世界の建築は今 No.145

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2017/11/02 10:00

WIPO Conference Hall (Geneva, Switzerland)

WIPOカンファレンス・ホール (スイス、ジュネーブ)

Design : Behnisch Architekten
設計:ベーニッシュ・アルキテクテン


木造キャンティレバーで浮遊する木製会議ホール

1978年にWIPO(World Intellectual Property Organization=世界知的所有権機関)がスイスのジュネーブに設立されてから来年(2018)で40年になる。13階建ての湾曲したメイン・タワーは、今やジュネーブの建築的ランドマークだ。ジュネーブの建築家ピエール・ブレアーの設計による「WIPOタワー」は、サファイア・ブルー・ガラスに身を包み、移り行く空模様を反映させて素晴らしい。

WIPOキャンパスはジュネーブにある国連本部地区にあり、長期に渡って種々の建築スタイルで建物群が建てられてきた経緯がある。新しい「WIPOカンファレンス・ホール(会議ホール)」は、現代的なガラス・カーテンウォールがある透明感溢れるような建物ではなく、むしろ壁に包まれて低く大地に根を下ろした印象だ。建物はかなりヴォリュームがあり、外壁の感じからすると少し暗めの印象だが、内部は明るくアプローチしやすい特徴がある。

建物の特徴は、中心部あたりから東西両方向へ向けて建物が延び、特に東側へは長いキャンティレバーとなり、各々の先端部にはスイスの風光明媚な景色を取り込む開口部がデザインされた。延床面積5,800㎡の建物は敷地(WIPOガーデン)にあるふたつの建物の間に、彫刻作品のよう形態と平面形をもって配置されている。ロビーはガーデン・ランドスケープの延長であり、キャンティレバーゆえに建物に浮遊感を与えている。

会議ホールは2階と3階を占め、WIPOからの特殊な要求には最適解を反映させたデザインとなっている。最先端の装備をした900席は、温もりのある明るい木製空間に展開し、3方向から上部に開口部をもつステージに向けて下降し収束している。ホールは西側の先端部にある開口部と、前述のステージ上部の北側開口部からの採光に加えて、トップライト群からの採光で均質な自然光に溢れた会議空間となっている。

建物はほとんどが木造だが、特に東側は30mにも及ぶキャンティレバーで突出している。WIPOの新しい「会議ホール」は、建築的に馴染みかつ構造的に適切な建物として、クライアントの要望にマッチしており、現代の木構造における新しい次元を開発したとして評判だ。

建物は建築家、構造エンジニアリング・プランナー、環境エンジニアの緊密な協力のもとに、彫刻的デザイン・コンセプトが開発され、木構造のパイオニア・プロジェクトとしてこの「会議ホール」に採用された。ベーニッシュ・アルキテクテンはすでに2011年に、WIPOの管理ビルをタワーの近くに建てており、900人を収容する会議ホールは、タワーとこの管理ビルの間に建てられた。

デザインの初期段階から、木材はWIPOのデザイン・クライテリアに最も適合した性質の材料と考えられていた。木材は大スパンのビームから小スケールの、例えば唐松シングル葺きのファサード・クラッディングまで、そのフレキシビリティゆえに使用された。実際建物に使用された木材はスイス産だが、構造的物理性や耐寒性を考慮して、再生可能な自然材を使用したいという観点から基本的に針葉樹が使用された。

ホールそのものもインテリアはローカルな木材が使用されており、非常に居心地の良い内部環境を形成している。さらに昼光の巧みな導入と相まって、空間のクオリティが高められている。ウッド・シングル葺きの建物はともすれば暗くなりがちだが、開口部のデザインを強調することによって明るさが意識され、一番大きな開口部からはフランス・アルプスやモンブランの秀峰を遠望できる素晴らしさだ。

ベーニッシュ・アルキテクテンはドイツのシュトゥットガルトを拠点に活躍する建築家集団で、シュテファン・ベーニッシュが代表を務める。彼は、1972年の「ミュンヘン・オリンピック・スタジアム」コンペに、構造家フライ・オットーと組んで勝利したドイツ建築界の巨匠ギュンター・ベーニッシュの息子で、父の死後パートナー制を組んで世界的に活躍している。


[図 面]

 

[建築家]


©David Matthiessen 
(右端)シュテファン・ベーニッシュ

■シュテファン・ベーニッシュ略歴
1957年生まれ  
1977-1979年 ルートヴィヒ・マクシミリアン大学で経済と哲学を学ぶ
1981年 アッカーマン&パートナー勤務
1984-1985年 米国ステファン・ウーリー&アッソシエイツのインターン
1987年 カールスルーエ大学建築学科卒業
1987-1989年 ベーニッシュ&パートナー(シュトゥットゥガルト)勤務
1989年 シュトゥットゥガルトにベーニッシュ・アルキテクテンを設立
1997年 ブルガリア国際建築賞銀賞
2004年 『アーキテクチュラル・レビュー』誌MIPIM未来プロジェクト賞
2005年 LEEDプラチナム賞、RIBA世界賞
2006年 『アーキテクチュラル・レコード』誌ビジネス・ウィーク賞
2010年 RIBA国際賞
2012年 LEEDプラチナム賞
2014年 AIAロサンゼルス・デザイン賞
2016年 ミュンヘン・メトロポリタン建築文化賞

 
■代表作

主な作品に、北ドイツ・ランデスバンク、世界LVA本社、セント・ベンノ体育館、オゼアネウム、テレンス・ドネリー・センター、ゲンジム・センター、スマート・ハウス・オルデンブルク、サーマル・レーマーバッド、ワケニンゲン森林&自然研究所、モンテソリ・スクール・スポーツホール増築、バード・アイリング市庁舎、コルバームーア市庁舎、図書館&教育センター、サンタ・モニカ市駐車場、バルチモア大学ジョン&フランセス・アンジェロス法学センター、コルバームーア・ロフトハウス、子供デイケア・センター、ユニリバー本社、マルコ・ポーロ・タワー、WIPOカンファランス・ホール、ドロシーン・クォーター、スポーラー通り拡張リノベ、など多数。

Photos and Material: Courtesy of Behnisch Architekten