深セン国際空港第3ターミナル、ローマEUR新コンベンション・センター&ホテルなど多数。

Material : Courtesy of Massimiliano Fuksas Architetto